映画評「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年アメリカ映画 監督ティム・バートン
ネタバレあり

ロンドンに伝わる古い都市伝説をジョージ・ディビディン=ピットが戯曲にし(戦前3度映画化)、それを1970年代にクリストファー・ボンドが刷新、ヒュー・ホィーラーが舞台ミュージカル用に翻案、さらに映画化に当たってジョン・ローガンが脚色した、というややこしい過程を経て完成したミュージカル映画。僕は監督をしたティム・バートンと主演のジョニー・デップが苦手でミュージカルが大好きという世の傾向とは全く逆の立場なので、評価の観点が世間とは若干違うだろうと思う。

妻に横恋慕した判事ターピン(アラン・リックマン)により無実の罪を着せられオーストラリアの刑務所に投獄された理髪師スウィーニー・トッドことベンジャミン・バーカー(ジョニー・デップ)がロンドンに戻り、大家でパイ屋を営むラベット夫人(ヘレナ・ボナム・カーター)から昔使っていた剃刀を渡され、妻を死に追い込んだ判事への復讐を念頭に置いて理容室を再開、彼の正体を知って脅しに訪れたかって丁稚をしていた理容師ビレリ(サシャ・バロン・コーエン)を殴殺。
 その処理に困るうちにラベット夫人が人肉をパイに使うことを思い付き、復讐を果たすまで身寄りのない人々の喉を剃刀でかき切って殺し、ビレリの丁稚トビー(エド・サンダーズ)を使用人にパイ屋は時ならぬ賑わいを示す。
 判事が養女にしたバーカーの娘との結婚を決意すると、バーカーはそれを邪魔立てする水兵を利用して判事を呼び出して殺害。その時出現した乞食の女性を殺すものの、それが死んだと思っていた妻と判明、呆然とするパーカーの喉を地下に潜んでいたトビーがかき切る。

この終盤の展開は正にシェークスピアの悲劇の如き運命の残酷さと凄惨さが同居し思わず目を見張らせるが、それはともかくかかる陰惨なお話は元来一種の夢幻的表現であるミュージカルには余りふさわしくない。スティーヴン・ソンドハイムの手になるナンバーはレシタティヴ(朗唱)に近い感触で楽曲として印象に残りにくいものが多いが、歌い手の諸君諸嬢は一般俳優としては無難な出来栄えで、アラン・リックマン以外は合格点と言うべし。

ミュージカルとしての興味を別にすると、僕がどうも馴染めないバートン独自の極彩色が今回はかなり抑えられ、赤い血しぶきがワンポイント的な効果を発揮すると同時に、古いサイレント映画のようなムードを時に感じさせるのが宜しい。同様に、デップとヘレナに施されたメイクがバートンの趣味というだけでなく若きヒッチコックが“切り裂きジャック”を元にして作った「下宿人」(1926年)でも観ているような気にさせる。

英国人にはお馴染みなのだろうが、幸い僕には初めてのお話ということもあり、類似する物語は他にあっても全体としてはかなり楽しめた、といったところ。

色がない ほど楽しめる ティム・バートン だって「エド・ウッド」が 一番好きさ

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

驚いた

この記事へのコメント

2009年03月02日 20:07
>古いサイレント映画のようなムードを時に感じさせるのが宜しい。
そうですね、わたしもサイレント映画っぽいなと思いましたです。
ロンドンの町並みなども英国産ミステリの舞台みたいでよかった。
血しぶきがすごくて最初はとまどったけど、まるで水芸!(爆)
なんだか鬼の首とったかのようにやりたい放題もここまで徹底すれば面白い。
記事にも書いたのですけど、お話は後味悪いけど、監督がここまでやりきったということでカタルシス感じましたね。

オカピー
2009年03月03日 02:15
しゅべる&こぼるさん、こんばんは。

>まるで水芸!(爆)
あはは、正に。

>カタルシス
後味は良くないですけど、映画の作り方としてはかなりすっきりしましたよね。

しかしですよ、本作の感想を映画サイトなどで読みますと、グロ(テスク)という表現が目立ちますが、グロテスクの意味知らないんじゃないの?
グロというのは「奇怪な」ちゅう意味ですから、血しぶきドバドバは残忍であってもグロじゃないです。^^;
人間の顔と動物の胴体をくっつけるのはグロです。(笑)
まあ、“セレブ”(社交欄で取り上げられるような有名人)がいつの間にかただの「金持ち」の意味になっちまった我が国ですから、さもありなんですがね。

彩度が低いカラーと変てこなメイクのおかげで、音楽がなければ、表現主義の恐怖映画みたいでござりましたね。
2009年03月20日 18:22
お久しぶりです~。
映画は観ているのですが、記事がまったく追いついていないダメブロガー、カカトです。
お元気でしたか?

スウィーニー・トッドも観たのですが、なにせ血がジャーっとか、脳みそがドーンとか、そういう映像が作り物だとわかっていても苦手で、最後のほうはほとんど画面を観られませんでした(笑)
私に言える事は、「そういうのが苦手な人は、この映画を観ないほうがいいですよ。」と、いうことだけです・・・。

後味の悪さは「仕方ないよなー。そりゃあ。」と、いう感じ。
因果応報な気がします。
オカピー
2009年03月21日 00:54
カカトさん、お久しぶりです。

>お元気でしたか?
正直、現在絶不調です。
自律神経失調症が最悪の状態で、ブログ中断の危機かもですよ。
現在は肩こりがひどくて、映画を見るのがしんどいくらい。
多少大げさに言っていますけど・・・

僕は映画の血は余り気になりません。動体が真っ二つになったり、首が飛んだりするのを詳細に見せる映画は嫌ですねえ。趣味が悪すぎる。
僕も繊細な女性陣にはお薦めできませんが、ミュージカル好きな方はジレンマでしょうね。

>因果応報
一番悪の判事があそこでやられていれば、後段の悲劇を食い止められたと考えると、運命の皮肉でもありますね。

この記事へのトラックバック