映画評「大いなる陰謀」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年アメリカ映画 監督ロバート・レッドフォード
ネタバレあり

監督ロバート・レッドフォードを監督クリント・イーストウッドより僕は高く評価している。派手さとは縁のない地味なテーマに真摯に取り組み、描写は堅実で時に詩情に溢れ、感心させられることが多いのだ。本作は政治的な部分のみが取り上げられ何だか評判が悪いようだが、技術的にはほぼ完成された作品であるように僕には思える。

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現在(2007年)。
 40年近いキャリアのあるベテラン政治記者メリル・ストリープが、大統領の座も近いと言われる共和党の上院議員トム・クルーズに呼ばれ、1時間に渡って彼のアフガニスタンにおける新しい軍事作戦について聞かされる。
 そのアフガニスタンの山地では、大学から志願した有色人種二名マイケル・ペーニャとデレク・ルークが議員の言う“新作戦”に駆り出された挙句にヘリコプターから落下、タリバン兵からの攻撃に対抗しなければならないが、救援のないまま銃弾は尽きようとしている。
 二人の出身大学では、歴史学の教授ロバート・レッドフォードが優秀ながら出席数の少ないアンドリュー・ガーフィールドを呼んで、単位と交換条件となるオプションを述べる。そのうちの一つが志願兵となることだが、教授は寧ろそれには反対の立場。彼が教授とのディベートで学ぶのは、無関心を決め込まずに現実と対峙し有機的に考え行動することの大切さであり、考えて決めたことはもう変更は利かないという大人社会の原則である。

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少年は何を決めたのか映画は示さないが、それは大して重要ではなく、少年が学んだことが映画のメッセージとして我々に提示されているものと解釈すれば良いだろう。決断を迫られることが多いアメリカ合衆国の現状を多分に暗示している作品である。

脚本はマシュー・マイケル・カーナハンで、前作の「キングダム/見えざる敵」に続いて対テロ戦争をテーマにしながらもっと大胆に切り込んで、かつ高い完成度を見せている。アメリカの脚本家はよく勉強していて「マーシャル・ロー」など時に予言めいた作品を作ってしまうが、本作もそう思わせる部分があり、新大統領オバマの方針に基づき今後アメリカの対テロ戦争の中心がアフガンになっていくのはご存知の通り。

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僕が気に入ったのは三つの場面の絶妙な繋ぎで、特に作戦司令官が悪口を言うと直後にトム・クルーズが出てくるという皮肉っぽい繋ぎににやにやさせられた。ガーフィールド君の「選挙に出ないと聴衆に言うことが大統領選出馬宣言だ」という意見をクルーズ議員の最後の一言とダブらせる辺りも巧みなものだ。
 決して交わらない三つの場面は互いに高い関連性を持つが故に一本の直線のように進行する。こんな作品は他に殆どないのであり、並行展開型の作品が溢れている中で寧ろ傑出していると言っても良いくらい。

つまり、政治的なテーマばかりを表層的に捉えるから主題としての新味という点で面白さを感じられないのであり、もっと作り方に注目すれば本作から受ける印象はかなり変わるはずなのだ。

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レッドフォードはじっくりと腰を据えて演出、出来栄えにおいて過去の秀作群に特に劣るものではない。ただ、散文的なテーマをかなり直球的に扱っているので、味も素っ気もないという印象を抱く方も少なくないだろうし、脚本の完成度の高さとは別に、僕自身そう感じないでもない。
 それでも、固有名詞を架空にして誤魔化してしまう日本映画と違って、相当際どいところも実在の固有名詞を出している辺りのアメリカ映画らしい凄みにはいつもながら感心させられる。

演技陣もなかなかで、特に政治記者故の複雑な心境に落ち込むメリル・ストリープと学生を演じたガーフィールドが印象深い。

トム・クルーズ議員の大いなる野望。

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この記事へのコメント

2009年03月27日 19:08
ベースに政治的色合いを持った作品と
いうのがとにかく苦手な私なんですが
レッドフォードの三つ巴論法というか(^^)
うまい作りと緊張感でついつい観入って
しまいました。

イーストウッドも巧みは巧みなんですが
ニュアンスが表現しにくい、こう・・
なんというか独特の苦々しさが鑑賞後
残る感があるのです。
ある種の“アク”と申しましょうか、
端的に言えば、疲れる、と言いましょうか。

