映画評「重力ピエロ」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2009年日本映画 監督・森淳一
ネタバレあり

伊坂幸太郎の同名ミステリーを森淳一が映画化。5月に「死神の精度」を観ているし、一昨年には「アヒルと鴨のコインロッカー」も観ているので、伊坂氏は現在日本の映画界に最も注目されているミステリー作家らしい。森監督は初めて観るが、手応え十分。

仙台の大学院で遺伝子を研究している奥野泉水(加瀬亮)は、街中のグラフィティアートを消しまくっている弟・春(岡田将生)から、仙台各地での連続放火はアートの近くで起きているという共通性を聞かされる。
 弟が写真に残していたアートに書かれた文字や建物の名称が遺伝子配列になっていることに気付いた直後、同窓の学生から24年前の連続レイプ犯が戻っていかがわしい商売をしていると告げられ、いやおうなしに数年前に謎の事故死を遂げた母親(鈴木京香)に思いを馳せざるを得ない。彼女は被害者の一人だったのだ。

ミステリーとして上々の出だし、「すは兄弟探偵か?」と思わず前に乗り出すが、そう単純には行かない。しかし、当座だけとは言え作者のミスリードに上手く乗せられそのレイプ犯が放火犯であろうと思わされるはずである。それはそれで健全な映画の見方と言うべし。

春は小学生の時に周囲の言動により犯行当時高校生だった男(渡辺篤郎)の子供であることに気付かされ、出生のいびつさだけでなくそうした犯罪性向のある男の血を引くトラウマに苦しむ一方、「本当に深刻な話は陽気に伝えるべきなんだ」と言う父親(小日向文世)やのほほんと弟を包んでしまう兄との絆は強い。かくして、実の父親だけが苦しみの根源であり、排除する必要に迫られていく。

本作の主題は今時の作品らしく、犯人探し等の謎解きではない。現在進行中の連続放火事件と過去の連続レイプ事件は奥野家の悲劇を浮かび上がらせ、その過程で遺伝とは家族とは何かという命題を打ち出す為の触媒にすぎない。結論から言えば、この作品において家族愛は遺伝という重力を超えるのである。

また、暴力を回転軸に展開していること、即ち、非暴力主義のガンジーだけでなく、博愛を主張し子供を作る為以外のセックスは罪悪であると説いた同思想の先輩トルストイ(写真のみ)まで繰り出し、その上でなお兄弟が問題解決の為に暴力に訴えようとする展開には考えさせられるものがある。だから、道徳的にどうかと思われる終盤の扱いについては安易に是非を問うてはいけない。頗る奥深い。

序盤春が女生徒に暴行を働こうとしている三人の男子学生をやっつけ、エロ雑誌をけっとばすといった行為には出生の秘密が絡んでいたと理解できるように構成され、ストーカー女(吉高由里子)が重要な鍵を握っていたり、作りに無駄が少ないことにも感心させられた。

泉水と春が共にspringなら、「となりのトトロ」のサツキとメイは共にMayじゃよ!

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この記事へのコメント

いく
2010年10月14日 23:50
こんにちは。お久しぶりです!
いつもいつも、大分前に書かれた記事にコメントしてしまい、申し訳ありません(--;)

いつもWOWOWで映画を観た後は、ついついこちらのブログにお邪魔して映画評を読みたくなり、その通りです!!と感銘して、コメント書きたくなるんですよね(^^;)

はい、今更ながら重力ピエロ、拝見しました。

とても面白かったんです!最初から最後まで全てが繋がっていました。小さな細かい部分も全て。兄弟の雰囲気や家族関係の良さからは、あまりにも酷な内容になっていき、そこがあるから良かったのかもしれませんが、あの内容でここはどうなの?知りたい!って不思議に思う様な部分は全て描かれていました!スッキリ!


ただ、気になったというか、私の理解力が足りないだけなんですけど、最後にレイプ犯を殺してしまった罪を正当化というか、家族で肯定した部分。あそこはどう読み取れるのでしょうか?そこが少々、気掛かりです。
乱文、失礼致しました!
オカピー
2010年10月15日 00:57
いくさん、お久しぶりです。

いくさんもWOWOWでご覧になることが多いようですね。
僕なんかはここ数年WOWOWが圧倒的に多くなりまして、新作レビューというわけには行かないのがもどかしいです。
これからも宜しくお願い致します。<(_ _)>

面白かったでしょう!
序盤から無駄がなくて良く出来たお話でしたね。

>最後に・・・家族で肯定した部分。
ふーむ、難しい問題ですね。
実生活において、また、道徳的にはどんな悪党でも殺すのは問題があるわけで、そこに引っ掛かるのは常識人としては当然です。私的どころか公的にも殺すのは問題とされるような時代ですから、なおさらです。
本作の父親(レイプ犯)は「後天的なものでも家族の絆は実際の血より強い」という主題を表現する為に用意された実験道具のようなもの、余りに現実的に考えない方が無難かもしれません。

それができない場合は後味の悪さを味わうしかないわけで、娯楽映画を見る時にちょっと損をしているかもしれません。勿論同じような設定でもどう考えても肯定できないようなものがあることに比べれば、本作はすんなり見られる方ではないかと思いますよ。^^
考える機会になるだけでも価値があります・・・

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