映画評「ファニーとアレクサンデル」

☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1982年スウェーデン映画 監督イングマル・ベルイマン
ネタバレあり

イングマル・ベルイマンが当時“最後の劇場用映画”と宣言した渾身の大作で、正に悠揚迫らぬタッチ(これ以外にぴったり来る表現が見当たらないのでallcinemaの表現を借りました)で5時間11分を見せ切る力量に改めて脱帽するのみ。四半世紀前映画館で観た時、これだけ長い作品にも拘らず上映中は勿論インターミッションで出て行った人が誰もいなかったのを憶えている。

20世紀初頭のスウェーデン、富裕な劇場主オスカル(アラン・エドワル)は劇団の女優でもある妻エミリー(エワ・フレーリング)、長男アレクサンデル(べルティル・グーべ)、長女ファニー(ベルニラ・アルウィン)とキリスト降誕劇を終了した後、母ヘレナ(グン・ウォールグレン)や兄弟夫婦を囲んでのホームパーティーを例年通り開く。
 翌年オスカルは病に倒れて間もなく他界し、劇場を引き継いだエミリーは経営不振で劇団から退き、相談相手の主教(ヤン・マルムシュー)の求婚を受け入れ、子供を連れ主教館に移る。幽霊を観ることができる繊細なアレクサンデルは主教の偽善を見抜き、ひどい折檻をくらわせる主教の死を願い、エミリーの連絡によりヘレナの昔の恋人でユダヤ人質屋イサク(エルランド・ヨセフソン)が一計を講じて監禁されている子供たちを救出する。

オスカルの死去から主教の悪魔的な頑迷さから三人を救おうとする一族の策略まで続く一連のシークエンスはエモーショナルかつサスペンスフルで断然面白く、そこに父親の霊などベルイマンならではと言おうか北欧映画らしい神秘主義的な描写が加わり、他に類のない興趣を生み出す。

エミリーが家を出る為に睡眠薬を飲ませた主教は眠っている間に病気の叔母が起こした火災で死に、彼女は再び劇団をやり始める。というのが終幕で、この主教の偽善・頑迷さの徹底した描写には牧師の家に生れたベルイマンの自伝的要素が投影され、神の否定というよりは宗教家への嫌悪が色濃く反映されている。

北欧らしい柔らかな光線と厳しくも美しい風景を余すところなく、三代に及ぶ家族の絆が豊かに織り成すドラマに投じているところはさすがベルイマンと撮影監督スヴェン・ニクヴィストの名コンビと言うべし。

そこに音楽を加え、正に映画が総合芸術であることを証明した大傑作。

ベルイマン組の常連は余り出ていないけれど、誰を起用してもベルイマンは凄かった。

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この記事へのコメント

シュエット
2011年03月03日 16:44
これは映画感想を書くまでには至っていない。
オカピーさんが書かれているように5時間以上という長さにもかかわらず、この一家の物語に引き込まれていく映像の力は凄いなって思う。
人形劇のシーン。ベルイマンの子供の頃の思い出のシーンでもあるんでしょうね。イギリス映画でもなく、イタリア映画の趣とも違う、北欧の透き通った空気さえ感じる。
私もこんど再鑑賞したら、その時は頑張って感想書こうかしら。
オカピー
2011年03月04日 11:56
シュエットさん、こんにちは。

最後の劇場用映画と書いたものの、5時間11分バージョンは実はTV用をまとめたものですが、これを半分にした世界公開版よりずっと面白い。日本ではベルイマンが人気があるので、こちらを公開したらしいですね。

北欧映画特にスウェーデン映画は、厳粛ですね。ベルイマンがいるから余計そうなんでしょうが、他の監督の作品を観てもやはり共通するムードがあり、イタリアやスペインの映画とはまさに対照的。イタリア映画でも昨年観た「湖のほとりで」は北欧的な厳しさがあってびっくり、イタリア映画にも新たな可能性が出てきたなと感心させられましたが。

本作の場合は、細かなことを書くより、全体的にどういう映画なのか書きました(いつもそうですが、これは余計に)。そういうところを越えた境地にある作品という気がしましたね。

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