映画評「グラン・トリノ」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2008年アメリカ映画 監督クリント・イーストウッド
ネタバレあり

クリント・イーストウッドを世評ほどは買って来なかった僕もコンスタントに質の高い作品を発表している21世紀の実績自体には素直に脱帽するしかない。本作はタイトルからはどんな作品か全く見当が付かないが、「ミリオンダラー・ベイビー」の姉妹編のような内容と言って良いだろう。

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偏屈な為に二人の息子に疎まれている老人イーストウッドが妻に先立たれた為に犬を相手にするだけの一人暮らしになる。朝鮮戦争帰還兵の人種差別主義者で隣に住んでいるラオス出身のモン族の一家を嫌悪しているし、フォードの元社員故に日本車に乗る息子を軽蔑している。
 ある時隣一家の頼りない少年ビー・ヴァンに絡んでいるチンピラ・グループを【芝生に東洋人が入るのを嫌って】排除しただけなのに大いに感謝され、後日その姉アーニー・ハーを不良黒人たちから救った為に益々評価が上がり、家に招待されたのをきっかけにこの一族に対しては心を開き、成り行きで少年を精神的に鍛えることになる。
 が、グループは一向になびかない少年をいびり始め、遂には姉に暴行を働く。これに業を煮やしたイーストウッドは考えられる最善の手段を以ってグループに立ち向かう。

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物質主義社会における宗教の意味を問い質し、他人同士が疑似親子を演じなければならないアメリカ社会の現状を浮彫りにした「ミリオンダラー・ベイビー」と通底するお話で、彼の愛車“グラン・トリノ”は古き良きそして同時に偏屈なアメリカを象徴する小道具として登場する。イーストウッドが「ダーティハリー」シリーズで頑張っていた頃発売された不遇の名車である。
 その車は結局イーストウッドの価値観を変え家族以上に家族になった少年に譲られる。人種間移民間同士の対立は収まらない一方で、アメリカの伝統は人種・民族を問わず良き移民たちが受け継ぐのだ、という意味であろう。イーストウッドが考え出した自分以外の誰をも身体的に傷つけない最善の方法は、アメリカの将来選ぶべき道を示唆している。

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血を吐いて先の長くないことを覚悟、床屋に行き服を仕立てあれほど嫌っていた懺悔をして決闘に備える主人公はワイアット・アープとドク・ホリデイを合せたような人物に思えて来るが、その目的はご案内のように全く違う。そこに一時代の終焉を描き新しいアメリカへ希望を馳せる映画として大きな感慨を残す所以がある。

現在の西部男ここに眠る。

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この記事へのコメント

2010年05月22日 21:45
>現在の西部男ここに眠る。

いいですね~
この現在はぜひとも『いま』と
読ませてくださいね~(^ ^)

先日の貴記事に
終わりよければ全て良し、と
ございましたが、私、本作の
エンディングがまさにそれでした。

ところで「ブルグ劇場」再放映は
ございますでしょうかね?
歌方面で忙しくいつのまにやら
“HD残量不足にて録画不可”の
中に含まれていたようでして。(- -)

ちなみに
1点の快挙(笑)に
「気持玉かわいい」を
進呈させていただいたのは
私めでございます。
勿論、観てませんが。
オカピー
2010年05月23日 00:47
vivajijiさん、こんばんは。

>『いま』と読ませてくださいね~(^ ^)
了解。^^)ゝ

>エンディング
少年がグラン・トリノを走らせ、
そこにイーストウッドの歌声が重なるところですか。
重苦しい雰囲気がさっと吹き飛びましたね。

>「ブルグ劇場」
厳しいかも。
というのも、これ自体が再放送だった
若しくは何かの事情で放映できなかったかどちらかなんですよ。
再放映だったらちと厳しい。

>“HD残量不足にて録画不可”
あらま。
お勧めだから、機会があったら是非。

>1点の快挙(笑)
昔みたいに手あたり次第に観ていれば、もっと出ますが。^^;
「かわいい」有難うございます。<(_ _)>
2010年05月23日 01:05
こんにちは.
アメリカの変容を、イーストウッドなりに描いた作品だと思います。
開拓の美意識を保存しつつ、自己否定をしていくわけですが、そのことでひとつの時代の終わり、あるいは終わらせ方というものを、感動的に描いていると思いました。
オカピー
2010年05月23日 09:27
kimion20002000さん、こんにちは。

全く仰るとおりですね。
僕は一種の西部劇と見ていますが、自ら西部劇であることを否定しなければならない(現代の)西部劇なんですね。
そこに感慨深いものがありました。
2010年05月23日 15:00
こんにちは。オカピーさんの採点、やはり9点でしたか!
我が家でも相方が、それほどイーストウッド映画の信奉者でもないにもかかわらず、「この映画はすごい出来だね」とやはり9点並の評価でした。

