映画評「ジェイン・オースティン 秘められた恋」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2007年イギリス映画 監督ジュリアン・ジャロルド
ネタバレあり

1980年代まで映画界においてブロンテ姉妹の後塵を拝していた感があったジェイン・オースティンは1990年代に入ってやにわに光が当てられ、今日のブームに至る。

本作は、確固とした伝記があるわけではなく残された手紙などからかなり創作を加えてストーリーが構成された彼女の伝記映画ということになるらしいが、彼女の小説群が外国文学では極めて珍しく私小説的性格が強い為に、下記に述べるように、面白くもあり余り面白くもないという矛盾する印象が残された。

結婚が愛の成就ではなく女性の生きるほぼ唯一の術(すべ)であった18世紀末、兄弟の多いジェイン(アン・ハサウェイ)が作家を目指して日々習作をものしている頃、法曹志望のアイルランド青年トム・ルフロイ(ジェームズ・マカヴォイ)が突然彼女の前に現われ、最初は高慢な態度に腹を立てるもののその裏にある知性に気付いて惹かれていく。青年にしても進歩的な彼女に魅了される。
 しかし、周囲が金持ちだが些かにぶそうなウィスリー氏(ローレンス・フォックス)との結婚を進めようとするので反発、青年の庇護者である伯父のバックアップも受けられない首尾に終った為に二人は駆け落ちする手はずを整えるが、ジェインは彼が家族唯一の働き手と知って諦め、やがて作家として成功するものの独身を通すことになる。

というお話がどの程度事実かどうか判然としないが、予想通り興味深いのは、彼女の経験が「高慢と偏見」などの著作に結び付いたことが一目で解ることである。界隈に現われた青年たちがたちまち娘を抱える一家の耳目を集め、結婚するにふさわしいかどうか探りを入れられる序盤は「高慢と偏見」と全く同じで、ルフロイ青年にダーシーの面影があるなど同作を彷彿とする部分が相当に多い。この時代の経験や人物関係を換骨奪胎して書かれたのが、特に「高慢と偏見」ということになりそうだ。
 一方、それは本作がそのヴァリエーションにしか思えない弱点にも繋がり、近年「プライドと偏見」などの映画版を観た後では全体として抜群に面白いと言えない一因となっている。

また、「キンキーブーツ」のジュリアン・ジャロルドがジャンプカットを多用しているのが気になった。こういうミュージッククリップもどきのモダンな処理は、全編を通して音楽等を含めてモダン性を構築するといった明確な狙いがあるならともかく、現状ではクラシックなムードを殺ぐ効果しかない。それ以外はじっくり作っているだけに惜しまれる。

最後に、allcinemaで発見したマカヴォイの発音がどうのこうのという意見について。主旨が不明につき何とも言えないものの、クイーンズ・イングリッシュについて述べているのなら、ルフロイ青年がアイルランド出身ということを忘れてはいまいか? 寧ろクイーンズ・イングリッシュでないほうが正解と思われる。マカヴォイはスコットランド出身なので、英国南部的見地から言えばアイルランド英語はさほど問題ではないはず。

ウィスリー氏が一番賢かったような気がしますぞ。

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この記事へのコメント

2010年09月05日 21:48
こんにちは。
人間的には、母親の権威からなかなか抜け出せないウィスリーがいいでしょうね。でも、それと恋愛でときめく人間のパッションはまた別の話ですものね。
オカピー
2010年09月05日 23:49
kimion20002000さん、こんばんは。

ウィスリーは正に「巧言令色少なし仁」を逆で行くような人物で、最後に真の意味での知性を発揮しますが、賢いジェーンにして見抜くのに時機を得なかったんですね。惜しかったなあ。(笑)
シュエット
2010年09月10日 15:49
小説と作家自身とを結びつけて…といった内容に、観る前から底が見えるようで劇場鑑賞はスルーした作品で、ジェイン・オースティンのファンでもない私にはあまり食指が動かなかった映画でした。それよりも「ジェイン・オースティンの読書会」という映画が、読書会メンバーそれぞれの人間模様が描かれた映画で、なかなかに爽やかで良かったなぁ。
オカピーさんもレビューあげてらしたかしら? 
オカピー
2010年09月10日 23:30
シュエットさん、またまたこんばんは。

>底が見えるようで
ご明察の通りと思います。
作家によっては作品と実生活が全然違う人がいて、そういう作家ならまた面白い映画にもなったでしょうけどね。
そんな女流作家が本作にも出てきますが、今思うと作者が本作の立場を逆の形で表明したような気がしないでもないなあ。

>「ジェイン・オースティンの読書会」
昨年退院直後に集中力散漫の中で観て書いたもので相当手抜きですが。
http://okapi.at.webry.info/200908/article_9.html

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