映画評「カールじいさんの空飛ぶ家」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2009年アメリカ映画 監督ピート・ドクター
ネタバレあり

ディズニー・アニメは1970年代後半から30年以上も僕を感心させる作品を作っていないが、その傘下に入ったピクサーの作品は着想が優秀で面白い作品が多い。
 一部に日本製アニメのパクリではないかといった酷評を見るが、この程度でパクリと言われるなら1920年以降に作られた劇映画は全てパクリと言わなければならないのではあるまいか? どんな映画にも素材または手法に類似するものが必ずある。そうしたことに問題があるとしたら新味不足ということだけで、いきり立つ必要はない。

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確かに序盤主人公のカール・フレドリクセンが少年時代に知り合って結ばれた冒険好きなエリーに先立たれて失意に沈むまでの一連の描写はアカデミー賞を受賞した「つみきのいえ」に似ている。影響を受けた部分もあるだろうし参考にしたところもあるかもしれないが、素材自体はごく当たり前のものでパクリなどとは言えないだろう。
 いずれにしても半世紀も連れ添った妻を失う老夫の気持ちが画面に沈潜して見事にじーんとさせられる。台詞も細かな描写もない為に心中で補完する行為により感動が増幅されるのである。

都市開発で二人で作り上げたわが家から立退きを迫られた老人は、妻の念願でもあったわが家を南米の滝の傍に立てる夢を実現すべく大量の風船を家につないで空高く飛び立つ。
 ここは最後に少年が風船で運ばれるアルベール・ラモリス「赤い風船」にも似ているし、宮崎駿の「ハウルの動く城」を思い出す人もいるだろう。但し、「ハウル」は動力が風船ではないので着想的に違う。パクリと騒いでいる人は寧ろこれから語る冒険場面が「天空の城ラピュタ」を彷彿とするところを言っているのにちがいない。しかし、「アトランティス/失われた帝国」とは事情が違い、大騒ぎするのはちと恥ずかしい。

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さて、老人にとって想定外だったのはボーイスカウトの少年ラッセルが付いてきてしまったことで、天真爛漫なこの少年が雷雨をくぐり抜けてやっと到着した目的地近辺でカラフルな大鳥を可愛がったことから、同地に引きこもっていた冒険家チャールズ・マンツと遭遇する羽目になる。彼はカールとエリーの憧れの人物であるが、若い時に非難されたことですっかりねじ曲がった人間になり、翻訳機で人間の言葉を話す犬の群れを子分にして大鳥を奪いに来襲、老人はエリーとの思い出の詰まった家を大事にしてマンツ一味を追おうとしない。

が、最初は家を選んだ老人も、結局、亡き妻の残した言葉に励まされて、単独で一味に挑むラッセルを助けようと、家財を捨て去ることで大量に風船を失った家を再浮上させ、マンツの硬式飛行船に乗り移り対決する。

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杖をついた老人があんなアクションができるわけがないといった批判をする方の野暮なことよ。全ては象徴なのである。家が飛行するのは人間の現実逃避を象徴するものだし、家財を捨て去るのは現実に臨もうとする老人の意志の現れであり、老人がもの凄いアクションをするのは再び湧き上がった冒険心を意味しているのではないか。現実逃避はいつまでも続かないから老人は地上に戻らざるを得ないのだ。

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といった具合でピクサーらしい骨格のしっかりした作品だが、全体として些か新味が足りず、昨年観た「ウォーリー」ほど詩情が感じられない。味方になって大活躍する犬のダグ君に★一つ進呈しましょう。

僕なんかはあの大鳥を見たら「シンドバッド」まで思い出しちゃいましたよ。

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この記事へのコメント

2010年11月13日 17:48
TBさせていただきました。
そんなことできるわけがない主人公が
ありえないアクションで大活躍する・・・
アニメならではの世界でしょうけどね~^^
おっしゃる通りに新味には欠けますが
最後まで楽しませてくれました~・・
ただそれだけで有難くて~(笑)
オカピー
2010年11月14日 00:49
vivajijiさん、こんばんは。

>そんなことができるわけがない
映画は時代が進むにつれ現実に近づいてきたわけですが、映画が描くのは人間の実際の姿ですから、身体的に不可能だとか、科学的に正しくないとか、などということは大概の場合はどうでも良いわけですよね。
色々なところで述べてきたように、極論すれば正常な人間はこの状況ならどう行動するかさえ正しく描いていれば本来OKなんですが、最近は間違ったリアル指向が広まっていまして、僕は苦々しく思っております。
方言が違ったって良いじゃないですか。

>新味
ある意味もう諦めています。もう大概なことは描かれてしまいましたものね。
それでも理屈っぽくなくて良かったですよ。どうしてディズニーご本家の方々はこう素直に作れないのかなあ。

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