映画評「さよなら子供たち」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1987年フランス=西ドイツ映画 監督ルイ・マル
ネタバレあり

ルイ・マルの自伝的映画に「好奇心」という思春期映画があるが、多少の照れがあったのか、時代を実際より6、7年遅らせ1950年代インドシナ戦争当時のフランスに舞台を移していた。1932年生まれということを考えると、1943年に始まる本作は正真正銘の自伝と言えるのではないかと思う。

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パリから山間部の寄宿学校に疎開した少年ジュリアン(ガスパール・マネッス)は、新しく転入してきたジャン・ボネ(ラファエル・フェジト)と、最初は強く反発するものの森でのゲームで一緒に行動をした頃から親近感を覚え、空襲で皆が避難している最中にジャズを連弾したりするが、密告により実はユダヤ人であったジャンは他の少年二人や匿ってくれた校長の神父(フィリップ・モリエ=ジュヌー)と共にゲシュタポに連行されていく。

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というのが主たる物語で、密告をするのが学校から追放された料理係の少年ジョゼフ(フランソワ・ネグレ)という辺りにマルが「好奇心」の次に発表した「ルシアンの青春」と重なって貧乏故に同国民を裏切っていく悲劇性が漂う。

が、マルはこの少年やナチ協力者を糾弾するというよりぐっと個人的な心情を沈潜した作りを目指したようで、12歳にもなってジュリアンが寝小便を繰り返したり、「好奇心」同様にマザコンだったり、チャップリンの短編映画「一日の行楽」に笑い転げたり、その傍で兄が伴奏のピアノを弾いている女性にちょっかいを出す様子を点出するなど、戦争を背景にしながらも楽しい情景を連ねている。

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しかし、だからこそ、幕切れで再会を約す別れの挨拶"Au revoir"を告げて学校を後にする校長らをじっと見つめるジュリアンの姿に、遂に戻ることのなかった4名に対する悲しみが強く浮かび上がる。戦中に味わった痛みを告白するのに43年もかかったマルの心中を思いやっても痛々しい。

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この記事へのコメント

シュエット
2009年06月06日 20:50
P様こんばんわ。
>密告をするのが学校から追放された料理係の少年ジョゼフ(フランソワ・ネグレ)という辺りにマルが「好奇心」の次に発表した「ルシアンの青春」と重なって貧乏故に同国民を裏切っていく悲劇性が漂う。
やっぱり、ルシアンとジョゼフが重なるでしょう?
そして、「さよなら子供たち」ではジュリアンの視点で、「ルシアンの青春」ではルシアンの青春を、それぞれの視点で描いているところに、ルイ・マルがこのころの体験が彼にどれだけ深い傷として引き摺ってきたか、その痛みが分かるし、決して感傷的には描いていないところが、凄いなって思う。
この二つはルイ・マル作品の中でもとりわけ本当に大事にしたい作品でもあるわ。
シュエット
2009年06月06日 21:01
「ルイ・マルがこの作品の15年後に撮った「さよなら子供たち」(1987)の中で描かれなかったもう一つの青春がここにあることを強く感じる。」
こんな書き出しで記事にした「ルシアンの青春」をもういちどTBさせていただきますね。
私は、ルイ・マルが先に『ルシアンの青春」を撮ったのは、やはり少年だった頃、ジョゼフという少年に憎しみしか抱けなかった、あの頃の自分に対して責めてきたところもあったじゃないかなって勝手に思っている。ジョゼフのことを語らないと、無邪気だったあのころの自分と自分が当時体験した感覚を描けなかったんじゃないかなって、そんな気がする。
シュエット
2009年06月06日 21:11
長々とすみません。
>戦中に味わった痛みを告白するのに43年もかかったマルの心中を思いやっても痛々しい。
フランス戦線のアルジェリア部隊を描いた「デイズ・オブ・グローリー」など歴史に埋もれ去られていたことが50年経ってようやく語られ始めてきたものガ多い。ドイツも自国の悲劇を描き出したのも21世紀になってから。
個人においても、国家においても、国の場合はそれ以外の要因もあるでしょうけれど、しかし、恥部ともいえること、傷みを、対象化して捉え、さらに言葉にして語るにはそれだけの時間が要るんだなってつくづく思う。
2009年06月06日 22:36
こんばんは。この作品、生涯の10本に入るくらい好きな作品の一つです。
10代の、まだ制服を着ていた年頃に、母と一緒に、今は無くなってしまった地元の古いミニシアターに観に行ったのを覚えています。