レッドフォード作品は、疲れない。
未公開でしたが「アン・フィニッシュライフ」を
また観たくなってレンタルしてきて
しまいました。
2009年03月27日 23:00
tbありがとう。
とても練られた脚本だと思います。
初老になった、レッドフォードやストリーブが、きわめて真面目にメッセージしていますね。
オカピー
2009年03月28日 03:20
viva jijiさん、トラコメ有難うございます。

三つの場面が互いに関連しあうことを早めに宣言して作ったところに、他の並列進行型のまやかし的作りとは一線を画す、正攻法な面白さがありました。
余りに“政治”絡みなので映画的潤いという点では残念ですが、それでもメリルが無名兵士の墓地を眺める場面にはじーんと来るものがありますね。

>イーストウッド
最近はやや高尚を気取っている。
「マディソン郡の橋」はやはり上手いと思いますが。

>レッドフォード作品は、疲れない。
なるほど。
イーストウッド辺りが作ったら、
本作はもっと思わせぶりになったでしょうね。
オカピー
2009年03月28日 03:29
kimion20002000さん、こんばんは。

>練られた脚本
そう思いますね。
キネマ旬報辺りでは散々けなされたようですが、政治絡みの部分を表層的にあげつらって、映画的に工夫された部分を見ていないのはちょっと寂しい。

>レッドフォードやストリープ
恐らく、この二人の述べていることが、作者のベースとしている考えなのだと思います。レッドフォードが学生に言う言葉に僕はかなり考えさせられました。
大阪ヨタカ
2009年03月28日 13:59
あんな酷い映画に7点もあげるなんて信じられません。ずっと映画を見る目があると信じていたのにとても残念です。この映画は私から言えばゴミ以外の評価は与えられません(0点ですね)。特にトム・クルーズの演技は最悪でした。ひょっとして100点での7点の間違いでは?
オカピー
2009年03月28日 17:47
大阪ヨタカさん、こんばんは。

僕は、素人が作った素人が出演する映画でも0点なんて出鱈目な点はつけません。存在がある限り点は付けなければならない。
極端なことを言えば、100分間真っ白の画面でも0点は付けません。
0点を付けるのは映画への愛があるとは言えない。
何故なら、どんなひどい映画でも、ひどいが故に反面教師として存在価値がある。その存在価値に100点満点なら40点は進呈して良いのです。

実際には15点という点数をつけた映画(アダルト・ムービー)がありますが、それなりに楽しみましたよ。映画と言えるレベルではないですが、少なくともゴミではない。僕も駄作と言うことはありますが、駄作とゴミは違います。
どんな映画に対しても「時間を返せ」「お金を返せ」と言ったことはないです。駄作があって初めて映画を見る力が付くから。

しかし、かような意見を仰る時はどこが“酷い”か具体的に言うべきでしょう。
トム・クルーズが最悪と言いますが、例えば、僕がこの役を演ずればその100分の1の魅力も出せません。そのレベルから映画を語りましょうよ。
シュエット
2009年03月28日 18:57
これは公開時には随分と酷評されていましたね。
>散文的なテーマをかなり直球的に扱っている
そういうところまでアメリカはきているんだってことを、レッドフォードは訴えたかったんだと思います。私はあえて直球的に扱っているところに、レッドフォードの良心をとても感じました。
そして直球的なところが酷評されていたみたい。
古くさいだの、お勉強映画だのといわれているけれど、70年代80年代にはみんなが言いたてたテーマを、私はよくぞ、今、レッドフォードは描いたもんだと、拍手を送りたくなりました。
オカピー
2009年03月29日 00:42
シュエットさん、こんばんは。

>直球的
仰るようにそこにレッドフォードの良心が感じられますが、映画として散文的になったのは否定はできないと思うのです。^^

その一方で、「今さらながらの・・・」といったスタンスでのみ語る批評家たちのご意見に甚だ不満を覚えるのは、三つの挿話が交錯するというより直線的に話が進行している印象すら覚えさせる脚本と編集の力を全く無視しているからです。
一種の際物ですから10年経つとこの映画の内容はピンと来なくなるでしょうが、技術的な部分は100年経っても変わらないはず。

酷評と言っても、今日来た誰かさんのような「ゴミ」といったレベルではなく、凡庸・凡作といった程度のはずですが、いずれにしても映画を表層的にしか観ないから、そんな馬鹿げた観念的な評価に埋没するのだと思いまする。技術的に映画を観る習慣のない、プロの評論家が多すぎますよ、現在は。

