映画評「椿三十郎」(2007年版)

☆☆☆(6点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・森田芳光
ネタバレあり

ガス・ヴァン・サントの無残なリメイク「サイコ」同様に脚本をいじらないリメイクである。「サイコ」が無残に終わったのは、物語(脚本)の面白さに依拠しない映画をリメイクしようとした暴挙と言うに尽きる。役者に全く魅力がなく、カラーによる緊張感の欠如も致命的だった。

黒澤明の同名時代劇を森田芳光がリメイクした本作もほぼ同じことが言えるが、こちらは話の面白さに依拠する部分が多いので、オリジナルを観ていなければかなり楽しめるだろうと思う。しかし、僕は幸か不幸かオリジナルを見ているので、全く物足りない。

基本的に役者のスケールの違いである。
 主人公の椿三十郎を演ずる織田裕二は力演だが、役者としての口跡や立ち振る舞いの迫力は言うまでもなく、殺陣のスピードが全く違う。オリジナルで椿三十郎を演じた三船敏郎のスピードは恐らく時代劇史上No.1で、「椿三十郎」ラスト・シーンの居合抜きは0.2秒で事実上完了している。
 この異次元レベルの芸当は当然真似できないので、森田監督はカメラをオリジナルより寄り気味にし、かつ、ショットを細かくしている。拙いアクションを誤魔化す常套手段とは言え、これではアクション時代劇を観る意味がない。オリジナル最大の見どころである幕切れの決闘ではフルカラーとモノカラーによる二段構えで誤魔化したが、締まりのないことこの上ない。がっかりしたなあ、もう。

敵役・室戸半兵衛を演ずる豊川悦司は時代劇の実績があるのに口跡が相当ぎこちない。現代劇はともかく時代劇の上手い映画俳優がいなくなった、と出るのは失望の溜息ばかり。

しかし、実はそうしたマイナス面をかなりカバーできる可能性も残されていた。お笑いの要素、これなり。
 オリジナルのユーモアで僕の一番のお気に入りは城代家老のおっとりした妻と娘だった。本作では所謂天然ボケの中村玉緒と鈴木杏が演じているが、とぼけた玉緒さんだから適役かと思えば意外や意外理に落ちて全く面白くない。入江たか子の超然ぶりには程遠い。
 虜になった敵方の侍・佐々木蔵之介にも小林桂樹のおとぼけ感が希薄。

といった次第で、あの優れた脚本を以ってこの程度では全く褒められず、リメイクの意義があったとは思えないが、お話の面白さは七割方維持されているので星は多めに進呈する。

いくら奮闘しても、織田君ならずとも故三船氏には太刀打ちできない。そこで一首。
逆立ちを しても到底 敵わぬよ 袂に入れた 銭落ちるのみ
 by Okapi

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この記事へのコメント

2008年12月31日 15:57
プロフェッサー、こんにちは。

私これ劇場で鑑賞したんですよ。
オリジナルの詳細をもうわすれていたのがよかったのかもしれません。
ただ、当然、三船とはくらべものにはなりませんが、私は思った程、織田裕二がみれたという感想でした。
まあ、ラスト以外は基本的に本は一緒だと思うのですが、それによるところは大きいと私は感じます。
ただ、トヨエツとあのラスト、同じにしろとはいいませんが、説明をしてしまうようなあのリプレイは特にいただけませんでしたね。

それでは、また。
オカピー
2009年01月01日 01:43
イエローストーンさん、明けましておめでとうございます。

>劇場で鑑賞
当方も諸事情が整えば観たかもしれないですよ。
そもそもこのところ世評の著しく悪い森田監督をさほど低く評価していないもので。「模倣犯」などメジャー系の平均を遥かに上回っていますよ。

>織田裕二がみれた
そうですね、僕も思ったより善戦とは思いましたよ。
ただねえ、三船は「わざとらしさ」が自然で、織田君は「わざとらしさ」がわざとらしいんですよ。意味解るかなあ(笑)。

>本は一緒
ですね。演ずる前に同作における三船氏も研究したのではないのでしょうか。
ただ、トムさんの仰るように全く同じものを作る必要性を我々はどこに求めたら良いのか、疑問の残るリメイクではありました。

