映画評「わたし出すわ」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2009年日本映画 監督・森田芳光
ネタバレあり
「(ハル)」を最後にオリジナル脚本から離れた森田芳光は原作の映画化やリメイクを続けて甚だ評判が悪い。僕自身は「椿三十郎」以外はクリーン・ヒットと言わないまでもポテン・ヒットくらいの当りは続けていると思っているが、どちらにしても評判が悪いなら独自の空気を自在に醸成できる本作のような自身の脚本作の方が良いのではあるまいか。
病院に昏睡状態になっている母親を見舞う為に東京から北海道に一時的に帰郷したヒロイン小雪が高校時代の旧友たちに会い、奇妙なことをし始める。世界の市電を観てみたがっている市電運転士・井坂俊哉にその費用を、足に不具合を抱えた長距離ランナーの山中崇には手術費用を、魚の生態を研究する小澤征悦には研究を費用を、小池栄子には旦那(ピエール瀧)の箱庭協会会長になる為の費用を出し、実業家の夫に死なれて急にお金に困り水商売に戻った黒谷友香には金の延べ棒を渡すのである。
お金の出所や動機など詳細は一切不明なのだが、台詞などから彼女はどうも優秀な株式トレーダーらしく、資金提供は高校時代に彼女に気を遣ってくれた友人たちへのお返しのつもりのようである。
いくら親友でも見返りもなしに大金を渡すなんてことは現実にはまずあり得ないものの、一種の寓話と理解すれば疑問を提示するには及ばない。それは善行を積んだヒロインにご褒美のように僥倖が舞い降りるという幕切れを観ればよく理解できる。そして、そもそも彼女が株を始めたのが母親の入院費用の捻出の為ではないかという思えて来る筋運びになり、お話は何とか収束したように見える。
寓話的な一方で、お金を巡るそれぞれの反応に現実的な面もチラホラと織り込み、それらが不思議なバランスで進行、理屈一辺倒で観なければなかなか面白く観られるはずである。挿入される文字による台詞の使い方も後で「そういうことか」と思わせる仕組みになっていてなかなか上手い。
今時の映画に珍しく固定ショットで通し、時々ダッチ・アングル(斜めのショット)も織り込んだ画面は魅力的。良い映画とまでは言えないかもしれないがちょっと捨てがたい。
“わたしだしたわ”なら回文になります。
2009年日本映画 監督・森田芳光
ネタバレあり
「(ハル)」を最後にオリジナル脚本から離れた森田芳光は原作の映画化やリメイクを続けて甚だ評判が悪い。僕自身は「椿三十郎」以外はクリーン・ヒットと言わないまでもポテン・ヒットくらいの当りは続けていると思っているが、どちらにしても評判が悪いなら独自の空気を自在に醸成できる本作のような自身の脚本作の方が良いのではあるまいか。
病院に昏睡状態になっている母親を見舞う為に東京から北海道に一時的に帰郷したヒロイン小雪が高校時代の旧友たちに会い、奇妙なことをし始める。世界の市電を観てみたがっている市電運転士・井坂俊哉にその費用を、足に不具合を抱えた長距離ランナーの山中崇には手術費用を、魚の生態を研究する小澤征悦には研究を費用を、小池栄子には旦那(ピエール瀧)の箱庭協会会長になる為の費用を出し、実業家の夫に死なれて急にお金に困り水商売に戻った黒谷友香には金の延べ棒を渡すのである。
お金の出所や動機など詳細は一切不明なのだが、台詞などから彼女はどうも優秀な株式トレーダーらしく、資金提供は高校時代に彼女に気を遣ってくれた友人たちへのお返しのつもりのようである。
いくら親友でも見返りもなしに大金を渡すなんてことは現実にはまずあり得ないものの、一種の寓話と理解すれば疑問を提示するには及ばない。それは善行を積んだヒロインにご褒美のように僥倖が舞い降りるという幕切れを観ればよく理解できる。そして、そもそも彼女が株を始めたのが母親の入院費用の捻出の為ではないかという思えて来る筋運びになり、お話は何とか収束したように見える。
寓話的な一方で、お金を巡るそれぞれの反応に現実的な面もチラホラと織り込み、それらが不思議なバランスで進行、理屈一辺倒で観なければなかなか面白く観られるはずである。挿入される文字による台詞の使い方も後で「そういうことか」と思わせる仕組みになっていてなかなか上手い。
今時の映画に珍しく固定ショットで通し、時々ダッチ・アングル(斜めのショット)も織り込んだ画面は魅力的。良い映画とまでは言えないかもしれないがちょっと捨てがたい。
“わたしだしたわ”なら回文になります。
この記事へのコメント
森田さんは、初期作品に比べれば、かなり腕を上げたと思いますね。継続は力なりを感じさせる映画作品になってますが、観ている側が、初期作品のひどさの印象を引きずっているんでしょうね。
なにごとも最初が肝心というところですかね。
>腕
例えば「失楽園」は凄く評判が悪いですが、僕はこういう正攻法の演出をするようになったかと思いました。
「(ハル)」も良かった。
>資産20兆円
本当ですか?
