映画評「落下の王国」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年インド=イギリス=アメリカ映画 監督ターセム・シン
ネタバレあり

監督のターセム・シンは初登場かと思ったが、「ザ・セル」(2000年)という映画でお目見えしていた。6年ぶりの新作、7年ぶりの日本劇場公開なのでむべなるかな。次の作品は2010年完成ということからもかなりの凝り性ということが伺える。

1910年代、オレンジ摘みの最中に木から落ちて片手を骨折した5歳の少女アレクサンドリア(カティンカ・アンタルー)が、映画の撮影中に重傷を負って同じように入院しているスタントマンのロイ(リー・ぺース)と仲良くなり、時間潰しにお話をねだる。
 彼は即席で、邪悪な総督に弟を奪われたマスクの山賊がやがて弟の死体を発見、仲間と一致団結して復讐する機会を伺う、というお話を語る。

つまり、病院内の陰鬱な現実と彼の語る華やかな空想場面が交互に展開するという構成で、序盤のうちはあでやかな衣装で楽しませる冒険シーンが次々と展開する。冒険の背景は世界遺産という豪華さで、とにかく視覚的には豪華料理フルコースを味わうが如し。

さて、冒険談は次第に仲間が次々と死んでいくという暗澹たる内容に変質していくが、それもそのはず、恋人を主演俳優に奪われて絶望に沈んでいる語り部の現実が反映しているからで、この辺りから現実世界の内容が空想世界と同化し、聞き手のアレクサンドリアちゃんまで画面に登場するようになる。

視覚が断然魅力的な一方で、お話の方は些か物足りない。本来楽しくあるべき冒険談が気勢が上がらない上に、現実場面により流れが寸断されてしまうからである。鬱々たる場面の合間に冒険を見せるというアイデアは、心理ドラマ的なアングルから捉えれば決して悪くない構想なのだが、やはりちぐはぐなのである。最後まで観ると1910~20年代のスラップスティック・コメディー(ドタバタ喜劇)の危険極まりないアクションへオマージュを捧げていることが解るだけに、もっと明朗な冒険活劇的場面で構成してくれたなら、これだけの映像と衣装が用意されているだけに相当ご機嫌な一編になっただろう。

配役陣では、冒険場面の若手リー・ぺース君もサイレント時代の冒険アクションスター、ダグラス・フェアバンクスよろしくなかなか奮闘しているが、カティンカ・アンタルーちゃんの芸達者ぶりには舌を巻く。美少女というタイプではなくても一挙手一投足が何とも可愛らしい。

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この記事へのコメント

2009年09月22日 18:46
TBありがとう。
僕は、耽美派かい、といわれちゃいそうですがこういうシュールな映像化は、とても好きなんですね。お話の方は、この物語の登場人物のお嬢ちゃんと同じぐらいのレベルであらまあ、てなもんで、あんまり深くは覚えていないんだけどね(笑)
オカピー
2009年09月22日 22:25
kimion20002000さん、こんばんは。

映像は本当に素晴らしいですね。
世界遺産も素晴らしいですが、オリジナルの造形美も捨てがたいです。

>お話
他愛ないのは構わないのですけど、冒険ものなんで、僕はサイレント映画のように明朗ならもっとニコニコできたなあ、という不満なんです。
2009年09月23日 20:53
コメトラありがとうございます。
私は風景に感動しなかったので、もうその時点で脱落し(笑)、作り話もたいしたことないなあと思いました。(苦笑)
私には、現実の語り手と聞き手の、胸に迫る関係が、すべて、といってよかったです。
オカピー
2009年09月24日 00:56
ボーさん、こんばんは。

風景については人それぞれですかねえ。
僕は世界遺産が大好きですし。^^
様式美も気に入っちゃっいました。

>作り話
聞き手が幼女なので、他愛無いのは整合性から言って当然なわけですが、僕の場合は、心理的なアングルを凝らした為に冒険部分が暗くなってしまったのがつまらん、と思った次第。

>胸に迫る関係
僕の言う心理的部分ですね。なかなか良かったのですけど、最後のオマージュを観ると余計に不満になっちゃうんだなあ。(笑)
シュエット
2009年09月29日 11:20
>視覚が断然魅力的な一方で、お話の方は些か物足りない。
というわけで、私はいささか不満の残った作品でした。
でもエンディングの映像なんかはよかったなぁ。ここでジーンと来てしまったわ。今ひとつっところで、ビジュアル頼みかとイケズな眼で観てしまったわ。
2009年10月01日 21:28
やっとコメントしに来ました(汗)
アメブロメンテ多すぎ!
しかもチャットが面白くてなかなか越境できずにいました。
これは大好きなんです。お話が幼稚すぎる気もしますが、ロイはまんま監督の失恋体験を投影しているらしい。そう思うとターセム監督のなかなかオチャメでナイーブで少年っぽいところに興味しんしんとなってしまうのでした。
「セル」の映像も好きなので、わたしはとっても満足しました~~。
オカピー
2009年10月01日 23:15
シュエットさん、こんばんは。

僕は、空想の中の冒険譚くらいもう少し快活なら満足したと思うんですけどね。
すると現実のお話の方も変えないといけないかもしれませんが。

>エンディング
最後の最後は、本当の10~20年代のアクションでしたね。
同じく感激しました。
オカピー
2009年10月01日 23:20
しゅべる&こぼるさん、こんばんは。

>チャット
???
何して遊んでいるの?(笑)

>幼稚
いやいや悪くない構想ですよ。
しかし、ああいう風に陰々滅々にするなら、空想場面はギャングものにするとか、あったんじゃないかなあ。冒険映画はやっぱり元気じゃなくっちゃ。^^

>監督の失恋体験
僕も随分失礼もとい失恋しちょります。
いや、失恋まで行かないケースの方が多いかな。^^;
2009年10月02日 23:33
こんばんは。
>危険極まりないアクション
あれは、バスター・キートンですか。
ターセム監督が映画好きなのはわかりましたが、肝心の本編を見る限り、まだCM&PV監督の域を脱していないと思いました。
オカピー
2009年10月03日 00:47
hashさん、こんばんは。

>バスター・キートン
多分「恋愛三代記」から。
ハロルド・ロイドもあったような。

>CM&PV監督
そういう感もありますね。
様式美の才能はあると思えるので、そこらのアクション映画で細切れショットでお茶を濁している監督連中よりは遥かに良いと思いますけどね。

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