僕とて傑作などと言うつもりはないですが、アカデミー賞を大量受賞した作品でも技術レベルでは本作より劣る作品は随分あると思います。
2009年04月03日 10:34
 こんにちは!
これ、評判悪かったんですか?
ぼくは去年のゴールデンウィークくらいに観に行ったときに、「これは良いなあ、邦題以外は!」って思いました。

 あの会話劇とおっしゃるような場面つなぎのよさで、つまり映画の質としても唸る部分が結構ありましたので、十分に楽しめました。

 ジャブジャブお金を掛けなくとも、大人の鑑賞に堪える見応えのある作品であったと記憶しております。ではまた!
オカピー
2009年04月04日 02:07
用心棒さん、こんばんは。

いや、僕もよく知らないのですが、シュエットさんによれば「キネマ旬報」での三人の評価は良くなかったようですし、ベスト10などにも殆ど投票がないですね。
「金を貰って批評を書いている映画批評家の諸君、君たちは何を見ているのかね」と僕は言いたいですよ。

>あの会話劇と場面つなぎのよさ
アフガン場面を挟んだ二つの会話劇も面白いですし、何より並行して進行する場面が互いに感応するように繋がれているのに僕は感心しまくりました。
こんな並行進行型の作品はなかなかなかったのではないですか?

>邦題
ふーむ、ださくてもカタカナに逃げるよりは良いと思っています。^^;
2009年04月26日 07:32
そうなんですよ、私もテーマを考えてしまってましたので…。
考えをめぐらせてみれば、映画のつくりの構造は、見事にきれいに決まっていますよね。きれいすぎて実感しないくらい(?)(笑)
レッドフォードは、久々の監督らしいですが、堅実さは変わらず。とても良心的な感じがします。
しかし、アメリカでも、興行的にはコケたらしいですね。
オカピー
2009年04月27日 02:29
ボーさん、こんばんは。

勿論お話は色々な方が指摘する問題点はありますけど、映画はお話だけで成り立っているわけではないですからね、お金を取っている方はもう少しきちんとその辺りを考慮して語って貰わないと。

>アメリカでも、興行的にはコケたらしいですね
こういう政治的にストレートな内容では、無理もないですね。
まして、実名が平気で出てきますから、共和党派の人は不愉快でしょうし、民主党派にしてもOKというわけには行かないでしょう。
2012年06月25日 20:02
>監督ロバート・レッドフォードを監督クリント・イーストウッドより僕は高く評価している。

これを読んでうれしくなりました。私もそうなんです。レッドフォードのほうがオーソドックスで、絵もずっとうつくしいと思っています。
この「大いなる陰謀」は、たいへん好きな作品なんですが、ネット上で批評を観ると、どうも邦題のつけかたがよくなかったらしくて、期待した内容とちがってがっかりしたとお書きになってる人が多いんですよね。
でも、トム・クルーズ演じる政治家が、自分の野心のためにアフガニスタンでの作戦をサプライズとして行おうとしているのは、陰謀、といえなくもないんですが。

レッドフォードは、イーストウッドにくらべると優等生的に見えて、マニア心をくすぐる要素が少ないのかもしれませんね。画面からは絵心が感じられて、イーストウッドより芸術家っぽい気もするんですけれども、あまりにも堂々と絵描きさんみたいになって、面白みに欠けるきらいはあるのかな。

この映画、内容も重かった。アメリカの現実を正面から描き出して、シニカルになっていた学生が最後に何か考えはじめる顔になって終わるんですが、観た後、こちらも彼と同じようになってきますよね。
オカピー
2012年06月25日 22:17
nesskoさん、こんにちは。

>レッドフォードVSイーストウッド
僕も嬉しいです^^

5人映画ファンが集まれば4人はイーストウッドの方を誉めるでしょう。10人中9人かもしれません。
商業映画として客が集まりそうなテーマを一般観客の心をも打ちそうな映像で作りますから、どうしてもそうなりますね。
レッドフォードの映像は美しく内容も心を打つものがありますが、“滋味”を持ち味としているので、イーストウッドのような大人気を博すことがないのでしょう。本作は寧ろ派手な部類でしたけど。

本作は扱った素材が古臭く見えますが、本文で述べたように、作り方が大変面白い。脚本の完成度は、作品系列で言えば例えばイーストウッドの「硫黄島」二部作より高いと思います。しかし、それを見抜いた映画批評家や映画ファンは少なかったのは残念でした。

本作の本当のテーマは学生の決断の中味そのものではなく、本作を観た観客も何かを考えなければならないよ、ということなんでしょう。

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