映画評「河童のクゥと夏休み」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・原恵一
ネタバレあり

アメリカの賑やかな3DCGアニメに相当うんざりしている僕には全く清涼剤のようなアニメ映画。素直に触れた場合、日本人の琴線を打つのはやはり日本人作家なのであろう。監督は「クレヨンしんちゃん」シリーズでお馴染みの(と言っても僕は二本しか観ていない)原恵一で、シリーズものも良いがこういう映画オリジナル(原作は木暮正夫の児童文学)をもっと作って貰いたい才能です。

画像

現代の東京は東久留米市、小学校6年生くらいの少年・上原康一が川原で化石と思われる大きめの石を発見して持ち帰って洗ってみると、少年の河童が現れる。実は江戸時代に大地震で生き埋めになった河童で、言わば冷凍保存から蘇った状態なのだが、江戸時代の百姓言葉を話せるので暫く一緒に暮らしてみることにする。
 夏休み、少年がクゥと名付けた河童と一緒に岩手県の遠野に出かけてクゥの仲間を探してみるものの、座敷わらしからもはや河童がいないことを教えられ、悄然と帰宅した時に雑誌カメラマンに写真を撮られてしまう。
 その日以降押すな押すなの大騒ぎが日夜続くので、一家はTVに堂々と露出することで騒ぎを回避しようとするが、そこで江戸時代に侍に斬られた父親の手と再会して感情を爆発させたクゥは外に出、町を混乱に陥れる。

画像

宮崎駿の「となりのトトロ」と比較する向きもあるが、素材的には同じジブリでも高畑勲の「平成狸合戦ポンポコ」に近く、出来栄えも似たようなものではないかと思う。

その視点から語れば、人間の物質欲で環境を破壊された日本にはもはや河童の住めるところはない、即ち文明批判であり、人類のエゴイズムへの批判である。その点においてクゥが一番信用した主人公及びその家族も非難を完全に免れるものではない。飼い犬“おっさん”がクゥに言う「人間としては悪くない方」という表現がそれを裏打ちし、少年がクゥをTVに出すことで注目されることに浮かれてしまうのは端的な例。

画像

大混乱の後「危険な河童は出て行け」という垂れ幕を見せて人間の身勝手さを感じさせつつ、少年が実は密かに思いを寄せている少女・菊池紗代子に、或いは、河童を見せない為仲間から外されていく康一少年に加えられるいじめとオーヴァーラップさせて“公約数から外れる者を排除(しようとする意識)”という人間の本能的特質を表現しているのが大変興味深い。
 結局、少年はいじめっ子に対してクゥに教わった相撲で対抗し、紗代子は「心を開いて飛び込んでいく」と宣言して転校、クゥは謎の手紙を信じて沖縄へと旅立っていく。克己したこの段階において彼らにもはやいじめる敵はいない。ひいては河童やその他の妖怪たちもいじめっ子の人類と共生していくことができよう、という幕切れは人類への皮肉に厳粛となりつつも実に爽快だ。

画像

家族との関係や少年と少女の半ば無意識な初恋といった日常的な描写を多く交えたところに感銘を高める要素があり、僕は何カ所で涙を流したことであろう。康一の6歳くらいの妹のコメディリリーフぶりも人間観察のたまものと思われる的確さで誠に感心させられる。

些か詰め込み過ぎた感はあるが、最終的に浮かび上がってくる生への讃歌に僕は「有難うございました」と頭を下げるしかない。

画像


40年くらい前、児童文学者の佐藤さとる氏がコロボックルと少年の交流を描いた「だれも知らない小さな国」を読んで大いに感動したのを思い出しました。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

十瑠
2009年05月01日 20:32
歳をとって堪え性が無くなったのか、長い映画に減点が目立ってしまう今日この頃です。^^
終盤のコンビニでの別れのシーンとか、結構長すぎたような・・・。

感激した娘は暫くクゥのおしゃべりを真似してました。
オカピー
2009年05月02日 02:23
十瑠さん、こんばんは。

確かにそういう面はありますねえ。
僕の場合は、長さより、時系列を操作したややこしい映画にうんざりしています。最近はそんなのばっかりで、良い加減にしろと言いたい気分。

本作の場合は、内容をもっと絞り込んで短く出来る可能性はあったと思います。コンビニの場面は長さそのものより、ちょっと呼吸が観客(即ち僕ですが)と合っていないかな、という印象あり。

>クゥのおしゃべり
やりそうですね。^^

この記事へのトラックバック

  • 河童のクゥと夏休み

    Excerpt: (2007/監督・脚本:原恵一/声の出演:冨沢風斗=クゥ、横川貴大=上原康一、田中直樹=康一の父・保雄、西田尚美=康一の母・友佳里、松元環季=康一の妹・瞳、なぎら健壱=クゥの父親、ゴリ=キジムナー、植.. Weblog: テアトル十瑠 racked: 2009-05-01 20:24
  • 映画 【河童のクゥと夏休み】

    Excerpt: 映画館にて「河童のクゥと夏休み」 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』などで高い評価を受ける原恵一監督が、5年の制作期間を経て完成させたアニメ超大作。 おはなし:夏休み前のある日、.. Weblog: ミチの雑記帳 racked: 2009-05-02 08:08
  • 河童のクゥと夏休み/田中直樹、西田尚美

    Excerpt: 子供向け映画なのに子供がほとんどいない客席ってどうよ?(笑)まぁお客さん自体が20人ちょいなんだけど夏休み中のファミリー映画でこういう環境だと落ち着いて観賞出来て助かりますぅ。今回は貯まりに貯まったT.. Weblog: カノンな日々 racked: 2009-05-02 08:24
  • 河童のクゥと夏休み

    Excerpt: 笑顔と涙いっぱい。 Weblog: Akira's VOICE racked: 2009-05-02 10:37
  • 河童のクゥと夏休み

    Excerpt: アニメは好きだけれど、 テレビの宣伝で見るこの映画の絵に全く興味が沸かなかった。 しかし、 私の大好きな作品「クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲 」の監督、 原恵一氏の.. Weblog: 映画、言いたい放題! racked: 2009-05-02 10:43
  • 映画 河童のクゥと夏休み

    Excerpt: 映画 河童のクゥと夏休み Weblog: 忍者大好きいななさむ書房 racked: 2009-05-21 23:20