映画評「ICHI」

☆☆★(5点/10点満点中)
2008年日本映画 監督・曽利文彦
ネタバレあり

最近は強い女性が全世界的に人気なので、座頭市の女性版が出るのも不思議ではない。一応子母沢寛を原作としているが、僕は勝新太郎のシリーズ第一作を念頭に置いて観た。

さて、女性を主人公にすれば、物語はそのままというわけにはいかない。職業を座頭(按摩)から瞽女(ごぜ)へ変更、ヒロイン市(綾瀬はるか)と剣客とのロマンス的要素を入れようということになる。従って、勝新のように剣客と闘うという図式は避けられ、剣客が付く側は同情が寄せられるように設計されるという次第。

剣客の名はとんまならぬ十馬(大沢たかお)で、真剣では腰抜けなのに凄腕と勘違いされた彼が、かつての剣術指南役・万鬼(中村獅童)率いる夜盗一味とライバル関係にあるヤクザの用心棒に雇われる。
 少女時代に行方をくらました父親を捜す市が万鬼に仕留められて獄に投げ込まれるが、十馬が奪還。ここで一味同士のライバル関係と市をめぐる個人的ライバル関係という二重の対立が生まれ、結果、勝新第一作よりぐっとアクション映画的に仕上げられている一方、後半主役であるはずの市の出番が減ってしまい、設計変更の無理が顔を出す。

いずれにせよ、殺陣とりわけ市のアクションの処理には不満が多い。斬る瞬間だけをリアルスピードで見せ、その前後をスローで誤魔化しているからである。
 確かにこうすると物凄いスピードで斬った印象が生まれるし、限定的に使えばこのアイデアも褒めたいところである。少なくとも近年流行の細切れで何をやっているか解らないカット割りで見せられるよりはずっと良い。しかし、最初から最後までこの繰り返しではいけません。半分くらいはリアルスピードでショットの切り変えなしに一気にアクションを見せてくれなければ、殺陣の真の迫力は生まれない。現状では迫力がありそうに錯覚するだけである。
 人気女優起用ということで誤魔化しを多くする必要性があるのは理解できるが、スローを使わずに遅いものを速く見せるのも監督や撮影監督の腕の見せどころではないか。最初のうちに殺陣の上手いスタントウーマンを使って引き気味に撮ってきちんと見せておけば後の誤魔化し的演出にも好印象をもたらす筈だ。

女性版“座頭市”という設定から想像されるほどけったいな作品ではないが、それが必ずしも褒め言葉にならないのは残念。

勝新の居合抜きのスピードは凄かった・・・と改めて思う鑑賞後。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

ナイス

この記事へのコメント

2009年09月18日 17:48
こんにちは。
曽利監督は「ピンポン」を、スローモ-ションで当てたからなぁ、その癖が抜けきってないんじゃないの。
それにしても、男優たちの演技のひどかったこと!(笑)
オカピー
2009年09月19日 00:45
kimion20002000さん、こんばんは。

>「ピンポン」
そう言われればそうですねぇ。
「ピンポン」は特撮も交えていたり、ピンポンという素材故に余り気にならなかったかもしれないです。

>男優たちの演技
綾瀬はるか嬢だけが演技的には見どころでしたかね。
2012年01月23日 17:44
プロフェッサー、こんばんは。

本記事を読ませていただいて、正に同感です。まあ、点数にすれば私のが甘くなりますが。香取版を鑑賞した後なので余計です。

仰る通り、後半主役の活躍が薄く、山場が弱いのですよね。
それと、あのICHIの殺陣。これこそ同感で、最初は殺陣ができない綾瀬をうまく描いたなと想ったのですが、アレばかりではね・・・。
全部同じ手法ではなく、殺陣ができないのなら、これこそ画を割って違う見せ方をしてほしかったです。

では、また。
オカピー
2012年01月23日 21:39
イエローストーンさん、こんばんは。

アクション映画こそ、カット割りは大事ですよね。
最近は文句を言う元気もないですが、この作品くらいバカの一つ憶えみたいに同じアイデアの繰り返しでは、文句を言う元気も出てきます(笑)。

この記事へのトラックバック

  • mini review 09362「ICHI」★★★★★★☆☆☆☆

    Excerpt: 日本を代表する時代劇のダークヒーロー座頭市を、目の不自由な芸者“離れ瞽女”のヒロインとして設定した意欲作。近寄る者を斬り捨てながら生きてきた孤高の女性、市の過酷な運命が展開する。監督は『ピンポン』の曽.. Weblog: サーカスな日々 racked: 2009-09-18 17:44
  • ICHI/綾瀬はるか、大沢たかお

    Excerpt: あの座頭市を綾瀬はるかが演じる目の不自由な芸者を主人公にして描いたという話題作です。実はチャンバラ物や忍者物といったアクションたっぷりの時代劇ってわりと好きなんですけど、なかなかコレといったのには出会.. Weblog: カノンな日々 racked: 2009-09-18 21:38
  • 「ICHI」

    Excerpt: 儚げで美しい“市”でした Weblog: 心の栄養♪映画と英語のジョーク racked: 2009-09-19 00:19
  • ★「ICHI」

    Excerpt: TOHOシネマズの1ケ月フリーパスの期限ももう少しになっちゃってるけど、 ちょっと忙しくてなかなかシネコンに足を運べなくて鑑賞数が増えないんだけど、 「ららぽーと横浜」は金曜日もナイトショウ実施中.. Weblog: ★☆ひらりん的映画ブログ☆★ racked: 2009-09-19 02:20
  • 285「ICHI 市」(日本)

    Excerpt: 見えない境目が見えてきた  市は瞽女(ごぜ)と呼ばれる盲目の女芸人。かつては仲間と共に旅をしていたが、今は掟を破ったことで〝離れ瞽女〟として三味線を手に、たった一人で旅をしていた。  ある日道中、.. Weblog: CINECHANの映画感想 racked: 2009-09-19 16:00
  • ICHI(DVD)

    Excerpt: なに斬るかわかんないよ、見えないんだからさ。 Weblog: ひるめし。 racked: 2009-09-20 21:05
  • ICHI(143作目)

    Excerpt: ICHIはWOWOWで鑑賞し結論は悪くなく満足は出来た Weblog: 別館ヒガシ日記 racked: 2010-01-24 10:55
  • ICHI

    Excerpt: 久々に長い映画記事をかいたあと、かかせてくれただけみた価値はあったのかもしれないが、 どうにも虚しく、この空しさをはらすために、邦画を鑑賞した。 Weblog: 取手物語~取手より愛をこめて racked: 2012-01-23 17:37
  • ICHI(テレビ録画)

    Excerpt: ICHI 2012年01月02日01時45分00秒TBS新春シネマシアター「ICHI」 正月にやっていた綾瀬はるかさん版座頭市を鑑賞。 一応楽しめた。 市がサブキャラに見えるんです.. Weblog: 単館系 racked: 2012-02-20 00:28
  • 『ICHI』

    Excerpt: ----この『ICHI』って座頭市のこと? 勝新太郎や北野武とは あまりにイメージが違うけど…。 「それはそうだよね。 原作者の子母沢寛は、 盲目の侠客、座頭の市について書いてはいるものの、 それはほ.. Weblog: ラムの大通り racked: 2012-03-06 22:22