映画評「歓喜の歌」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2008年日本映画 監督・松岡錠司
ネタバレあり

松岡錠司の長編デビュー作は「バタアシ金魚」だったなと思って観始めたら、いきなり金魚(らんちゅう)から始まったのでびっくり。
 原作は立川志の輔の創作落語ということだが、古典落語に基づく映像化はともかく創作落語の映像化というのは珍しい(と思う)。

12月30日、公民館の無責任な主任・小林薫が、常連の“みたまレディースコーラス”と結成されたばかりの“みたま町コーラスガールズ”とを大みそかにダブルブッキングしたことが発覚。公民館いっぱいの切符を捌いた“レディースコーラス”もデビューに張り切る“コーラスガールズ”も一歩も譲らない為に大弱り。
 主任にはスナックのロシア女性に入れ込んで膨れ上がった借金もあって年末だけにこちらの催促も厳しく、【泣きっ面に蜂】状態だが、全くの自業自得。そんな彼の気持ちを変えるのはラーメン誤配達事件で、中華店がお詫びの為に餃子を届けてくれたことが適当に仕事を処理してきた彼には【目からうろこが落ちる】大発見、二つのグループを一緒にやるという“コーラスガールズ”責任者である安田成美の意見を採用し、独断にて半日で公民館の座席を200も増やしてしまう。

世間では二つのグループが一緒になって年末年始の恒例行事“歓喜の歌”を歌う大団円に向って収束していく群像劇と理解されているようだが、僕は死病なしの「生きる」を松岡監督は狙ったと想像する。つまり典型的な役人人生に埋没していた主人公がいかにして人間らしさを取り戻していくかを主題としたドラマではないか。そう考えないと収束していくべき終盤が寧ろ二分割されていく展開は全く不可解である。それが主題でなくして、既にベテランの域に入っている監督が、いくら何でも歌を途中でぶった切って小林のショットに切り替えるといったそんな基本的なミスはしないであろう。

アリストテレスは「悲劇は英雄による行為(現象)を描き、喜劇は無名の市民そのものを描く」と言ったが、正に“歓喜の歌”という現象ではなく、小林薫扮する共感できないいい加減な役人(の心の入れ替え)を描いたものと解釈するしかないのである。
 従って、「共感できない人物による行為が如何に素晴らしくても感動できない」という感想は180度逆であって、感動すべきは“歓喜の歌”ではなく、共感できない人物が“歓喜の歌”(ダブル・ブッキング事件)を通してある程度は共感できる人物になりかけていることである。確かに、“歓喜の歌”は象徴的場面として「生きる」の公園ほど鮮やかに処理されていないが。

そう理解するのが間違いならば、本作はお話が収拾できていない駄作になる。ともかく、僕はこの理解において(それでも完全に収拾し切れているとは言えないものの)大変楽しませてもらった。

人間万事塞翁が馬。

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