とても切ない哀しいエピソードを非常にクールに、静謐に描いているところに惹かれました。
映像もすごく絵画的で綺麗なんですよね。
ジュリアンとボネが森の中で迷ってしまうシーンなんかは「エコール」にも近い画作りで、すごく印象に残っています。
この映像の綺麗さが、劇中で描かれる、”やりきれない悲劇”を一層際立たせているように感じました。

ちなみにわたし的には9点献上です。
オカピー
2009年06月07日 01:28
シュエットさん、こんばんは。

>ルシアンとジョゼフ
マルが実際に観た“ジョゼフ”を肉付けして出来た人物像がルシアンですね。
本作においては、少年時代のジュリアン即ちマルがどう思っていたかはさておいて、大人になったマルには彼らのような中上流階級がジョゼフを裏切りに走らせたという思いがあるでしょうね。
複雑な思いがあるので、感傷的には描けない。

>恥部ともいえること、傷みを、対象化して捉え
先の戦争に関して、日本人は意見が完全に分かれて総意が出来上がってないので、誰も触れようとしないんでしょうね。
そういう意味で、70年代初めに岡本喜八が撮った「激動の昭和史 沖縄決戦」や山本薩夫の「戦争と人間」は勇気のある作品だと思います。しかし、これらの作品は「共産主義者の戯言」と右寄りの人に一蹴される運命を免れません。
僕は平和主義=共産主義という図式は甚だ誤っていると思いますけれど。戦いを好む好まないのに右も左もないでしょう。
オカピー
2009年06月07日 01:41
RAYさん、こんばんは。

>生涯の10本に入るくらい好きな作品
だったら、10点でも良いですよ。
僕も作品の完成度が高くて個人的な思い入れがある作品には遠慮なく10点を進呈してしまいます。
だから、8点と10点は意外と差がないはずなのです。

>非常にクールに、静謐に描いている
恐らくマルの経験を丸々(洒落です)映像化した作品と思われますが、成人してからの彼にはこの事件の本当の発端は自分たちの料理番に対する態度にあるのではないかという思いがあったと思います。
だから、彼としては静かに描くしかなかったのでしょう。
しかし、ある程度のレベルの観客になれば、映画に「感動しなさい」と誘引されるまでもなく、感動したり泣けたりもしますよね。逆に映画にそう言われると、つむじ曲げちゃって出てくる涙も止まってしまいかねません。^^

「ルシアンの青春」はご覧になっています?
本作の料理番と事実上の同一人物が登場して、何が彼を裏切りに走らせたのか非常に考えさせてくれますよ。素晴らしい作品です。
2009年06月07日 12:03
たびたびお邪魔します。
「ルシアンの青春」は未見なんですが、オカピーさんの過去のレビューを拝見して、非常に観たくなりました!!近々にツタヤで探してみます。

ルイ・マル監督の作品は多くを観ているわけではないのですが、どんなモチーフの作品でも、「人」を描く際に、はっきりと白黒(善悪)で線引きしないところが、かえってリアルな気がします。
つまり人は些細なことが引き金になって、善悪あるいは幸・不幸、どちらにでも転ぶ脆い運命に翻弄される生き物・・・というメッセージが、作品から伝わってくるような。
あとフランス映画の監督はタイプ分けを勝手にすると

■雑誌的 = 例:ゴダール
■漫画的 = 例:リュック・ベッソン
■PV(プロモーションビデオ)的 = ベネックス、ミシェル・ゴンドリー

といった感じですが、ルイ・マルとトリュフォーは「文学的」という印象です。
(すみません、なんか意味不明で・・・ 汗)
オカピー
2009年06月08日 02:04
RAYさん、こんばんは。

>はっきりと白黒(善悪)で線引きしない
フランス映画は伝統的にそういう傾向がありますね。
僕の尊敬する映画批評家の双葉十三郎氏は戦前からその辺りをよく指摘しています。
そういう伝統を壊したのはヌーヴェルヴァーグではなく、多分ベッソンです。

>運命に翻弄される生き物
僕も長いことフランス映画は運命論的と言ってきているんですよ。
人が努力して運命を変えていく、つまりアメリカン・ドリーム的な発想で作られたハリウッド映画とは一線を画す感じがしますなあ。
尤も昨今は映画が無国籍化していて、20年くらい前までならフィルムの色や撮影スタイルを30秒くらい見ればどこの国の映画か大体解りましたが、昨今はロシア映画でさえなかなか解らない。映画が魅力的でなくなった一要因。

>監督タイプ分け
なるほど。
マルとトリュフォーの文学的というのは、特に、そうですね。
マルの「恋人たち」「鬼火」、トリュフォーの「突然炎のごとく」「隣の女」辺りは全く凄い映画文学だと思わされます。

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