映画評「サイドカーに犬」

☆☆★(5点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・根岸吉太郎
ネタバレあり

「遠雷」で一般映画ファンの前にお目見えして以来根岸吉太郎は暫く安定した実力を発揮した後近年は奮わなかったが、ここへ来て復調したらしい。僕にとっては本当に久しぶり。

不動産会社に勤める薫(ミムラ)が釣り堀の少女との会話から思いを馳せる20年前十歳だった少女時代の夏休みのお話。
 母親(鈴木砂羽)が家出した後二十代後半と思われる美人ヨーコ(竹内結子)が彼女の前に現れる。中古車店を経営する父(古田新太)が賄い役に招いた愛人で、三角自転車に乗る気風(きっぷ)の良い格好良いお姉ちゃんだ。毎日自転車でやって来ては自転車の乗り方を教えてくれるが、大人には大人の関係があり父親から手切れ金として貰った競馬の当たり券を換金してその足で伊豆への気ままな旅に誘ってくれる。
 その旅を最後に彼女は姿を消すが、20年後の薫は憧れもしたヨーコに似た格好良い女性に少しだけなれたような気もしている。

といったお話で、原作は芥川賞作家・長嶋有の同名短編小説。十歳の少女がその後の人生を変えるような素晴らしく溌剌とした女性と出逢って少なからず感化される様子を綴ることが目的だったのかもしれないが、僕には観ている間一向に狙いが見えて来ないので困った。
 狙いを理解しつつ映画を観ていくのが通常の映画鑑賞の仕方と思うし、その狙いが途中ではぐらかされてもはぐらかすのが目的である映画と理解できればそれは作者の期待通りに出来ているわけだから一向に構わないが、僕にとって本作は最後までピントが合わず仕舞い。

そのひと夏の経験(山口百恵をもじっているわけです)を描く間に山口百恵の結婚後の話が出てきたり、潰れたノーパン喫茶のゲーム機が家に運ばれてきたり、ジャイアンツ江川投手がTV画面に映るなど時代色(原作者は1972年生まれだから、恐らく82年を想定していると思われる)を出す一方で、ローティーン固有の冒険談的な要素も描き出される。例えば、自転車に乗れるようになるのは言うまでもなく、歯が解けるからと飲まずにいたコーラをヨーコの勧めで飲んでみたり、最後の乳歯を飲み込んでしまったり(冒険談にあらずか)等々。

とは言っても少女期の心情を綴ることだけが狙いとは思えず、少女の視点からヨーコの女性像を描き上げるのが目的でもなさそう。80年代前半へのノスタルジーは通奏低音的な処理のように見える(それ自体は悪いことではない)。

といった次第で、良い感覚が示される箇所も多いが、トータルとして僕の琴線に触れるものはなかった。「飼われるのが良いか、飼うのが良いか」「嫌いなものを好きになるより、好きなものを嫌いになるほうが難しい」(金言なり!)というヨーコの言葉と薫が観たサイドカーに乗る犬とを総合すれば人間関係に関して多少見えてくるものがあるが、些か文学的で映画的にあらず。

しかし、古風で柔和なイメージの強い竹内結子が新機軸と言うべきシャキシャキとして竹で割ったような性格の女性を好演、収穫と言って良い。薫の少女時代を演じた松本花奈ちゃんも大好演。

一時好物だったのにいつの間にか食べなくなった麦チョコが食べたくなりました。今もあるのだろうか。今度探してみよう。

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この記事へのコメント

2008年12月15日 17:03
こんにちは。
麦チョコ懐かしいねぇ。
まあ、この映画は、ヨーコさんという魅力的な人物造形と、竹内結子の新しい魅力が出せているのが、すべてかもしれませんね。
オカピー
2008年12月16日 02:36
kimion20002000さん、こんばんは。

>麦チョコ
この映画の一番の収穫だったかもしれません。
好物でよく食べていた時期があったのですが、いつの間にか買わなくなり全く忘れていたんですよ。
そんなこともあるんですねえ。

>ヨーコさんという魅力的な人物造形
少女を通して描くというところにちょっと曖昧さを残す余地があったのかな。小説ならそれも良いのかもしれませんが。
2009年02月08日 01:35
こんばんは。
たしかに、さりげなさすぎる面もあったと思います。もしかしたら薫ちゃんにとって表面的には、そのくらいの、さりげなさだった関係といえるのかも、なんて、うがって見たりすればいいのかなという気もします。
…と書いてみたら、オカピーさんもコメントに書かれてましたね。
子役の松本花奈ちゃん、素晴らしいです。同感!
オカピー
2009年02月08日 17:31
ボーさん、こんばんは。

狙いが僕にはピンと来なかったんですよ。

その中で主演の二人は大変良かったですね。竹内結子それまでのソフトなイメージを破るような役柄で面白かったですし、松本花奈ちゃんは力みがなくて上手かったなあ。

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