映画評「蒼き狼 地果て海尽きるまで」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2006年日本映画 監督・澤井信一郎
ネタバレあり

タイトルが紛らわしいが、井上靖の「蒼き狼」ではなく森村誠一の「地果て海尽きるまで」を今やベテランになった澤井信一郎が映像化した歴史劇。
 そもそも映画マニアは澤井監督の作る映画を評価しない。アイドルを起用した大衆映画を解り易く作るからである。彼らが喜ぶ先鋭的な要素がどこにもない。大衆映画だからと言って評価を甘くする必要はないものの、狙いを正確に把握した上で判断すれば評価が大きく変る作品があるはずである。因みに僕は割合ご贔屓にしている。

12世紀末、モンゴル族の部族長イェルゲイがメルキト族から略奪した娘ホエルン(若村麻由美)生ませた子供がテムジン後のチンギス・カン(反町隆史)で、出自に疑問を持ちながら成長する。
 かくして血筋への疑惑が作品の基調を成し、20年ほど後に復讐の為にテムジンの妻ボルテ(菊川怜)がメルキト族に奪われ、奪回した直後に生れた子供に対しテムジンが疑惑を覚える一方、その息子ジョチ(松山ケンイチ)も父親の厳しい態度が出生の経緯に理由があるのではないかと不審を抱く、という流れに収束していく辺りがドラマ的な工夫。

それが、テムジンが人心を得て他の部族を制圧していくという主流の物語に絡み合って進行するが、主流の方は余りにナレーションに頼ったところが多く、徐々に力を得る模様はこれより後に作られた「モンゴル」に比べると抽象的で余り見応えがない。

また、136分という限られた長さで偉人の半生を描きつつ血筋への疑惑とそれによる父子の確執というドラマ的なニュアンスを掘り下げるのは到底無理で、最低でも3時間は必要だった内容と思われる。

僕がそれ以上に気になったのはいかに大衆映画であるにしても、友情を重んじ女性を大事にするという具合にチンギスが余りに好人物に描かれすぎていることである。女性兵士として迎えつつ第二夫人とするクラン(Ara)の扱いを見ると「女性を大事にする」という意味合いは男女同権を標榜する現代のそれとは意を異にするが。

俳優陣の演技は全般的に低調で、これもドラマがもう一つ盛り上がらない理由になっている。澤井監督がいくら解りやすい語り口で展開してもここまで悪い材料が揃えば本質的に良い映画になることは難しい。

しかし、ドラマよりはアクションのほうが安心して観ていられる。カメラの揺れが少なく、カットが細切れでなく、アップ過ぎずに非常に見やすいのが大変有難いのである。とは言え、本来映画はこうあるべきという最低限のレベルであって、満足するいうところまでは行かない。あくまで安心して観られるだけである。合戦場面では戦闘の全体像が捉えられるようにもっとロングショットの俯瞰を使ったほうが良かったであろう。

そういう技術的な部分より批判の多い【日本人がモンゴル人を演ずること】【日本語での進行】については現実的には問題にするに及ばない。違和感があるという正直な感想には僕も賛同せざるを得ないものの、本作のような通俗的な狙いの映画であれば特段評価を下げる必要はない。

どうせ日本で作るなら源義経がチンギス・ハンになったという風説を映画化すれば面白いのに。

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この記事へのコメント

シュエット
2010年10月26日 12:03
たしか中学生の頃だったかしら。井上靖の「蒼き狼」を呼んで以来、ただただ、だだっ広い大陸と、大陸を舞台にした歴史にワクワクし、「蒼い」という字が大好きになり…と、本作の公開が楽しみで。あとから原作は森村誠一だって知ったけど、それもまぁいいかで観にいったのですが…。俳優陣の演技レベルももとより、奇麗過ぎないか?衣装が。とまぁ、観ている内に段々とゲンナリしてきて、ちょうどその頃に浅野忠信がテムジンを演じる映画がロシアのセルゲイ監督の手で作れらているって聞いて、YOUーTUBEで予告編観たら、これよ、これ!この汚さ、土ほこり、この色彩よ!って、日本で公開できることをどれだけ待っていたことか!
本作はたしか記事にはしていたはず。探してのちほどTBもってきますね。
シュエット
2010年10月26日 12:59
本作、記事書いたつもりだったけど、どうも書く気も起こらなかったみたいで…「MONGOL」でちょこっと触れてるので、こちらの方を改めてTBしますね。
しかし、本作、わざわざモンゴルまで行く必要があったのかしらって思える映像。キューブリックはイギリスでベトナム映画を撮ったっていうのにね。
オカピー
2010年10月26日 20:53
シュエットさん、こんばんは。

>井上靖
中学の時マイ・ブームがあり「蒼き狼」も読みました。面白かった。

>奇麗過ぎないか?
必要以上にリアリズムに拘りすぎる必要はないでしょうが、遊牧民族ですからねえ。遊牧民族でなくても、当時の王族なんて絵本で観るように綺麗なはずもなく・・・
同じような意味でソ連製「リア王」のリアルな汚さが印象に残っています。

>わざわざモンゴルまで
もう少し広大な大地を生かす映像が欲しかったですねえ。
国同士の付き合いの問題もあるのかもしれませんけど、勿体ないことをしました。

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