映画評「ハンニバル・ライジング」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2007年アメリカ映画 監督ピーター・ウェバー
ネタバレあり

羊たちの沈黙」に始まるシリーズ第4弾に位置づけられるが、これまでと違ってハンニバル・レクターが初めての主役として登場する。

と言っても少年時代のお話で、第2次大戦末期にまで遡る。旧ソ連に併合されたばかりのリトアニア、侵攻してきたナチス・ドイツに名門のレクター夫婦が殺され、十歳くらいの少年ハンニバルと幼い妹ミーシャ(ヘレナ=リア・タチョフスカ)は山小屋に避難するが、そこへドイツ軍の脱走兵5名(リス・エヴァンズなど)がここを占拠、食料として二人に目を付け、ある時ミーシャが連れ去られ、ハンニバルは逃亡する。
 8年後レクターの城を改造した孤児院に収容されて成長した彼は憎い寮生をやっつけたまま脱走、叔父のいるフランスに向うものの、叔父は既に他界し未亡人である日本人女性レディ・ムラサキ(コン・リー)に迎えられる。ここで医学生になったハンニバルは彼女を侮辱した肉屋がかつて妹を殺した残党の一人であることに気付き、これを端緒にメンバーの居場所を次々と突き止め惨殺していく。

シリーズと切り離して考えれば、多少残忍な部分はあるにしても、非常にオーソドックスで解り易い復讐劇で、連続殺人犯ながらハンニバルを応援しながら息を呑んで楽しむことができる。尤も彼が優秀な余り危機に陥ってハラハラドキドキするところが殆どないので一般的なサスペンスの楽しみ方ではなく、その過程で過去三作に見られた彼の特徴の数々が生まれた背景を理解して楽しむべき作品と言って良い。

しかるに、彼の心理の変化を追っていくという作り方がされていないので、どうしても形式的にハンニバル・レクターというジグソー・パズルを完成させただけという印象は否めず、抜群の心理分析力を持つ特異な殺人犯が生れた過程を内的に描く作品として判断するなら相当物足りない、というのは僕だけでなく多くの方が感じるところであろう。

さらに、彼の義理の叔母を日本人にした意図も曖昧で、寧ろ変な印象を生み出しただけマイナスと感じる。英語が出来る日本人女優がいるのに大女優とは言え中国のコン・リーを起用するのも日本人観客には印象が悪い。

戦後のハンニバルを演じたギャスパー・ウリエルは、些か線が細いように感じられたものの次第に迫力を出しなかなかの好演。

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この記事へのコメント

2010年10月02日 22:42
こんばんは。

本作、仰る通り、あのレクターがどのようにして誕生したかという点が見所であり、楽しみで鑑賞しました。

なかなか楽しんで鑑賞できましたが、やはり弱いですよね。
なぜあそこまでの人物に、怪物といっていいほどにまでなったかが。

それと日本人との関係性もどう影響しているのかが、映画でしか鑑賞しておらず原作はしりませんが、後に影響をあたえているのかが、どうも・・・・。


オカピー
2010年10月03日 02:04
イエローストーンさん、こんばんは。

形式的には解るように作られていても、彼の内面については意外と掘り下げらていないです。
正にジグソー・パズルをピースを埋めるが如しの映画で、案外淡白な内容に終わっていますよね。

>日本人
旧作の小道具に影響を与えていることは解りましたが、それ以外はどれほどなのか判然としません。
西洋人でも日本趣味の人が多いわけですから、やや強引だったような感があります。
シュエット
2010年10月05日 13:58
>抜群の心理分析力を持つ特異な殺人犯が生れた過程を内的に描く作品として判断するなら相当物足りない、というのは僕だけでなく多くの方が感じるところであろう。
バットマンやスーパーマンといった誕生物がこのあたりで続けざまに公開されているけど、やはりどこか無理があるから、そういうところではさほど期待せず、ギャスパー・ウリエルでミーハー的に本作を見た私には、シリーズと切り離してこれはこれで楽しめましたわ。淡白だけど、映像的には結構楽しめたところあって、まぁ、頑張った方じゃないかしらね。
オカピー
2010年10月06日 00:59
シュエットさん、こんばんは。

>ギャスパー・ウリエルでミーハー的に本作を見た
そのほうが純粋に楽しめるでしょうね。
僕も次々と復讐を成していく若きハンニバルを応援する感じで観ることができました。アンソニー・ホプキンズの迫力を求めるのも、役者の問題ではなく、レクター自身が未熟ですからちょっと筋違いのような気もします。

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