>リプレイ
興醒めましたね。どうやるか期待していたから余計に・・・
仰るように違っても良いけど、あれだけは最悪のオプションを選んだような。

本年もよろしくお願い致します。
2009年01月03日 14:35
オカピーさん、あけましておめでとうございます。
本年も多いに語りましょうね。

まだ、もう何度も観ているんですが、昨日「イントレランス」と「グランド・ホテル」をレンタルしてまいりました。前者はジョヴァンニ&ドロン、後者は「エアポート80」で想起した作品です。近々、記事にしたいと思っています。

さて、「新・椿」ですが、この間コメント・バックしていただいたように
>「さらば、ベルリン」
に関わっては、今においてインパクトが強烈ですから、おっしゃるように、ご指摘の効果は絶大であるように思います。さすが、オカピーさん。
>方法自体が新しい
確かにそうなのでしょうね。
Tom5k
2009年01月03日 14:36
>続き
また、リメイクであったとしても、例えば「ゾロ」などのように全く異なる作品となっていることで、アラン・ドロンやタイロン・パワー、そしてダグラス・フェアバンクスへと深まっていくように思います。
わたしがドロン作品が好きな大きな理由のひとつとして、彼の映画の古さと新しさが、どの作品でも見事に昇華されていることです。ドロンの作品を観るとカルネ、デュヴィヴィエ、ルノアール、もちろん、ギャバンが浮かび上がってくる。極端にいうとほとんどリメイク(広い意味で)だと・・・。
しかも、そして「ヌーヴェル・ヴァーグ」まで包含しているんで、実に映画的な俳優、プロデューサーだと思います。
Tom5k
2009年01月03日 14:37
>続き
ただ、「わたしは貝になりたい」など、元来のテーマやメッセージがしっかりしているものにおいてはリメイクであろうが、リバイバルであろうが、どんどん上映機会をもつべきだと思います。
映画の役割を単純に考えると、わたしはそうなってしまうんですよね。
だから、黒澤作品でも「生きものの記録」はリメイクでもリバイバルでも機会を増やすべきで、「一番美しく」は、無視してもいい(笑)。
単純すぎますかね?そう考えると、ゴダールは考えすぎなんですよ(笑)。
年頭から極論ばかりですみません。

では、また。
本年もよろしくお願いします。
オカピー
2009年01月04日 03:52
トムさん、新年明けましておめでとうございます。
今年も大いに語りましょう。

>「イントレランス」と「グランド・ホテル」
おっ、いいですねっ!
ビデオを買って持っていますよ。
銀幕で観たこともあったのですが、どうしても傍に置いておきたくて。
でも結局買ってから一回しか観ていない。時間が足りません。

>極端にいうとほとんどリメイク(広い意味で)
そうなのかもしれません。
トムさんのように敏感に思うことはないですが、そのものずばりの「ボルサリーノ」なら誰しも感じるでしょうね。

>「生きものの記録」
近いうちに再鑑賞するであろう「八月の狂詩曲」は、一種の焼き直しみたいなものと思っています。
オカピー
2009年01月04日 03:55
トムさんへの続き。

>「一番美しく」は、無視してもいい(笑)
決してけなしてはいませんが、僕にとって(国策映画故に)一番評価の低い黒澤作品であるのも確かです。
木下恵介は黒澤のベストと仰っていたようですね。いかにも抒情的な作品が好きな木下監督らしい。

>ゴダールは考えすぎなんですよ
作り手はバランス感覚、鑑賞者はフレキシビリティ・・・これが良い映画が生まれ広まる一番大事な要素ではないかと僕は考えています。
その点ゴダールには不満が多い。

そうそう、時々TBしてくださる【映画批評ってどんなモンダイ!】でトムさんのゴダール論を興味深く拝読致しましたよ。
あのブログでのゴダール論争は凄かったですね。互いに罵詈雑言になっていないのも立派でした。

