映画評「蟹工船」

☆☆★(5点/10点満点中)
2009年日本映画 監督SABU
ネタバレあり

中学の時に読んだ小林多喜二のプロレタリア文学の名作「蟹工船」(昭和4年)をSABUが映画化。
 不況の時代を反映して原作は大人気だそうで、平成的な言葉遣いで推移する映画の台詞にもその現実を反映しているらしい部分が散見される。

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恐らく大正の終わりか昭和初頭が舞台で、カムチャッカに向った蟹工船“博光丸”の漁夫・作業員たちは、浅川監督(西島秀俊)の暴虐の下、地獄のような日々を味わっている。利益一辺倒の監督はSOSを発する僚船を見殺しにする始末で、従業員たちは日々のストレスをためて行く。
 ところが、虚無的だった漁夫・新庄(松田龍平)が拾ってくれたロシア船での経験に刺激されて人権意識と行動の意義に覚醒、ストライキを指導したことで状況が変ったと思ったのも束の間、帝国海軍が乗り込んで沈静させてしまって元の黙阿弥。しかし、残るメンバーも既に覚醒しているのだ。

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冒頭部分で述べたように話し方が余りに現在的で些か興醒めさせられるが、一番気に入らないのは前半をコメディー的に扱いすぎていることである。コミカルにするなら全体のトーンをもっとそれらしく一貫させ、ブラック・コメディーとして作らないとこのお話ではちぐはぐになる。
 また、救助されたロシア船での出来事に新庄が能動的に行動する意義に目覚めてしまうという展開にしても彼の人物像がはっきりしない為に拙速の感ありで説得力を欠く。敢えて原作と比較して言うならば、主要な労働者に名前を与えた上でのこうした劇的な扱いは、原作における文字通り“名もなき”労働者たちの自然発生的な爆発に比べていかにもわざとらしいのである。漫画的に記号化して解り易くするという目的なのであろうが。

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文句ついでに、労働者たちが新たな人生を夢見る場面で「歌手」と言った人物が片手でマイクを持つ恰好をするのは、大型の固定マイクの前に直立して歌うのが一般的だった戦前のお話としては違和感が残る。時代を超えたお話ということでしょうかな。

主要な配役ではタイプ的に西島秀俊に無理があったか。

オホーツク海と同じくらいSABU(寒)い出来栄えとは言うまい。

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