映画評「私の中のあなた」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2009年アメリカ映画 監督ニック・カサヴェテス
ネタバレあり

“芸術家”としてはともかく、商業映画の監督としてニック・カサヴェテスは父親のジョンを凌ぐと言っても良いのではないか。前作の「きみに読む物語」は巧みなストーリー・テリングで単なる青春ロマンスやお涙頂戴を超えていたし、本作も死病を題材にしながらなかなか味わい深い。

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白血病の姉ケイト(ソフィア・ヴァジリーヴァ)を救う為に生をうけた少女アナ(アビゲール・ブレスリン)が、これ以上体を切り刻むのは嫌だと両親を訴え、元弁護士である母(キャメロン・ディアス)が自らを弁護する。

というのが大きな幹となるお話で、その間に一家の喜怒哀楽とケイトの悲しい初恋という枝葉が描き上げられていく。しかし、本作の真価はミステリー仕立てであると同時にミステリー的興味を遥かに超えたアナが訴訟を起こした真の理由とそれを上手く見せる話術にある。妹娘の反逆と思わせるミスリードによる落差が感銘を増幅させ実に効果的なのである。

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その真相とは、死を前にした時に家族のことを真に思うとはどういうことか、ということに絡んでいる。母親を否定的に捉える意見があった。しかし、普段は立派な言動をしていても「溺れる者は藁をも掴む」のが人間であって、僕はこの状態における彼女を――言動が時に行き過ぎるにしても――批判できるほど立派ではない。訴えたアナちゃんにしても母親についてそう否定的に思ってはいないはずで、願いは「姉を自然に苦痛から解放してあげよう」という一点に尽きるのだ。

本作の主題は「15歳の少女が若死にして不憫」「家族の努力が報われず可哀想」ではなく、家族を思うということを夫々の立場から見つめることである。家族のことをどう思うのがベストかという命題に正解なんかありはしない。

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そして、家族を思う一員にケイトも含まれる。実は、彼女を巡って不和になっていた両親がキスしたのを見てケイトがニッコリ笑って拍手するところが本作一番のお気に入り。ここを涙腺を熱くせずに見ることは僕にはできなかった。

裁判を展開のツールにした作劇が些か作為的だが、商業映画としてテーマを効果的に見せる為に十分認められる範囲でありましょう。

「きみ」「私」「あなた」と来て次は何?

この記事へのコメント

シュエット
2010年09月13日 14:46
まだ観てないんですけど…
以前は私が鑑賞済みで、P様が記事あげられるのを待ってTBしてたけど、ここにきてすっかり逆転してしまってますねぇ。
これもWOWOWで観ましょう(最近こう思って劇場スルーが多いこと)と思いながらまだ未見。キャメロン・ディアスって「イン・ハー・シューズ」など観ていても思ったけど、しっかりした演技する女優だなって思う。だからお軽い映画でも彼女が出てるとなんか楽しいんですよね。こんなシリアスな作品でもきちっとしたものを見せてくれる女優だなって思っているから、ちょっと興味ありの作品でもありました。ただ、ストーリーはショッキングで、脳死を人間の死と認めるかどうかって議論にも頭で分かっていても、いざ自分がその立場に立ったら、どうなんんだろうって…やはり日本人的死生観があるんですね。突きつけられるテーマでもあるし…。P様の8点に押されて観てみようと思います。次が明日14日放映。
オカピー
2010年09月14日 00:47
シュエットさん、こんばんは。

>14日放映
惜しむらくは吹き替えなんです。
吹き替えでしか洋画を見ないなんて方も最近は増えてきましたが、映画館で吹き替えの映画がかかるようになった事実すら僕は近年まで知らなかったですからね。何年くらい前からそんなことになったのでしょう。怪しからん(笑)。

>キャメロン・ディアス
ギャラも物凄いですけど。^^
与えられた役をしっかりこなしている印象はありますね。

>8点
詳細は言えませんが、アングルを付け直球を避けた為にかなり観やすくなったと思います。
2010年09月14日 03:23
こんにちは。
僕も高得点でした。
家族それぞれがそれぞれのやり方、納得の仕方で、ケイトの運命を受け入れる時間を、丁寧に掬い上げていました。しかもサスペンスの技術も差し挟みながら、観客をひきつける工夫がうまかったと思いました。
シュエット
2010年09月14日 10:39
吹き替えなんですか~!いやん、もう!
録画予約してきました。とりあえずは、まっ、いいか。仕方がネェ。良かったら今度は10月放映の字幕でも再鑑賞しますわ。どうもねぇ、吹き替えはいけませんネェ。せっかくの映像が吹き替えの声でいっぺんに作り物めいてねぇ。
オカピー
2010年09月14日 23:50
kimion20002000さん、こんばんは。

>高得点
このところずっと同じ点数が続いているんです。
映画の評価する材料が結構違うようなのに、面白いですねえ。

>工夫
真相が後から明らかになるという作劇はやはり効果的ですね。
オカピー
2010年09月14日 23:52
シュエットさん、こんばんは。

>吹き替え
やはり実写は本人の地声で聞きたいものですね。
日本の吹き替えはかなり優秀ですけど、結局は別人。
良くなかったら、吹き替えのせいにします(笑)。
シュエット
2010年09月15日 16:08
いやぁ吹き替えでも気にならなかったわぁ。来月は字幕で鑑賞します。
今までのニック・カサヴェテスの監督作品はほとんど観ているんだけど、どうしても父親の作風と較べてみてしまい、辛口評価だったけれど、本作に至ってようやくこれが彼の作風なんだって、父親と違う形で、やっぱり彼もまた人間をありのままに描こうとしてる人なんだって、思えました。
設定は特異だけれど、決して特別な家族を描いた作品でではなく、家族というもの、家族一人一人をリアルにというより、ありのままに描いた作品。そう思います。何度も目頭が熱くなりながらも、ドラマティックにも感傷的にもならず、生きること死ぬことの人間の尊厳を見据え、家族というもの、家族一人一人を描いた作品。ニック・カサヴェテスの視線は父親とは違う優しさで人間を見つめている。これが彼の作風なんですね。
オカピー
2010年09月16日 10:00
シュエットさん、こちらにもようこそ。

>吹き替え
画面に集中できるという意味では吹き替えにもメリットはありますけど、やはり実写はご本人の声や喋り方でないと。

>父親
どちらかと言うと、映画の最大のメリットである適度な連続性を余り生かしていないと思うので、手法的に僕の映画観に合わないところがあります。
思うに、(日本における)一部リアリズム作家におけるセミ・ドキュメンタリー・タッチ隆盛はパパ・カサヴェテスに源流があるのかなあ。

>特別な家族を描いた作品でではなく
僕も全くそう思います。
“例外”を描くのがジャンル映画なら、“例外”を描いているように見えても実は“普遍”を描いているのがドラマ。そうなっていないドラマは良い作品とは言えないでしょうね。

>彼の作風
デビュー作(?)の「ミルドレッド」からしてそう。
僕は一貫して評価してきました、えっへん。(笑)

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