こちらこそ宜しくどうぞ。
2009年01月09日 16:52
 遅れましたが、明けましておめでとうございます。
 僕はこれを劇場の大画面で観ましたが、せっかく、まあ許せる範囲で作品を転がしていたのに、最後の最後で大失敗をしてしまいましたね。
 リメイクというと、今年の第一本目に『地球が静止する日』を選んだのですが、これもなんともいえない虚脱感がありました。
 映画だけではなく、ドラマなどもリメイクばかりになってきていて末期症状を見せてきていますね。なんとか景気も悪いことですし、元気が出るような映画を観たいものです。
 今年もどうぞよろしくお願いいたします。ではまた!
オカピー
2009年01月10日 01:26
用心棒さん、明けましておめでとうございます。

>最後の最後で大失敗
演出という意味では全くその通りですね。

>『地球が静止する日』
このオリジナルは恐らく僕が生まれて初めて観たSF映画ですが、全体的に静かで、幼ごころに妙に感動した作品ですね。成人後再鑑賞した時はちょっと説教臭くも感じたわけですが、悪くはなかったです。
リメイクはどんなことになっているんだろう?

>末期症状を見せてきていますね。
映画も100年も経てばそりゃあ新しい物語を生む余地など殆どないわけですが、スパンの短いリメイクは止めて貰って、似たようなものでも良いからオリジナルの物語で勝負してほしいものです。
すると、狭量な日本の若者たちは「パクリ」の大合唱を始めるのですが、他人と同じことをして喜んでいる自分の姿を鏡に照らしてみろってなもんです(笑)。

といった次第で、本年も宜しくお願い致します。
2009年01月10日 21:44
 こんばんは!
 いわゆる映画的な「ネタ」はとっくにというか、1920年代にすでに出尽くしているとは思いますが、料理の仕方や組み合わせ方によってはまだまだおいしい料理をモノにできる余地はあるのではないかと思っています。
 
>『地球が静止する日』
いやあ…。ひどかったですよ。CMで出てきたシーンでほぼ全てと言ってよい映画でした。マトリックス風味なカットもあり、脱力してしまいました。本気で、リメイク映画撲滅委員会でも作りたい気持ちですよ。

それはともかく、今年もどうぞよろしくお願いいたします。ではまた!
オカピー
2009年01月11日 04:21
用心棒さん、こんばんは!

>ネタ
人間観察というレベルではサイレントでも出つくしたかもしれませんが、その後人間の行動を変えもする文明の利器が次々と発明されたので、その意味ではその後も暫くは「ネタ」があったかもしれません。
しかるに、手法を含めて70年代に全て出つくした(などと言うとトムさんが苦笑されるかもしれませんが)、というのが僕の印象なんです。

そこで90年代に現れたのがCG(リメイク増産の最大要因)、「パルプ・フィクション」以降の時系列操作映画、細かなカット割りの作品、映像で嘘を付くインチキ映画。
これらは全て誤魔化し、まやかしみたいなもので一つとして新しいものはなく、僕がそこに観るのは実写映画を撮る技術が年々落ちている現実です。

トムさんにまた叱られそうですが、どうしても悲観的になりますね。(笑)
翡翠(ひすい)
2009年02月28日 18:29
私もほとんど同感です。
織田裕二は頑張っていた方だと思いますが、「魅力」と言う点でも
大きく負けていました。若侍たちも、オリジナルと比べ個性の違いが
あまり感じられず、黒澤明の素晴らしさを改めて感じるのは勿論
役者の質の差のあまりの違いにも愕然としました。
仰るように、入江たか子の奥方の品の良さと面白さを
中村玉緒は全く出せておらず、押入れ侍についても
小林圭樹の良さが却って鮮明に成る程で
監督、役者共に往年のものとはかけ離れてしまっている、と
言わざるを得ません。これはもう、同じものを作り直す、しかも
あのような名作を!というような暴挙はよして
身の丈にあったものを作られるのが賢明かと思ったしだいです。
オカピー
2009年03月01日 03:03
翡翠さん、コメント有難うございます。

本作の場合基本的なお話は脚本をいじっていないので当然面白いのですが、ただその面白さは役者の適材適所の好演があって初めて100%生かされるのであって、役者の質でこうも違ってくるものかという印象でしたね。

昨今の役者たちの体たらくは目を覆わんばかりと思います。
自然体の現代劇ですと多少は観られるのですけどね。それでも台詞が聞き取れなかったりで、がっかりすることも多いわけです。
恐らくは、長く映画を見てきた映画ファンに共通する嘆きでしょう。

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