映画評「シャークウォーター 神秘なる海の世界」

☆☆★(5点/10点満点中)
2006年カナダ映画 監督ロブ・スチュワート
ネタバレあり

サメが好きでスキンシップを図ってきた青年ロブ・スチュワートが、人食いと恐れられるサメが実際には殆ど人を襲うことがなく大人しく賢い生物であることを世間に啓発する為に作ることが所期の目的だったらしい海洋ドキュメンタリー。
 「らしい」というのは途中シーシェパードの創始者ポール・ワトソンが登場して、急にNGO団体のプロパガンダ映画みたいになるからである。

序盤は若いスチュワート氏がサメと戯れている光景などを見せ、8月の暑さも吹き飛ばすような快さが眼前に広がる。これは大いに宜しいとニコニコしていると、映画は台湾のフカヒレ業者がコスタリカの政府を買収してサメを乱獲していることを告発しだして調子がおかしくなってくる。しかし、そこからの論旨展開はかなり明快。つまり、乱獲により海の食物連鎖のトップにあるサメが激減すれば生物のバランスが崩れ、いずれ大きなツケとなって人間に跳ね返ってくる(究極的には人類は滅亡する)であろうというのである。

それ自体は正しいと思われるし、他の動物に比べて保護策が進まないのはサメが憎まれ役だからである旨の分析も前段が有効に生かされ、説得力がある。

が、NGOのプロパガンダのようになっている印象が避けられないのは大問題。彼等の主張や行動は必ずしも公平でも合法でもないのに、彼等の言動が全て正しいように扱われているのは全く気に入らない。特に、ポール・ワトソンが捕鯨に対し「これは紛れもない犯罪だ」と言っている最中に映される船は日本の捕鯨船である。日本は国際的に認められた調査捕鯨はしているが、違法捕鯨はしていないはずなので、こういう偏見に満ちた出鱈目はナショナリズムに縁のない僕ですら不快に感じる。日本の調査捕鯨と台湾業者の違法なサメ乱獲を同次元で語るのは乱暴すぎて腹が立つ。

邦題に偽りあり、ですな。

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この記事へのコメント

2009年08月20日 23:07
こんばんは。
>「これは紛れもない犯罪だ」
彼らにとっては捕鯨そのものが犯罪で、IWCに認められた調査捕鯨だからOKという概念はないのでしょうね。
私が不思議に思ったのは、コスタリカ政府に捕まえられるシーシェパードを、何故、日本政府が捕まえられないのかということでした。
オカピー
2009年08月21日 01:23
hashさん、こんばんは。

>調査捕鯨
ないですね。
しかし、鯨をここまで減らした元凶は日本を始め元々捕鯨文化のある国ではなく、灯油を目的に捕ったアメリカであるし、調査捕鯨の対象は数の多いミンククジラだったはず。
人間にも生きる権利があるわけで、シーシェパードの攻撃で少なからぬ人命が失われたことを考えると思想がアンバランス。彼らこそ紛れもない犯罪者でしょう。

>コスタリカ政府に捕まえられるシーシェパード
なるほど。
コスタリカの場合は、台湾業者(マフィア)の賄賂に屈して逮捕に出たらしいですけど、日本ができない理由はよく解りませんね。
まあくん
2009年09月03日 10:12
はじめまして、こんにちは。

> 日本は国際的に認められた調査捕鯨はしているが、
> 違法捕鯨はしていないはずなので、こういう偏見に満ちた
> 出鱈目はナショナリズムに縁のない僕ですら不快に感じる。

日本が南極海で行っている調査捕鯨について、オーストラリアの
裁判所が、クジラ密漁の有罪判決と禁止命令を出しています。
オカピー
2009年09月03日 23:37
まあくんさん、こんばんは。

