映画評「ブーリン家の姉妹」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2008年イギリス=アメリカ映画 監督ジャスティン・チャドウィック
ネタバレあり

ヘンリー八世をテーマにした作品としては、「ヘンリー八世の私生活」(1933年、日本では劇場未公開)、「わが命つきるとも」(1966年)が印象深いが、二番目の妻アン・ブーリンを前面に出した本作と同工異曲の作品では「1000日のアン」(1969年)という佳作が記憶に残っている。

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正室キャサリン(アナ・トレント)が世継の男子を産めない間隙を縫って、ブーリン家の当主(マーク・ライランス)とその義理の弟ノーフォーク卿(デーヴィッド・モリッシー)はアン(ナタリー・ポートマン)をヘンリー八世(エリック・バーナ)の側室にし男児を儲けさせて出世しようと企むが、王の関心を最初に引いたのは地味な妹メアリー(スカーレット・ヨハンソン)で、結局男児を産んだ後放逐される。
 高慢で野心的すぎる為に為に一度フランス宮廷に追いやられたアンはそこで男をやりこめる手腕を獲得して英国に戻ると、その駆け引き術で王をたちまち虜にし、彼女に要求に屈した王はキャサリンと離婚する為に英国国教会を作ってローマ教会と決別する。

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この史実は英国史において五本の指に入る大事件であるわけだが、本作には史劇として作る意図がない為にごくあっさり処理され、その為にヘンリーの性格も単に好色で残虐な政略家という人物像ではなく、それなりに知性があり多少好色、野心も併せ持つ君主といった印象に改変されている。

勿論アンが王妃になって三年弱で死刑になってしまうのは史実通りで、最終的に漂う悲劇性も「1000日のアン」と変らないが、悲劇の基になるのが前述作では通説どおりヘンリー八世とその周辺の野望であるのに対し、本作は一族男性の野望である。だから、母親に「男を手玉に取る技術を学べ」とフランスに送り出された後修行して帰国した彼女の脳裏にあったのは父親と叔父に【女性力】を見せつけることだったにちがいない。その叔父は自ら彼女を虎穴に放り込みながらその尻拭いもせずに審問団の一員として「有罪」を告げる。これを悲劇と言わずに何と言おうか? しかし、彼女が「あなた方の評決は神により裁かれる」と告げたように叔父は結局処刑され、アンの娘エリザベスが女王として君臨することになる。

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史実と違えた部分もあるのは、英国史を変える原因となった重要人物アン・ブーリンではなく、妹と愛憎を交錯させるアン・ブーリンを主人公にした、大奥風【女性映画】と言うべき性格に仕立てる明確な狙いがあったからである。ヘンリーの好色性・残忍性が薄いのは悲劇の根本原因を一族の男性に帰する為の、即ち男性対女性の物語にする為の改変と考えられ、これはこれで興味深いお話になっている。

しかし、映像がHD撮影で我々の実際の視覚に近い為に薄っぺらな感じがするのは有難くない。

16世紀ウーマン・リヴ運動の手段は男をたらしこむことだった、というお話。

この記事へのコメント

2010年01月15日 21:47
こんばんは。

これHD撮影だったんですか?
気がつきませんでした(汗)。
2010年01月15日 23:04
「ミツバチのささやき」のあの女の子が、こんな妙齢になっていらしてビックリしました!
それはさておき・・・若干、昼ドラ的ではありますが、わたし的にも7点でした。
そういえば、つい最近、BSで「わが命つきるとも」をまた放映していましたね。
何度観ても秀逸な作品だと思います。

余談ですが、私は以前、長く某大手外資系企業で働いていたことがあるんですが、典型的”ガイシな職場”にはヘンリー8世とかアン・ブーリンな人々が多かった記憶が! 
まあ、野心家とか、出世欲も色欲もかなり強い肉食系な人種が多いからでしょうか?
私はどちらかと言うとアキ・カウリスマキ映画みたいなノリの人種なので、そんな職場から解放されて、今は平和です 笑
オカピー
2010年01月16日 01:30
えいさん、明けましておめでとうございます。

>HD撮影
TVのハイビジョンで見ると良く解るんです。
映画館だと案外解らないものなのかもしれませんね。

HD撮影でも映画は一度フィルムに移しているので、十分フィルムっぽい印象を残す作品も少ないありません。本作のようにHDそのままと作品との違いは放送局に渡す状態の違いから生まれるのかと想像しているのですが。
オカピー
2010年01月16日 01:58
RAYさん、こんばんは。

>「ミツバチのささやき」のあの女の子
クレジット観てびっくらこきました。(笑)
やはりスペイン人ということで連れて来られたんですね。
その割に英国人が出ていないという話もありますが。(笑)

>「わが命つきるとも」
素晴らしい作品ですね。
数年前に観たので今回はスルーですが、保存版DVDだけはしっかり作る予定です(現在HDD保存)。

>アキ・カウリスマキ映画みたいなノリの人種
僕もそうかな。
余り出世には興味なかったなあ。
あちらにも淡白で、好きな人は一人いれば良いと思う口ですよ。
シュエット
2010年01月18日 10:37
週末に「ヴィクトリア女王~世紀の愛」を観てきました。世継ぎの男子を熱望したヘンリー8世。世継ぎが欲しかったのか、単に好色だったのか、英雄色を好むの例えのように性欲の強さが精力の強さと正比例するんでしょうね。まぁ、そういうことは横において…
男子の世継ぎ、世継ぎといっていたヘンリー8世以後、エリザベスといいヴィクトリアといい女王が頑張ったってのも面白い。
本作はまさに大奥的に楽しませてもらった映画。
男の野望に対し、女は手練手管で男を手繰り生き延びる。
作中でブーリン姉妹の母役のシャーロット・ランプリングの言葉もまた凄い。あの時代、男も女も凄まじかった。
>「わが命つきるとも」
観ましたよ。しかしイギリス王家の中でヘンリー8世にまつわる物語は、とりわけ創作意欲をかきたてる素材でもあるんでしょうね。考えたらイングランドをイングランドたらしめた国王でもあるわけですからね。
オカピー
2010年01月19日 14:42
シュエットさん、TB&コメント有難うございます。

全く馬鹿なことに、昨日からのウェブリのメンテが午後8時なのを10時と感じ違いして、一生懸命打ったコメントがパーに。
わざわざ連絡の記事を書いて、自分で間違っていたら世話がない。

>ヘンリー8世
本作の8世は、好色ぶりも残忍ぶりも他作よりぐっと内輪の感じがありましたなあ。
記事でも書いたように、彼女の行動のモチーフがブーリン家の男性たちをやりこめることにあったような気がするので、8世はこの葛藤劇の中では脇役に置かざるを得なかったのでしょうね。8世を従来通りの猛虎のような人物にするとお話が単に暴君の犠牲になるアンの悲劇に終わってしまう。

>女王が頑張ったってのも
本作が<男性VS女性>の図式をモチーフにしたのも、恐らくは女性の作者ゆえの皮肉があったのだと思います。

>シャーロット・ランプリング
???
クリスティン・スコット・トーマスでしたよん。^^
僕も彼女の名前は忘れてしまうのですけど。^^;

>「わが命つきるとも」
「ユートピア」のトマス・モアにあそまでの執念があったとは!
今回はDVDを作っただけでスルーしましたが、何度も観ています。

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