映画評「消されたヘッドライン」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2008年アメリカ=イギリス映画 監督ケヴィン・マクドナルド
ネタバレあり

BBC(英国国営放送局)のTVシリーズを僕が余り信用していないケヴィン・マクドナルドがリメイクした社会派サスペンス。

盗みを働いた黒人青年が軍事用らしき武器を持った男に殺害される。たまたま通りがかったピザ配達の若者も撃たれて昏睡する、というのがプロローグ。
 翌朝軍事企業を追及する公聴会に出席する国会議員ベン・アフレックは彼をサポートする女性職員が駅で謎の死を遂げたことを知らされるが、不倫関係だったことから「自殺ではないか」とマスコミに激しく責め立てられ、旧友である新聞記者ラッセル・クロウのところに逃げ込む。
 くだんの殺人事件を調べていたクロウは少年が女性職員と交信していた事実を掴み、かくして二つの事件がおぼろげながら一つの線で結び付く。

観客とすればこの二つが結び付くことくらいは序盤のうちに解ってしまうが、この早々に解ることが実は作品のトリックであって、恐らく大概の人が予想していない幕切れへの布石となっている。
 それが一番効果を発揮するのが軍事企業追及の急先鋒であるアフレックが事務所に戻る場面で、我々は彼が無事に事務所に戻れるか強いサスペンスを感じる。同時に、サスペンス映画では通常主人公が危難に遭うか主人公が関与する人物の危機を救うかといった展開になるのにそうなっていないことからちょっと違和感を感じることにもなる。しかし、終盤効果的に進行している以上、この“違和感を感じる”は誉め言葉と理解して貰って構わない。

という次第で、新聞業界の現状を通奏低音に、民間企業が今後益々戦争に絡んでいくであろう時代の怖さをモチーフに展開させたお話そのものは面白い部類に入る。が、この監督はやはり信用できないのである。僕の観た前二作では構成の知恵のなさにがっかりさせられたが、今回は映像言語という面から首を傾げざるを得ない箇所があった。

ドキュメンタリー出身らしく肩掛けカメラを使っている。これが問題。
 臨場感を出す為に用いられるこのカメラは撮り方によっては主観ショットと理解されかねないことが多く、例えば、覚醒しそうになったピザ屋の青年が襲われる場面で病室を捉えたショットが誰かの主観のように感じられれば非常に落ち着かないものとなる。主観ショットの前提として主観の主(ぬし)たる人物を客観で捉えるのが基本ルールとは言え、近年恐怖映画などでは客観ショットなしに主観ショットが始まる作品もあるだけに「殺し屋の視線か?」と考えられなくもないわけである。ところが実際には殺し屋は向いのビルにいるのだ。
 このように手持ち・肩掛けカメラは言語的に両刃の剣だから、主観ショットが重要な意味を持つことが多い一般のサスペンスには常時使うべきではない、とだけ指摘したいと思う。

やはり食えないマクドナルドでした。

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この記事へのコメント

ドラゴン
2010年06月18日 18:16
この映画を劇場で鑑賞したのですが、その時感じた違和感をオカピーさんの文章を読んで払拭できました。興味深い題材でしたが、少し焦点がブレた気もします。
2010年06月18日 21:02
こんにちは。
僕はメディアの黄昏という意味で、この作品を見たように思います。
筋書きはなんということもないのですが、現在世界中のメディアが資本によって操作されていると思っています。とても巧妙だから、権力批判もメディアは扱ったりしますが、すべてコントロール範囲内だと思います。
一人一人のジャーナリストがどうかという問題とは異なります。
西側諸国の中でも日本はもっともひどい体質だと思っています。
オカピー
2010年06月19日 00:47
ドラゴンさん、こんばんは。

作劇にちょっと無理がありましたね。
紙からネットへ移行するマスコミの現状も併せて描いて面白くなる素材だったのに、消化しきれなかった感じがします。
オカピー
2010年06月19日 01:00
kimion20002000さん、こんばんは。

>メディアの黄昏
軍事のアウトソーシングよりそちらを描いた方が内容としては新機軸だったかもしれませんが、サスペンスに利用する素材としては弱いので、民間企業の軍事への参画が前面に出されたのでしょう。

怖いことに、この新聞社の経営にその軍事産業が与していたようですね。

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