所詮は捕鯨問題に関しては素人ですので技術的に間違いがあるかもしれませんが、僕の意見は下記の通り。

一国の偏った考えに基づく判決とは言え一応の尊重をすべきですが、日本は、オーストラリアなど反捕鯨国が多数を占めているIWCの総意として決められた調査捕鯨を南洋でやっているわけなので、オーストラリアも同様に所属する機関の総意を守るべきであり、それを無視した形の判決を認めるならオーストラリアはIWCを脱退すべきではないでしょうか(また、その判決そのものが同国の新聞社から批判されていると聞き及んでいます)。

従って、現在の段階では、国際機関であるIWCの総意の方が一国の判決より上位である以上、国際的なレベルでの“違法”とは考えません。
まあくん
2009年09月04日 00:13
こんばんは、ご返事ありがとうございます。

そういうことならば、ブログ主さんは、
国際的なレベルでの“違法”ならば不快に感じる。
国内的なレベルでの“違法”ならば不快に感じない。
ということでしょうか。

ちなみに、IWC本会議では、日本の調査捕鯨に対して、
中止を求める決議が繰り返し採択されています。
オカピー
2009年09月04日 10:02
まあくんさん、こんにちは。

本稿は映画評ですから、その論旨展開の為に「不快」という表現を使ったわけで、貴殿と捕鯨問題に関する議論を展開する気はありません。

一方で、現在の段階で、捕鯨問題に“国内的なレベルでの違法”はないと言うべきでしょう。あくまで個別的な国家間な意見の食い違いにすぎません。
現在、捕鯨は本質的な国際レベルの違法に達しているとは言えない以上、シーシェパードの“犯罪”という表現は、(数百年にわたって油の為に鯨を乱獲しその反省もない現在の反捕鯨国から発生したNGOによる)侮辱に当たると言わざるを得ません。
IWCが全面禁止にしたなら当然日本も順守すべきです。核廃絶の問題同様この類の話は水掛け論、どちらにも正しい面と正しくない面があるのは確かなので、僕にとってはこれ以上お話するのは時間の浪費です。

最後に、僕が不快だったのは、現在水掛け論の段階であり絶対的にそうとは言い切れない主観に由ることを、台湾マフィアによる明らかな犯罪行為と同列に並べ、映画的な扱いにバランスが取れていないことです。
しかも(環境テロリストのシーシェパードの立場は知りませんが)反捕鯨国の立場には実は産業的な背景が相当にあるので、サメの乱獲を禁止したいという作者がサメが保護されない原因として挙げたことと矛盾する部分が出、それに気付く人にとっては作品としての価値が弱める結果になっています。
まあくん
2009年09月04日 12:23
こんにちは、ご返事ありがとうございます。

捕鯨問題の議論は時間の浪費ということなので、法律に対するブログ主さんの考え方についてと、映画における倫理観の取り扱いについてを、カキコします。

サウジアラビアやイランなどイスラムの戒律が厳しい国々では、レイプの被害女性が不道徳であるとして鞭打ち刑や死刑に処せられることがありますが、このことに“国内的なレベルでの違法”はありませんし、本質的な国際レベルの違法に達しているかどうかも分かりません。

> 捕鯨問題に“国内的なレベルでの違法”はないと言うべきでしょう。
> あくまで個別的な国家間な意見の食い違いにすぎません。
> 本質的な国際レベルの違法に達しているとは言えない以上、
> シーシェパードの“犯罪”という表現は侮辱に当たると言わざるを得ません。

ということならば、イスラム法における女性の人権侵害を批判することは、あくまで個別的な国家間な意見の食い違いにすぎないのであって、人権侵害を「犯罪」であるとして厳しく批判することは、イスラムの侮辱に当たると言わざるを得ないことになりますね。

また、映画で取り上げられているというサメ乱獲問題と捕鯨問題は、生き物が残酷に扱われ動物愛護の倫理観に反している点が同じです。ですので、サメ問題と捕鯨問題を映画で同列に扱うのは、動物愛護の倫理観としてバランスが取れていると言うべきでしょう。

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