映画評「容疑者Xの献身」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2008年日本映画 監督・西谷弘
ネタバレあり

純文学・大衆文学を問わず現代文学を避けている僕が東野圭吾の名前をしかと憶えたのはなかなか興味深い「レイクサイド マーダーケース」映画版によってだった。昨日観た映画化としては初期の「g@me.」は面白いものの小手先だけで映画的魅力が薄く、本作も同じフジテレビを中心とした映画版なので高をくくって観たが、出来栄えはずっと良好。監督の西谷弘にしても前回観た「県庁の星」より断然堂々たる演出ぶりである。

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弁当屋を営む松雪泰子が娘・金澤美穂に激しい暴力を振るうたかり屋の前夫・長塚圭史を正当防衛的に絞殺してしまう。その物音を聞いた隣室の数学教師・堤真一は恩義を感じ密かに思慕している彼女を救うべく、その天才的頭脳を駆使して官憲を翻弄していく。

という倒叙ミステリーで、探偵役として堤を唯一無比の天才と認める天才物理学者・福山雅治が登場する。彼の興味は法律的な事件解決ではなくあくまで個人的趣味の範疇なのだが、その彼が開巻直後に狂言回しの女刑事・柴咲コウと戦わす【愛=科学的に解明できないもの】論を通奏低音として進行、ミステリーとしての趣向の面白さもさることながら、人生と社会に絶望した数学者が結果的に命を救ってくれた松雪嬢に施す献身が強く胸を打つ。

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天才同士の対決の図式は過去の有名ミステリーを引き合いに出すまでもなく面白いものが多いが、本作の場合は頭脳対決より“愛”をめぐる対立の構図が興味を引く。愛を否定的に考えていた福山“湯川学”雅治にしても天才と認める旧友の愛による変貌に人生の深淵を感ぜずにはいられないのである。

ミステリーとしては、「幾何と思わせて実は関数」という引っかけ問題を作ったという堤のトリックがなかなか興味深い。さすがにネタばれをポリシーとする(笑)僕としても本格ミステリーの種明かしはできないのでぼかさざるを得ないが、人間の思い込みを利用したもので、官憲同様僕も初期情報にすっかり踊らされました。

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やはり原作ファンを中心に役者への注文が多いようだが、多少の出来不出来はあるものの、絶賛も非難もできるほどのものはないと思われる。しいて言えば、他の出演作品とは全く違う堤のしんねりむっつり演技に見応えがある。

物理学者の姓が湯川なのは、湯川秀樹氏絡みなんでしょうかね。

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この記事へのコメント

2009年08月15日 13:51
プロフェッサー、こんばんは。

本作は、久々に熱い想いをもって記事を長々と書いた作品でした。
思いこみの激しい、そして偏屈である私故の見方かもしれませんが、

私はどうしても石神の献身に愛というよも、哀を強く感じずにはいららませんでした。それが原作と違う展開で愛になったよう気が私は、あくまでも私はしています。

堤の演技が、作品全体のトーンがそう感じさせるのかは不明ですが。

自身の記事でも書きましたが、最後主題歌『最愛』からTVのテーマ曲『vs.~知覚 と快楽の螺旋~』に変わったことが劇場で私にはとても救いでした・・・。

また、当方ある事情からコメントの受付をしばし閉鎖しました。
しばらく一方通行ですみませんが、お知らせまで。

ではまた。
オカピー
2009年08月16日 00:36
イエローストーンさん、こんばんは。

>コメントの受付
今、関連記事を読んでみました。
お怒りご尤も。
僕は、映画評を称する文章の中で小説などと映画のメディアの違いへの何の考慮もない「原作へのリスペクト」という表現を目にすると、非常識に感じますよ。

>愛というよりも、哀
数学者の性格からして、抽象的な感情については本人にもよく解らないのかも。(笑)
多分根源は“恩義”です。
ただ、相手が“美人”だったので、ただの恩義には終わらなかった?
だから、物理学者は“論理的”に“美人”ということを強調しているのでしょう。

画面の分割は、最後、堤が「連絡を最後にする」と言った後堤サイドだけが溶暗するアイデアを生かす為の伏線だったのではないかという気がしています。いかにも一方的な感じ(報われない愛か)が表現され、僕はファインプレーと思いましたよ。


コメントできないということなのでここで一言。
「インディ・ジョーンズ」シリーズの好きな順がイエローストーンさんと全く同じでした。「魔宮の伝説」の連続活劇的な展開がベストで、「失われた聖櫃」のオカルトは苦手です。
2009年08月16日 01:11
プロフェッサー、こんばんは。
再度お邪魔します。

分割の画は仰る通りの伏線、私が感じた点も含めたその表現だったのでしょう。たが、やはりなんか好きになれない画ですね(笑)。

>抽象的な感情については本人にもよく解らないのかも。

この点は仰る通りだと感じます。あくまでも鑑賞した私の想いです。
この二人の天才がもっとも苦手とする論理的でないもの、計算では割り出せない正確な回答のないもの、そう感情。
それが行動の動機だあるからこの作品は面白いのだと想います。

そして、なるほど、“恩義”ですか。

私が感じた愛以上のもの、石神が自身に課してしまったように感じたものは正にそれだったのかもしれません。

では、また。
オカピー
2009年08月16日 23:36
イエローストーンさん、こんばんは。

>好きになれない画
僕もこの種のタイプの作品におけるマルチ画面は余り好きではないですが、本作には積極的な意味があると勝手に断じています。たまには褒めないとね(笑)。

>それが行動の動機だあるからこの作品は面白い
僕の言う【人生の深淵】という表現に近いような気がします。

フジテレビが音頭を取った作品でここまで感銘させられるとは思いませんでしたよ。

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