映画評「脳内ニューヨーク」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2009年アメリカ映画 監督チャーリー・カウフマン
ネタバレあり

「マルコヴィッチの穴」以降変てこな作品を発表し続けている脚本家チャーリー・カウフマンが、自らの脚本で初めて監督に挑戦した作品である。

ニューヨークの人気劇作家ケイデン(フィリップ・シーモア・ホフマン)が、彼の作品に不満を覚える芸術家の妻アデル(キャサリン・キーナー)と子オリーヴにドイツへ出て行かれてしまい、劇場の受付嬢ヘイゼル(サマンサ・モートン)を心の支えにするが、妻への思いがしがらみになって一歩踏み込めない為彼女は別の男性に走る。
 やがて名誉ある賞を受賞して大金が入った為自分たちを主人公にした新タイプの演劇を始め、妻役の女優クレア(ミシェル・ウィリアムズ)との間に子供も儲けるが、現実と作られたもう一つの現実間を往復しているうちに時間がどんどん過ぎ去り、気付いた時に知っている者は全てこの世を去り彼自身も死期を迎える。

難解であるというのが専らの評判。僕もよく解らなかったものの、なかなか興味深い。

どうも僕は創作についての創作作品が好きなようなのである。ピランデルロの戯曲「作者を探す六人の登場人物」、カウフマン自身の旧脚本作「アダプテーション」やマーク・フォースターの秀作「主人公は僕だった」での興奮は未だに忘れられない。
 つまりはメタフィクション的興味で、本作でもケイデンが役者(ダイアン・ウィースト)の代わりに錠を開けようとした時に彼女から「観客との壁を破るつもり?」と放たれる台詞にニヤニヤ。壁即ち【第四の壁】つまり“舞台(スクリーン)上で演じられていることは舞台(スクリーン)上の現実であって観ている間は無粋に突っ込むべからず”という観客との約束事を強く意識してカウフマンが作劇していることが実に嬉しい。
 で、内容故にケイデンを演じる役者(トム・ヌーナン)が登場、さらに合せ鏡状態になって“ケイデンを演ずる役者”に扮する役者が出て来るに至り、メタフィクションならではの面白さがピークに達する感がある。

結論としては「アダプテーション」の人を食った面白味には届かないものの、あの作品が小細工の面白さに終わった感があるのに比べ、入れ子構造という細工の中に人生を探求しようという意欲が強く感じられる分作家として一段の進境を見せていると思う。人生は舞台であり、人は各自その主役を演じているという、人生を肯定するような結論が打ち出される終幕に僕はじーんとしてしまったのだ。

最初からこの映画には現実なんてなかったと思った方が解りやすい。

この記事へのコメント

2011年02月10日 01:43
こんにちは。
この映画は、3回見ても、ちょっと複雑な入れ子構造がわからないですね。
たぶん、シナリオをチャート化して、三次元マップをつくれば、なるほどと思うでしょうね。
ともあれ、映画は幻想の時間。こういう映画は、嫌いじゃないですね。
オカピー
2011年02月10日 16:08
kimion20002000さん、こんにちは。

>複雑な入れ子構造
そうですね。
面倒臭いから全部非現実と一応解釈しちゃおうと思っています(笑)が、主人公が初めて老婦人から鍵を渡される場面は“現実”ではないようです。彼を「エレン」という女性名で呼ぶなんて考えられませんから。

>三次元マップ
解らないなりに考えてみたくなる面白さがありますね。解らないので途中で放り出してしまう映画もありますけど(笑)。
2011年02月10日 18:21
>最初からこの映画には現実なんて
なかったと思った方が解りやすい。

なのでございますね~(笑)
世評があまりにも“ぶん投げられ”状態(笑)
なものですからDVD棚の前を行ったり来たりした
(実はカウフマン少々苦手でございます・笑)
のですが今となれば記事あげたわけですから
私なりに楽しめたのですわね。^^
もう一度観なさいと言われましたら
もう一度観てもいいと思いますよ。(笑)

閑話休題。
きのうウディ・アレン最新作「人生万歳!」鑑賞。
ヒロインが「ダイアナの選択」のあの女優さんに
変わり私は彼女を応援してますから大満足。
アレン節を語る主役男優もなかなか味があって
ますます皮肉たっぷりなアレン作品元気でした。
WOWOW放映お楽しみに!
オカピー
2011年02月11日 00:17
vivajijiさん、こんばんは。

>カウフマン少々苦手
創作の為の創作という入れ子構造が僕のような変な人間は楽しめますが、映画から現実をくみ取りたり方にはダメかな。
カウフマンでは断然「アダプテーション」がお気に入り。日本で多分一番世評の良い「エターナル・サンシャイン」は余りピンと来なかったというのが実際です。あっ、僕のことはどうでも良いですね、すみません。<(_ _)>

>もう一度
あはは。
もう一度観たら気に入ってしまうかもですよ。(笑)

>ウディ・アレン最新作「人生万歳!」
何だか面白そう。来年の今頃観られると良いですねえ。
>あの女優さん
マスク的にかなり好みです。^^

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