僕は2億円あれば良いかなあ。
20億あれば文句なし。
もう儲ける必要はないでしょうにね。
でも、六本木ヒルズの家賃200万近い部屋に住んでます。
でも、ベンツなどの車に乗らないし豪遊するわけでなし、女を何人を囲うわけでもなし、一日中、10台のモニターの前で株の動向を見て売り買いをしてます。
資産20兆円は、株を動かすための資金で、ネットのなかにあるということらしいんですけどね。
ねこのひげも、2億か20億儲けた時点でやめますけどね。
われわれ庶民には理解しがたいですね。(^^ゞ
>株を動かすための資金
僕も規模こそ違えある意味似たようなことをしていますが、原資の増減で一喜一憂するのは嫌だし、画面とにらめっこというのも嫌なので、専ら配当頼りです。
>20億円
あればもっと大きな家を作って、ビデオやCDを置く場所を設けたい(笑)。
さて、この「わたし出すわ」。何をやっているのか最後までわかりませんでした。小雪が演じる女性が何をしたいのか?
>“わたしだしたわ”なら回文になります。
うまい!座布団一枚!
森田芳光監督作品。僕は「間宮兄弟」が一番好きです。「の・ようなもの」「そろばんずく」も面白かったです。
さて、悲しい話題です。これからまだまだ伸びる女優さんが今朝亡くなりました。いろいろ悩んで苦しんでいたのでしょうか?お気の毒です・・・。40歳は若過ぎます。大河ドラマ「真田丸」での淀殿役が良かったです。ご冥福をお祈り致します。
>小雪が演じる女性が何をしたいのか?
よく憶えていませんが、自分の記事を読みますと、一種の恩返しのつもりのようです。人情の寓話ですね。
>森田芳光監督作品。僕は「間宮兄弟」が一番好きです。
コミカルな路線を結構好んだ監督ですが、僕は、現代的な感覚で大昔の日本の男女の恋愛(例えば平安時代の通い婚)を描いたとさえ思える「(ハル)」というロマンスがお気に入り。古風な人間なので。
>これからまだまだ伸びる女優さんが今朝亡くなりました。
芸能界で成功しても私生活は悩みだらけということか、大物と言って良い芸能人が3名立て続けに自殺しました。竹内結子は「コンフィデンスマンJP]の映画版二本で先に自殺した三浦春馬とも共演していますし、伝染してしまった可能性があります。ああ、不幸なことだ。
これだけ有名人が続くと、一般の人にも伝染するかもしれません。まして今年はコロナ禍で困っている人が多いですし。
実は竹内結子は大のご贔屓でした。彼女を見ると、癒されました。日本映画界にとって大損失だと思います。合掌。
前者はコメディとしても風刺としても面白いし、後者は切なさが際立っている・・。
>大物と言って良い芸能人が3名立て続けに自殺。
2名は三浦春馬と、「SILK」という作品に出ていた芦名星ですね。
竹内結子はケタが違う気がします。
女優としての人気、活躍度からいっても。
僕は、俳優の人気バロメーターは映画でなく、CMだと思っています(よく使われている俳優はだいたいCM出演も多いものですが例外もある)
昔は、CM嫌いの大物俳優もいましたが、今じゃそんな人はいません。
多くのCM女王がテレビ画面の向こうに消えていきましたが、竹内結子は、ビールのコマーシャルなどコンスタトに出ていましたからね。
>芸能人の悩み
想像ですが、藤圭子や三島由紀夫と同じ突発的なものではないかと思います。小さな声で言いますが、彼女自身も黄泉の国で今「?」なのでは。
そうであるなら、重ねて残念であります。
縦の会のメンバーはともかく三島は、(決行までの)スパンが長かっただけで計画的というわけではなく、何か銃爪のようなことがなければあのような真似はしなかったでしょう。
>俳優の人気バロメーターは映画でなく、CMだと思っています
TVが俳優の主戦場になった現在では、確かにそういうことでしょうねえ。TV局が映画を作り始めた結果、今はTVにも映画にも出る俳優が多くなりました。
>想像ですが、藤圭子や三島由紀夫と同じ突発的なものではないか
僕も今日知り合いに“衝動的だったのでは?”と話したところ。一日頑張れば違う結果になったかもしれない。もしそうなら実に惜しいですね。
「真田丸」で竹内結子さんが演じた淀殿。秀頼が大胆な行動を取ろうとすると厳しい表情で「なりませぬ!」そして徳川側から大坂城に砲弾が飛んで来るとビビッて徳川の言いなりになってしまう(苦笑)。好演でした。
多かれ少なかれ新型コロナウイルスのせいで犠牲になった人は多いのだと改めて思います。人間があれこれ動かなくなったから、早くも植物が生き生きと育っているという報告もあります。地球上の生物は人間だけではないのです・・・。
>年下の上司に怒られてペコペコする。
それはまた辛い。めげないで頑張ってください。
>人間があれこれ動かなくなったから、早くも植物が生き生きと育っているという報告もあります。
現在のぼぼ唯一の日常的肉体労働は、庭と畑の植物を刈り取ること。5月から10月まで、田舎の人間にとって植物との闘いは凄まじいものがあるのです。
人間がいなくなったら植物は想像を絶するくらい繁殖するでしょうねえ。草食動物ではとても食べきれない。二酸化炭素が減り酸素が増えるので、気温も下がるでしょう(人間の経済活動が気温を上げているというのは間違いと言っている人は間違っている。少なくとも、人間の経済活動だけが気温を上げているのではない、と言わないといけない)。