ただ、私はご存知の通り、個人的にはこの作品は観た後にとてもツラくなってしまって、シンドイ映画でした。。。

映画館で観た際には、この映画は米国人(というかW.A.S.P.)に特有の正義感と男気を描く一方で、米国に限らずどんな国にでも見られる暴力の連鎖を真正面から捉えている点が興味深いと思いました。

が、「人種間移民間同士の対立は収まらない一方で、アメリカの伝統は人種・民族を問わず良き移民たちが受け継ぐのだ」という一文を拝読して、そうか、そこだったのか!と今頃になって目からウロコ状態です。
オカピー
2010年05月24日 00:37
RAYさん、こんばんは。

>9点
アメリカの現状を踏まえ、ここまできちんと作れば、という感じにさせられましたよ・・・。
最近の映画に不満を覚えているので、たまに良い映画に逢うと跳ね上がってしまうという傾向が無きにしも非ずですが。^^

でも、この作品は希望を以って終っているので、後味はそれほど悪くないと思いますですよ。彼の行為は自分の死をどうすれば最大限に生かし、どうすれば自分以外の人間の被害を最小限にするか、ということですから。
勿論自分をイーストウッドの身に置いてみると、相当辛いものになりますが、アメリカの未来のあり方を示唆した作品として胸に迫りました。

>目からウロコ状態
僕の勝手な解釈ですけど、当たらずとも遠からずではないかと。
2010年05月24日 01:13
こんばんは。
>アメリカの将来選ぶべき道
なるほどです。
アメリカ史というだけでなく、未来への提言でもあったのですね。

>一種の西部劇
同感です。
世間でよく言われている“老いたダーティハリー”ではないと思いました。
シュエット
2010年05月24日 09:59
劇場で観ていて、エンドロールが流れる映像とイーストウッドのしゃがれた歌声に思わず涙が溢れてきました。イーストウッドって、くどくなる一歩手前、ここまで描くと芝居がかって見える一歩手前で止めて、観るものを感動させる。そのあたりが上手いナァってとりわけこの間の彼の監督作品をみていてそう思う。
この後に公開された最新作モーガン・フリーマンとマット・デイモン主演の「インビクタス~負けざる者」も地味だけどとっても良かった。スポーツの試合のシーンではアフリカチームが勝利するとわかっていたにもかかわらず手を握って熱中してしまいました。感動のツボと押さえ加減と匙加減を心得ている。上手いよなぁって思う。本作でも有色人種に対する偏見や蔑視に対するあからさまな描写も決して声高でなくって、だからこれがアメリカの本音を語っているんだろうなって思える。今年5月で80歳だとか。老いてますます監督作品に成熟を感じさせる。本作での彼の腕の筋肉の逞しさ!パワーとエネルギーが違うんだろうね。
でも私が彼の監督作品で今もって好きなのは「許されざる者」と「ミスティック・リバー」。BSで南北戦争時代を背景にした出演作「アウトロー」が放映されれるけどこれは未見なので楽しみです。
オカピー
2010年05月24日 11:36
hashさん、こんばんは。

>未来への提言でも
イラク戦争が揺曳していた太平洋戦争二部作などと考え合わせると、そう思わざるを得ないですね。

>一種の西部劇
人物像にハリーに重なるところがあるにしても、これは西部劇ですよね。
ただ、西部劇であることを作品内部で否定しなければならない矛盾を抱えているわけですが。そこがまた興味深い。
オカピー
2010年05月24日 23:05
シュエットさん、こんばんは。

>感動のツボと押さえ加減と匙加減
そういうのは良いハリウッド映画の伝統で、かと言ってハリウッド映画の甘さに落ちていないという両立を保っているのが立派なところですね。
そこへ行くと、僕がイーストウッドより高く評価しているレッドフォードは完全に「わが道を行き」観客の要求に迎合せずに、しかし独善にならず非常に高い映画性を維持していて、それはまた別の意味で立派だなあと思います。

イーストウッドに戻ると、70代になってからさらに質が上がってくるなんてのは映画界でも珍しいです。大リーグのバリー・ボンズが30代半ばから桁外れのホームラン打者になったのに似ている。

>有色人種に対する偏見
主人公はそれを自分の苦悩の逃げ場にしていたようです。だから、東洋人に優しくされると意外と拒否反応を示すことができないんですね。そういう意味でも面白かったなあ。

>「アウトロー」
割合面白かった記憶があります。
僕はハイビジョンの「ダーティハリー2」を久しぶりに見るつもりですが。

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