映画評「三人の妻への手紙」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1949年アメリカ映画 監督ジョゼフ・L・マンキーウィッツ
ネタバレあり

戦後すぐに頭角を現した名監督ジョゼフ・L・マンキーウィッツがアメリカ映画を語る時に避けることができない傑作「イヴの総て」の前に作った話術映画の秀作である。

小旅行に出る為に集まった仲の良い三人の人妻がもう一人の友人アディから乗船前に「あなたがたの夫の一人と駆け落ちする」という手紙を受け取り、夫々「自分の夫ではないか」と心穏やかでなくなり、その理由が回想形式により明らかになる。
 まず若妻ジーン・クレインは田舎出身であることを恥じ、自分に自信がない。ラジオ放送作家アン・サザーンも番組のスポンサーを迎えた時夫婦間が気まずくなったことを思い出し、出かける前夫カーク・ダグラスが休日なのに背広を着ていたことが気にかかる。
 この二人に関しては事前にその理由が解るという形式を取り、もう一人のリンダ・ダーネルに関しては結婚する前から手練手管で夫ポール・ダグラスを落とした経緯からその理由に焦点が合って行く。

一言で言えば三組の夫婦の様相を描いているだけだが、構成の鮮やかさに圧倒される。手紙が池に投げ込まれる石の役目を負ってお話が始まる構成は特別ではないにしても、回想の切り口・扱いを最初の二人と最後の一人とで変えたのは非凡で、話をかき回すアディの姿を見せず(後姿だけ少し)ナレーション兼狂言回しに留めたのは映画として上品この上ない。

現在の映画に通底するミステリー仕立ての語り口が大変面白いわけだが、細かいところで僕が感心したのは手紙を受け取った三人が近くに見える公衆電話ボックスを注視しながらプライドに邪魔されて素通りしていく小シークエンスで、こういう気の利いた面白さは長い映画史の中でもありそうで余りない。ここだけでも本作を観る価値がありそうな気がする。落ちも秀逸。

ナレーションの使い方が昨今の作品よりお上手です。

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この記事へのコメント

十瑠
2011年03月10日 07:03
既にコメントもいただいている5年前の記事、TB致しました。
読み返すとストーリーを追っているばかりで、備忘録にしかなってないですけどね。^^

そもそもアディは何の為にわざわざ手紙を書いたのかが腑に落ちなくて、単に<手紙が池に投げ込まれる石の役目を負って>いるという構成は、ある意味洒落てますが、作意が見え透いて、僕のような天邪鬼には減点対象になってしまいます。
『あんた、そんなつまらないこと考えない方がいいよ』と、淀川さんには言われそうですが・・・。
シュエット
2011年03月10日 11:11
おはようございます。
これなども、リメイクされたらリメイク作品にきっとゲンナリさせられるでしょうね。
船に乗る寸前では彼女達のプライドが勝っているけど、そのプライドが次第に崩れていく様もなかなかに面白い。
私はみていて「愛」という言葉を登場させずに、三組の夫婦それぞれの愛の有り様をみごとに描いているのが見事だなって思った。
やっぱり品がありますね。今回観ていてもつくづくそう思いました。
オカピー
2011年03月10日 22:55
十瑠さん、こんばんは。

>既にコメント
すっかり忘れておりました。^^;

十瑠さんは、恐らく僕より多少リアリズム重視なのだろうと思いますが、

>アディは何の為にわざわざ手紙を書いたのかが腑に落ちなくて
というのは尤も。お話の為のお話という感じではありますね。
僕は最初から話術映画として観たので、さほど気になりませんでしたけど。演劇みたいな感じでしょうか。

>淀川さん
仰りそうですね。^^
オカピー
2011年03月10日 23:04
シュエットさん、こんばんは。

>リメイク
元来現在の映画と通底する話術映画ですから、比較的リメイクしやすいでしょうが、もっと説明的になるんじゃないかなあ。
昨今作られた映画と何が違うかと言えば、話術を別にしてもきちんと面白い作品になっていることだと思います。手紙を話の起点とし、三人の人妻を独立して描く“話術”は、次はどうなるかというサスペンスを生みだす二次的要素なんでしょう。

>「愛」という言葉を登場させずに・・・愛の有り様
僕もそう感じましたねえ。
浅野佑都
2020年09月22日 11:07
 カーク・ダグラスも今年鬼籍に入りましたが、まだ彼がブレイクする前の久しぶりに鑑賞したこの作品、プロフェッサーもご記憶に留めていると思います・・。

アメリカ型消費社会が基盤を整える50年代目前の作品でして、すでに、サバービアの退屈な主婦の悩みや、キャリア志向の妻とインテリジェンスはあっても低収入な夫の確執など、現代に通ずる問題が出てきて興味深い・・。

上で、十瑠さんも言われていますが、僕も最初は、姿を見せぬヒロインがわざわざ手紙を書いた理由に思い至りませんでした・・。
が、再鑑賞してやはり、女性というのはつくづくプライドと共に生きているのだなぁ・・と・・。

僕ら野郎は、異性の視線が無ければ、ネクタイの柄にすら気にしないけれど、女性は、ゴミ出しに行くにも眉を整えてからでなければならない(笑)

この映画は冒頭から、女性同士のプライドから(手紙も)端を発しているわけですね・・。

>もう一人のリンダ・ダーネル

西部劇で、よくメキシコ女のメイクで男に艶を振りまくリンダ・ダーネルにお目にかかりますが、本作では普通のアメリカ人女性風(笑)化粧で変わりますね、女は!

>落ちも秀逸
最後に、女と男のプライドに愛が勝る筋書きが良いです
オカピー
2020年09月22日 21:17
浅野佑都さん、こんにちは。

この投稿の前にある「オーメン」の名無しさんは、浅野さんでしょうか。何だか混沌としているようなので、整理して戴ければ助かります。

>カーク・ダグラス

三桁まだ生きるとは、長生きでしたねえ。オリヴィア・デハヴィランドも相当の御長寿。オリヴィアの家系は親からして長生きして、妹さんも長生きでした。

>姿を見せぬヒロインがわざわざ手紙を書いた理由に思い至りませんでした
>女性というのはつくづくプライドと共に生きているのだなぁ・・と・・。

お話の為のお話という感を否めない設定でしたが、浅野さんの仰るように、プライドの為せる業なのかもしれませんね。
浅野佑都
2020年09月22日 22:24
オーメンにコメント入れておこうとしたら、面白そうな方が採点されていたので遠慮しましたが(笑)
エクソシストは大好きですが、オーメンはイマイチ好きじゃないですね(笑)

長生きの家系

「大地」のルイーザライナーもすごく長生きでした!
オカピー
2020年09月23日 18:51
浅野佑都さん、こんにちは。

そうですか。放っておくしかないですかね。

>「大地」のルイーザライナーもすごく長生きでした!

確かにそうですね。
 俳優ではないですが、ポルトガルの監督マノエル・デ・オリヴェイラは満106歳で没。百歳を過ぎて現役でしたね。日本の新藤兼人は満100歳没ですが、数年長くいきれば100歳を過ぎて作品を作ったでしょうね。

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