映画評「ザ・バンク 墜ちた巨像」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2009年アメリカ=ドイツ=イギリス映画 監督トム・ティクヴァ
ネタバレあり

アイデア勝負の「ラン・ローラ・ラン」で躍進し、「パフューム、ある人殺しの物語」で全く素晴らしい映像世界を披露したトム・ティクヴァの新作は意外やかなり正統派の捜査サスペンスである。

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ベルリン、世界的メガバンクIBBCの違法行為を調査中の検事局員が変死、それを調べに同地を訪れたインターポール捜査官クライヴ・オーウェンと女性検事補ナオミ・ワッツはドイツ国内での捜査を禁じられてしまう。
 銀行が取引を希望しているイタリアの軍事メーカー社長に面談した直後首相候補でもある社長が演説中に暗殺され、現場に残された足跡が特製の偽足のものと掴んで犯人を特定するが、その暗殺犯と頭取の側近アーミン・ミューラー=スタールがニューヨークのグッデンハイム美術館で接触中にIBBCの刺客が暗殺犯を狙撃、一緒にオーウェンも殺そうと猛烈な銃撃戦になる。
 辛うじて生き残ったオーウェンは訳ありの側近を抱き込んで頭取ウルリッヒ・トムセンをイスタンブールに飛ばすように仕向け、司法を超えた捕物に挑む。

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というお話はややこしいように見えて実はシンプルで、特に前半は「ラン・ローラ・ラン」のようなファンタジーを作ったティクヴァとは思えない程ストレートにサスペンスを構成している。作品のタイプとしては70年代の捜査映画風の渋い味わいで華美な展開を求める若い人にはつまらないかもしれないが、僕ら昭和半ば生まれ以前の世代では手応えを覚える人も多いだろう。

カット割りも適切で切れ味が良い。優れたショット感覚は特に美術館の銃撃戦で発揮され、何が良いかと言えば、やはり登場人物が何をやっているか全体像が解り易く描かれていることである。銃を誰に向けているのか解らないようなカット割りが多い近年の作品の中ではきちんとしている。当り前のことを当り前にやっているだけですがね。

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最後に新聞記事が事件後の経過を紹介しているのは良し悪し。つまり、ナオミ・ワッツの検事補が調査を始めるという文言には希望が感じられる一方で、国家を巻き込む巨悪は司法では取り締まり切れないという現実を描いた本編のやりきれなさを中和してしまっているような気がするからである。

「何十日間世界半周」だったのでしょうか?

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この記事へのコメント

2010年05月15日 19:40
トム・ティクヴァ監督作だったのですね!
貴記事でいま、知りました。^^
近頃のWOWOW放映で最初~最後まで
じっくり観せてくれたのは
本作と本日の拙記事で取り上げました
A・イーストウッド初監督ものだけ。

本作の白眉は勿論白いモダンな美術館での
円形を使った銃撃戦でしたが、私的には
全編ほとんど全てのショットが素敵且つ
緊迫感に溢れそれでいとても座りがいい、
と感じ「これは凄い監督が出てきた」と
思っていながら調べもせず
雑事に追われてトッピンシャン。(笑)

余談ですが
鑑賞後の数日後、今度はCSで
87年パオロなんとかさんの映画で
ハリボテの白い「巨象」が焼け落ちる
シーンを観ました。
なかなか面白かったと記憶してます。

>銃を誰に向けているのか解らない

ほんとに。
まるで“述語”ばっかりのテッポ戦。
「撃った!」「撃った!」「撃ったぞ!」
「どうだ!」「どうだ!」「こんな撃ったぞ!」
・・・・・zzzzzz(- -)
2010年05月15日 22:06
>何が良いかと言えば、
やはり登場人物が何をやっているか全体像が解り易く描かれていることである。銃を誰に向けているのか解らないようなカット割りが多い近年の作品の中ではきちんとしている。
当り前のことを当り前にやっているだけですがね。

もう、これにつきますね。
ほんとうに、最近のただ、銃声が飛び交うだけのアクション映画は
どこかに行ってほしいです。
オカピー
2010年05月16日 00:44
vivajijiさん、こんばんは。

>A・イーストウッド初監督
そうですか。悩んで末に観なかったです・・・

>緊迫感に溢れそれでいとても座りがいい
カットで刻むところは刻んで、パン若しくは移動撮影も取り入れて・・・素晴らしかったと思います。

>銃撃戦
映画に文法ということがあるのを知っていれば、本作の様なカット割りになってしかるべきなんですけど、格好良さだけを求めて、何が何だか解らないアクション描写ばかりになってしまいましたね。

>87年パオロなんとかさんの映画
かのサイレント映画の金字塔「イントレランス」の
製作風景を再現した「グッドモーニング・バビロン!」ですね。
確かあの年に観た新作映画ではベスト1にしたと思います。
興奮しきって映画館を後にしたものです。
あの頃パオロ&ヴィットリオのタヴィアニ兄弟は絶好調だったなあ。
オカピー
2010年05月16日 00:50
えいさん、こんばんは。

近年(と言っても大分前からですが)映画のカット割りが劇画的になっていると思うのですが、前後ショットの繋がりが悪く、かつロングを使わないので、何をやっているのか碌に解らない映画が多いですね。
誰が誰に向けて撃っているかくらいはしっかり撮れ、と言いたくなることが多いです、最近。
シュエット
2010年05月17日 10:29
P様が放映される本作をみていくつ点数をつけられるのか、ちょっと心配してました。周りでは本作は低評価だったもので。私はさすがトム・ティクヴァ!
彼自身の視点がとてもはっきりしている作品と評価している作品です。
レビュー読んでいるとP様はいわゆる映画の文法という視点で本作について書かれていて評価されているけれど、それもこれも映画内容がともなってのこと。
私は原題である「THE INTERNATIONAL」この実態に迫った作品といえる、というところで評価。
<邦題はなんとナンセンスで、テーマを歪曲していることか!>って思いました。
オカピー
2010年05月17日 22:33
シュエットさん、こんばんは。

>それもこれも映画内容がともなってのこと。
勿論です!^^
映画批評には二種類のタイプがあります。主題主義と技術批評です。
技術批評といっても実際には主題や狙いをどう効果的に映像化できているかを測るわけです。中には映像ばかり追って物語を無視する偏った技術批評の方もいらしますが、そういうのは映画界の為になりません。逆に、純然たる主題主義の立場で技術を無視するのも同様。

僕はだから内容と技術を関連付けて書くことが多いのですが、本稿では、最後の三行がそれに当たるでしょう。

本稿で技術だけを独立して語っている部分があるのは、昨今のアクション場面が余りにひどいことを読者(笑)に知らしめたいと思ったからです。^^

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