映画評「サヨナライツカ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2009年韓国映画 監督イ・ジェハン
ネタバレあり

主な出演者が日本人である韓国映画とは知っていたものの、日本映画と言われればそのまま通る異色作である。始まって30分くらいして「冷静と情熱のあいだ」に似た雰囲気だなあと思って観ていたら、原作者が同作の原作を書いた辻仁成であった。僕の勘もまだ完全には腐ってはいなかったか(笑)。

画像

1975年、小さな航空会社の営業マン西島秀俊が婚約者の石田ゆり子を日本においてバンコクへ転勤、そこで素晴らしい業績を上げる一方、同地オリエンタル・ホテルで豪遊している美女・中山美穂と懇ろとなり、恋愛を遊びのように考える彼女とその正反対の婚約者との間に揺れながらもゆり子嬢と結婚する道を選ぶ。
 25年後副社長となっていた西島は家を出てロック歌手となった長男の言葉に感得するところあり、やがて就任したばかりの社長の椅子を放り出して数ヶ月前にVIP係として美穂嬢と再会したオリエンタル・ホテルに会いに行くが、その先には予想外の事柄が待ち設けている。

というお話は前述の「冷静と情熱のあいだ」と同じくらい面白くないし、首を傾げさせるところも少なくない。

画像

例えば、序盤主人公が航空会社同士の親善野球でバントを命じられたのに監督命令を無視してホームランを打つ場面を置いてあるが、野球を専門にやっている団体でないわけだから、違和感が残る。主人公の野心的な性格を表現する為に用意された場面であると理解はできるものの、余りに安易なので野球以外のアイデアのほうが良かったであろう。後半蒸し返すようにそのホームラン・ボールが重要なアイテムとして出て来ても、この会社若しくは主人公にとっての野球の意義が何も説明されないので甚だピンボケになっている。

もう一つ気になったのは、ゆり子嬢がバンコクにやって来て美穂嬢を訪れるシークェンスである。電話に出ないことが多い事から疑って調べたのかもしれないが、その経緯については全く想像するしかなく、上映時間の長い映画の割に甚だ心許ない。

画像

にも拘わらず、映画を見終えた後の印象が「冷静と情熱」よりずっと良い。インチキ臭い気がしないでもないものの、止まっている瞬間がないほど常時動き回っているカメラにまんまと酔わされて(笑)、文学的なムード醸成になかなか手応えを覚えたのである。

多くの人間が安定と冒険の間で揺曳しながら人生を過ごしやがて老いて死ぬ。「死ぬ時に愛したことを思う」と言う婚約者を“安定”の、その逆に「愛されたことを思う」と言う愛人を“冒険”の寓意としたようなお話で、そういう意味で恋愛は人生そのものだと思えて来る。これで面白ければ言うことないが・・・ちょっとした文学的作品ではないだろうか。

因みに、12年ぶりの映画復帰という中山美穂は夫君原作の作品だから出たということらしい。ちょっと興醒めますな。

「題名に片仮名を使ったら評論家が勝手に意味を与えてくれた」と後輩の島田雅彦は言った。

この記事へのコメント

2010年12月05日 23:26
「冷静と情熱のあいだ」は、観ていて文字通り、冷静(=冷ややか)な気分になってしまった記憶があり、そういうわけで、この映画も未見なのですが・・・最後の太字のオチが気になったので、コメントさせて頂きます!

>「題名に片仮名を使ったら評論家が勝手に意味を与えてくれた」と
>後輩の島田雅彦は言った。

これ、「優しいサヨクのための嬉遊曲」ですね!
私、島田雅彦、結構、好きです。初期の作品はほとんど読みました。
「僕は模造人間」とか、B級でバカバカしいけど、どこかモノ哀しくて。
映画に喩えると、パトリス・ルコントのフェチ嗜好に、カウフマンが書く脚本のシュールさを振りかけたみたいな・・・って意味不明な喩えですみません!

オカピーさんの後輩でいらしたんですね!
2010年12月06日 00:24
こんにちは。
息子が学生時代、島田雅彦の講義を受けたようですけどね。
「父ちゃんはどうなの?」と聞かれたので、「ノーコメント」と答えました(笑)。
オカピー
2010年12月06日 00:50
RAYさん、こんばんは。

>後輩
大学の後輩ですが、同級生でもあって、僕がさぼっている間に先に卒業されました(笑)。彼には一般教養「経済学」答案で貸しがあるんですよ。て書けば彼は僕が誰か解ってしまう。忘れているかな?(笑)
彼の自己紹介には「天才」と書いてあったと記憶しています。

>これ、「優しいサヨクのための嬉遊曲」ですね!
That's right!
彼の卒業の年に夏休みを終えて学校へ出かけると、友人が大騒ぎしていました、
「大した小説を書いたらしい」と。芥川賞は逃しましたが、本当に大したものでした。
ロシア文学を勉強していたせいか同時代の僕にはピンと来ないところがあって2作目までしか読んでいません。
今ならもっとピンと来るかも。頑張って読もう!(笑)

文学、映画、美術、音楽、演劇、スポーツ・・・何にでも顔を出しますね。全く嫌なやつだ(笑)。
オカピー
2010年12月06日 22:10
kimion20002000さん、こんばんは。

>島田雅彦の講義
彼が講義を息子さんが受けたと聞くと、何だか、「浦島太郎」みたいな心境ですよ。
あっという間に僕も初老になってしまいました。

>ノーコメント
解るような気がします(笑)。

この記事へのトラックバック

  • 『サヨナライツカ』

    Excerpt:   □作品オフィシャルサイト 「サヨナライツカ」□監督 イ・ジェハン□脚本 イ・ジェハン、イ・シンホ、イ・マニ  □原作 辻 仁成□キャスト 中山美穂、西島秀俊、石田ゆり子、.. Weblog: 京の昼寝―♪ racked: 2010-12-05 16:33
  • サヨナライツカ/中山美穂、西島秀俊

    Excerpt: 中山美穂さんの久しぶりの女優復帰作としてTVでも話題にとりあげられることが多かったですね。中山美穂さんも宣伝がてらにいろんな番組でインタビューに答えてましたけど、「スマス ... Weblog: カノンな日々 racked: 2010-12-05 17:54
  • サヨナライツカ

    Excerpt: 『私の頭の中の消しゴム』のイ・ジェハン監督作品。辻仁成の同名小説の映画化だ。主演は原作者・辻仁成の妻でこれが12年ぶりの映画復帰作となる中山美穂。共演に『蟹工船』や『ゼロの焦点』の西島秀俊、『MW-.. Weblog: LOVE Cinemas 調布 racked: 2010-12-05 18:00
  • mini review 10476「サヨナライツカ」★★★☆☆☆☆☆☆☆

    Excerpt: 愛されることがすべてと思っていた女性が、運命的な出会いを経て、愛することが本当の愛だと気付くラブストーリー。『私の頭の中の消しゴム』イ・ジェハン監督がメガホンを取り、監督から熱烈なラブ... Weblog: サーカスな日々 racked: 2010-12-06 00:22
  • 10-28「サヨナライツカ」(韓国)

    Excerpt: 孤独は唯一裏切らない友  1975年、バンコク。高級ホテルのスイートルームに暮らし、お金に不自由することなく、欲望のままに奔放に生きる女性、沓子。  ある日、バンコクに赴任してきた若きエリートビジ.. Weblog: CINECHANが観た映画について racked: 2010-12-23 00:28
  • かなわない恋だとわかってた「サヨナライツカ」

    Excerpt: Weblog: Addict allcinema おすすめ映画レビュー racked: 2014-10-06 21:39