映画評「おとうと」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1960年日本映画 監督・市川崑
ネタバレあり

明治・大正期の大文豪幸田露伴の娘幸田文の同名自伝的小説を水木洋子が脚色、市川崑が映像化した文芸映画の名作。Wikipediaは怠慢も甚だしいことに、映像化としてTV版しか載せていない。

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映画は明確に時代を示していない(と思う)。1904(明治37)年生まれの文女史の十代の物語とすると大正時代と考えて良いのだろうが、後半ヒロインげん(岸恵子)の弟・碧郎(川口浩)がモーターボートに乗る場面は僕の考える大正時代よりぐっとモダンな感じがする。

文豪で締め切りに追われる父親(森雅之)やキリスト教徒で厳格な継母(田中絹代)に十分愛されない為に徐々にぐれていく碧郎少年がただ一人頼るのは江戸っ子らしく歯切れの良い言動の姉げんで、そのげんにしても弟の不良化を止めることができないまま、少年は結核を発症する。ここに至って両親も愛情を示すが、時既に遅く夭逝する。

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というお話で、姉弟がいつも喧嘩しながらも互いを思いやる様子に胸を打たれ、特に終盤、なべ料理を一緒に食べようと頼む時の病床に伏せる弟の思いや、起床させる為に結び合ったリボンが彼の危篤の合図となる場面にはホロリとしてしまう。後者は日本映画史に残る名シーンなり。
 雨の降る道を傘もなく駆けて行く弟を姉が追いかけて行く開巻直後の場面も切れの良いカット割りで強い印象を残している。このファースト・シーンのみで姉弟の緊密な関係を物語ってしまう辺り、原作による部分が大きいとは言え、市川崑らしい上手さである。

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今回はNHK-BS2の放映で再鑑賞したわけだが、初公開当時に行なわれた世界初の銀残し映像再現に努めたということで、実に渋い味わい。戦前の気分を出すには適した映像処理らしく、先日観たクリント・イーストウッドの「チェンジリング」もどこか銀残し的映像だった。銀残しを考案した宮川一夫のカメラも素晴らしい。

岸恵子は「君の名は」などより本作のような姉御的なキャラクターの方が似合う。

学生時代二つ上の姉には世話になった。いつか恩返しをしたいと思うが・・・。

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この記事へのコメント

2010年01月31日 09:46
プロフェッサー、おはようございます。

この作品、私はまだ未見ですが、宮川一夫カメラマンが完成させ、市川監督が初めて実用化した作品でもあるこの「おとうと」、
市川芸術の極致とも評されることのある作品でけに是非鑑賞したい作品です。

このプロフェッサーの評、そして昨日山田版現代の「おとうと」を鑑賞したことでその気持ちがより強くなりました。

山田版の方は、現代らしい問題を描きながらもやはり目頭が熱くなる描写でした。
映画の最後に、

“市川崑監督作品「おとうと」に捧ぐ”

のクレジットがでてきます。
山田監督のオマージュが込められたこちらもあたたかい作品でした。
2010年01月31日 11:50
すみません、上記のコメント、「銀残し」の言葉が抜けてしまいました。
オカピー
2010年02月01日 00:34
イエローストーンさん、コメント有難うございます。

日本映画はじめじめした作品が多かったわけですが、市川崑監督は情緒を残しながらも湿っぽくなりすぎない切れ味のよい描写で見せました。
さすがに終盤はお話の構図としては湿っぽくなりますが、演出が必要以上にじめじめしていない。この辺りが市川監督の尊敬すべきところですね。

テクニックなら市川監督にも負けない(僕は勝手に日本一と思っている)山田洋次監督の「おとうと」は早めに観ておきたいなあ。
シュエット
2010年02月02日 10:34
おはようございます。
本作、私もNHK・BSで見ました。そのまえに宮川一夫さんのドキュメンタリー番組もあり、銀残しの説明や、「羅生門」の高い評価は宮川さんの映像がなければという、黒澤監督の手紙など面白く見ました。
数年前にも劇場で市川崑特集で見たのですが、今回も、姉と弟の間に流れる情愛がせつせつと伝わってくる。情感あふれるこんな作品を、今の若い人がみたらどう反応するんでしょうね。姉と弟の心情など汲み取れないでしょうね。
オカピー
2010年02月03日 00:27
シュエットさん、こんばんは。

これはね、30年くらい前に、オールナイトの市川崑特集4本立ての一本目で観ました。「おとうと」「炎上」「私は二歳」「野火」だったけな。

>姉と弟の心情
今は一人っ子が殆どだから兄弟の心情は解りにくいだろうし、そうでなくても他人の心情への洞察力がない人が圧倒的に多い。
3年くらい前に観た「フラガール」で母親が練習の為に踊っている娘に声をかけないのは現実的でない、などというのは、親子というもの・人間というものが解っていない感想と思いましたね。

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