映画評「闇の子供たち」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2008年日本映画 監督・阪本順治
ネタバレあり

どんな天才的な監督も頼まれ仕事において出来の悪い脚本から秀作は作れないので、当然凡作の類もままあるわけだが、現在日本の映画監督の中で展開における馬力で阪本順治には信頼を置いている。全てを監督の責任に帰して「あの監督は、この監督は」という声を聞くことが多いが、出来映えの最終責任はあるにしても必ずしもそれが監督の実力を示すものではない。本作も、梁石日の原作を自ら脚色した本には不満はあるが、馬力のある演出は魅力である。

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本社の情報を基にタイで臓器売買の実態を調べているバンコク支社の新聞記者・江口洋介が、自分探し程度の気持ちで社会福祉センターに従事する為にバンコクにやって来た妙齢の女性・宮崎あおいと知り合い、彼女や本社の記者と共に日本で患者の両親に取材するが、彼女は青さを露呈して親を怒らせてしまう。
 タイに戻った彼はバックパッカーの写真家・妻夫木聡を雇って決定的写真を撮り、一方、彼女は児童売春の犠牲になった少女の救出に成功する。

ジャーナリスティックな視点では彼等がいくら頑張っても、人間に欲望があり、南北格差がなくならない限り、抜本的に解決する道には程遠い。これは映画の中でも述べられているが、映画評たる本稿で本格的に論ずべき問題ではない。

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さて、後で精査すれば解る部分が多いものの、観ている最中は理解しにくいところが多い作品である。例えば、江口が子供の顔を見つめてしまう様子、あおい嬢に対して「俺は君を裏切っている」という台詞、「俺は気色悪い日本人ではない」という反語的台詞を伏線に、江口自身が児童買春を行っていたことが解るというどんでん返しがある。
 順を追って理解すれば「唐突」などという誤解は出て来ないのだが、実はかく言う僕自身不覚にもその瞬間にはそう思ってしまったのである。僕を含めて鑑賞者の集中力に問題があるとは言え、布石の置き方に気を持たせすぎるところがあって展開に隙間が出来ていることに起因することも否定できない。

あるいは、NGOに潜入していたマフィアのスパイが集会で警備する警官に発砲することに対して疑問を呈する人が多いが、活動の邪魔になるNGOの犯行と思わせる為の戦略と思う。それはNGOリーダーの女性が警官に放つ「彼等は仲間じゃない」という台詞により裏打ちされる。

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種々の問題を扱い過ぎているので問題を特化したほうが良いと言うご意見も目にした。特化云々はともかく、どれも密接の関係があり切り離すことはできそうもない。
 しかし、その中で映画として認めにくいのは、記者の江口をぺドファイル(児童性愛者)にする必要性である。日本人がこの題材を扱う根拠とする布石なのだろうが、些かあざとすぎるのではあるまいか。

後味は悪いが、需要側の立場である日本からこの類の力作が出てきたことは一応良しとすべきなのだろう。

最後に余り重要ではないことで、もう一つ。桑田佳祐がエンディングの曲を歌っていること自体に対して「タイが湘南になっちゃう」といった批判的な意見をする人はサザン・オールスターズの彼しか知らないわけで、明らかに勉強不足。ソロでの桑田は社会的メッセージ・ソングを自然に歌える数少ないシンガー・ソングライターであり、現在の日本で本作にふさわしい歌詞付きの楽曲を提供させるなら彼以外に考えられない。

闇の大人たちじゃよ。

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この記事へのコメント

塚本
2009年09月25日 04:56
勉強不足って…
あのラストに桑田はそぐわないと感じさせているのは事実で、楽曲込みで作品はひとつのもの
サザンの桑田しか知らないからといってそれについて勉強してこいとは余りに傲慢
そんな責任は見る側に求める事ではない
オカピー
2009年09月25日 09:40
塚本さん、こんにちは。

>桑田はそぐわないと感じさせているのは事実
とは言えないでしょう。
貴殿についてはともかく、
発言者の桑田=サザンから来る思い込みに過ぎないと思います。
そんなことを“事実”と言われても困る。
彼が桑田を全く知らないで聞いたなら、あの歌が“湘南”を感じさせることはなかったでしょう。従って、それは思い込みです。
「桑田の歌が合わないのは事実」というなら、必ずしも否定しませんが。
或いは、インストではなく“歌”という手法が合わないというなら解ります。
しかし、歌を入れるのは近年の流行。
95%の映画が幕切れに歌を入れている以上、作者は責められない。

>楽曲込みで作品はひとつのもの
それは当然。
しかし、僕は「歌っていること自体」と言っているのであって、
歌が合っているか否かということについては
一言も言っていない。よく読んでくださいね。

記事最後の一文は実質的に映画評からは切り離したものですが(貴殿がそう理解できないようなら、僕のミス)、
サザンしか知らないから「桑田=湘南」なんて安易な発想が出てくる。
観る側に求めているのではなくて、
知らないことを根拠に下手なことはいってはいけない、
という戒めですよ。
合わないなら余分なことを言わずに
「歌が合わない」とだけ言えば終わりでしょうに。

桑田=湘南という誤った理解から「タイが湘南になっちゃう」という間違った批判をしても良いというなら、
極論すれば、映画を間違った理解から批判しても良いということになり、
それは作者に対して余りにも失礼ではありませんか。

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