映画評「浪華悲歌(エレジー)」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1936年日本映画 監督・溝口健二
ネタバレあり

一昨年NHK-BS2の特集では取り上げられなかった溝口健二戦前の傑作。30年くらい前に自主上映で観たが、保存状態が悪くて音声が半分くらい聞き取れなかったので、初見同然。

画像

薬種問屋の電話交換手を務めるOLアヤ子(山田五十鈴)は、父親の横領まがいの不祥事を補償する為に家を出て社長の麻井(志賀廻家弁慶)の妾になる。結婚も考えている同僚・西村(原健作)に協力して貰えなかったからだが、麻井の妻が嫉妬しているのを知りその間隙を縫って自分の妾になれと迫る株屋の藤野(進藤英太郎)から金をだまし取り、結局警察の御用となる。
 かくして男たちは去り、本来頭の上がらないはずの家族は事件を起こした彼女を無視、それでも彼女は何とか生きようと前を向いて歩いていく。

画像

この時代の溝口健二の凄さは、技術上の完成度もさることながら、それ以上に、世に溢れる殆どの作品が描写もテーマの扱いもメロドラマであった時代にリアリズムの女性映画を作ったことである。
 同じ年に作られた「祇園の姉妹」同様に男たちの欲望と利己主義の犠牲になる女性を扱いつつ、彼のヒロインはドライに(心で泣いて)力強く生きようとするのである。1970年代後半のアメリカ女性映画に先んずること40年、これを凄いと言わずに何を凄いと言おう。しかもずっとハードボイルドで切れが良い。

最後に叫び声を上げることができた「祇園の姉妹」のヒロインと比べても、本作のアヤ子は同情してくれても良い妹が父親の味方だから、救いがない。それだからこそ、歩みを進める彼女を前方からクロースアップ寸前になるまで捉える幕切れが、観る者を圧倒するのだ。

画像

この二作共に主演した山田五十鈴は当時十九歳だったと聞くが、とてつもない迫力。風貌的に似た印象がなくもない寺島しのぶが三十余歳の今逆立ちしても及ばない。

基本的にテンポの速い作品だが、それにしても話の進み方が速すぎて拙速な印象を受ける箇所があると思っていたら、どうも8、9分ほどフィルムが散逸しているらしい。

日本が映画先進国だったことが解る秀作です。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

2008年11月16日 14:54
「最近、溝口です~」のviva jijiです^^;
ありがたや~BS放映ざんすぅ~♪
本作と「祇園の姉妹」「残菊物語」
観させていただきましたえ~(五十鈴さん風)^^
彼女と進藤栄太郎、社長役の男優さん
(「祇園~」の居候社長と同じ人かしら?)
との掛け合い、あの丁々発止の台詞の行き交い、
息もつかせぬ巧さでしたわね~。
19歳であの手練手管を駆使、使い分けをする
演技のテクニックは山田五十鈴さん、
もうすでに大人の大女優の風情ですもん。
やはりタダモノではないですわ。(驚!)

着物の着くずし方、立ち振る舞い、
衣紋掛けから下ろして畳むその仕草、
目線と足運びの絶妙な呼吸・・・
まぁまぁ大したもんです~。
ま、それを指導するやり手の裏方スタッフも
当時は逸材がゴロゴロいたんでしょうけれど。
いいもん観させてもろたわ~~~(^^)

ヘッドフォンで聞きましたら、
よう台詞、聞こえましてん。^^
オカピー
2008年11月17日 01:06
viva jijiさん、こんばんは。

かなりの貴重品ですから、今回の特集では一番の収穫でした。
音声も30年近く前に観た時と違ってかなり良く、
「七人の侍」よりずっと理解できましたですわ(笑)。

>社長役の男優さん
志賀廻家弁慶ですね。
そう、「祇園~」でも社長役どす。
重要な役なのにallcinemaなどの配役表から省かれていて、
何故?ちゅう疑問が湧きます。

厳密に言うと、
当時の問屋は近代的な会社組織ではないので
あれは社長ではないらしいですが、
面倒くさいので僕も社長にしました。^^

>大女優の風情
この19歳は凄いですね。
世界の大女優の19歳の時の演技を全て見比べても、
こんなんないでっしゃろ?
尤も19歳で映画に出ている人、そんなに
いないですけどね(笑)。

姐さん、色々ご指摘していますが、本当に絶妙でした。
21年後40歳の「蜘蛛巣城」も凄かったですが。
驚きという意味では、19歳のこちらですな。
2008年11月24日 23:43
力強い、ハードボイルド、まさにそうですね!
この頃は、他にリアリズムっぽい映画はなかったのでしょうか。
山田五十鈴さん、素晴らしかったです。
オカピー
2008年11月25日 02:35
ボーさん、こんばんは。

>リアリズムっぽい映画はなかったのでしょうか
小津安二郎、内田吐夢などは十分リアリズムだったでしょうが、成瀬巳喜男辺りもまだ甘いところがありましたし、溝口ほどの作家は殆どいなかったのではないでしょうか。
特に女性をここまでハードボイルドに扱った作家は皆無でしょうね。

>山田五十鈴
恐るべき19歳、でした。

この記事へのトラックバック

  • 「浪華悲歌」

    Excerpt: 溝口健二が原作・監督、依田義賢が脚色、山田五十鈴が主演。71分の作品。 これはチェックしたいと思った。 映画検定1級に出そうな映画だ�... Weblog: 或る日の出来事 racked: 2008-11-24 23:17