映画評「息もできない」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2009年韓国映画 監督ヤン・イクチュン
ネタバレあり

凄まじい暴力と悪態が連続する韓国インディ映画である。

年上の友人チョン・マンシクの営む取立て屋で仕事をしているチンピラ青年ヤン・イクチュンは、家庭内暴力で妹と母を死に至らしめ刑期を終えて出て来た父親を許せず、常に暴力を振るう。それだけでは内にくすぶるイライラを抑えきれず、手当たり次第暴力を繰り出す感じだが、乱暴な扱いながら異母姉の息子(キム・ヒス)を可愛がり始める。
 同時に、たまたま唾をかけてしまった女子高生キム・コッピが怖がりもせずに絡んで来たことから恐らくシンパシーめいたものを覚えて気持ちに変化が生じ始め、取立てを止めることを決意するが、最後の日に債務者に優しさを見せたことから子分で実はコッピの弟イ・ファンに撲殺されてしまう。

激しいだけの作品ではなく、作りもなかなか巧妙で、まず主人公の異様なまでの暴力傾向を見せ、それは何故なのかと観客の興味を喚起する。そして、疑問はすぐに解明される。次に普通そうな女子高生が怖そうなチンピラに恐れず向かっていく様子を見せ、これまた何が彼女をそうさせるのかと観客に興味を起こさせ、同様にベトナム戦争帰りでぐうたらな父親と学校も行かず働きもしないで金をせびる弟の存在が背景にあることを提示する。

かくしてその二組が絡み合って主人公が家庭というものに何か―幸福か生きがいか―を見出した時イに殺される。コッピは町で激しい取り立てをしている弟にヤンの面影を重ね合わせる。これは悲劇の予感でもあり、楽観的に考えれば或いはいつか彼のように家庭に戻ろうとすることになる暗示なのかもしれない。

主演をしているヤンが自ら書き起こした脚本を映像化した力作で、根底には韓国における父親の暴力に対する怒り、さらに突きつめれば彼らを暴力に向わせる韓国社会制度への怒りがある。若い監督が映画を作りたくなったモチーフが鮮やかに浮かび上がっている。

暴力の扱いは全く逆ではあるものの、主演のヤンが脚本・監督を担当しているということもあり、同じようにヤクザの家庭への回帰をテーマに金子正二が脚本を書いて主演も果たした(直後にガンで逝去)佳作「竜二」(1983年)を思い出さすにはいられなかった。

「竜二」が山葵なら、こちらは唐辛子でしょうか?

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この記事へのコメント

2011年04月02日 14:07
オカピーさん、こんにちは。いつもTBありがとうございます。
実は私も、この映画のラストシーンで『竜二』を思い出しました。
お肉屋さんのセールに並んでいる妻を見て踵を返す竜二と、弟にヤンの面影を見て真実を知る(と私は感じました)コッピ。
全く違うシーンなのですが、根底にあるものが似通っていますよね。
この映画、大阪では何度もリバイバル上映されています。もう一度、スクリーンで観たいと思いつつ。。
2011年04月02日 15:54
こんにちは。
すばらしいドラマツルギーを内包していました。
日本では、竜二でしょうね。悲劇性は共通しています。
オカピー
2011年04月03日 00:31
真紅さん、こんばんは。

コメントをする余裕がなくてTBだけで済ませています。すみません。

どこの国の作品も大袈裟になるに反比例してつまらなくなっている時嬉しい作品でした。僕はどちらか言うとセミ・ドキュメンタリーは嫌いなんですが、そういう枠では語れない凄みがありましたね。
「竜二」を思い出す人が何名かいらっしゃるのを知って、これまた嬉しくなりました。

>弟にヤンの面影を見て真実を知る(と私は感じました)コッピ
鋭いです。その解釈がピッタリ来ます。尊敬しちゃうなあ^^

>大阪
真紅さんは関西の方ですか。
僕は現在群馬に住んでいるので、TVにもう一度出るのに期待するしかないですね。
オカピー
2011年04月03日 00:41
kimion20002000さん、こんばんは。

>悲劇性
「殴る者は殴られるとは思わない」というこの作品の台詞が逆説的に響くように、暴力をふるってきた者はいつか暴力に倒れることになる宿命なんでしょうね。
2011年05月08日 12:28
オカピーさま

間違いトラックバックすみません! 隣の記事から打ってしまったみたいですね…。お恥ずかしい (´・ω・`)
再度TBさせていただきますので、間違いの方は消してください。
すみませんが、よろしくお願いします。

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