映画評「嫌われ松子の一生」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年日本映画 監督・中島哲也
ネタバレあり

下妻物語」が好評を博した中島哲也の話題作。受動的に待っていたら今頃の鑑賞になってしまった。原作は山田宗儒。

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舞台は2001(平成13)年、30年ほど前中学の教師をしていた松子(中谷美紀)が何者かに殺されるのが発端。碌に会ったこともない甥の笙(瑛太)がアパートの後片付けを任され、隣のパンク男や刑事から伯母の様子を聞かされる。
 そこから場面は30年前に戻り、修学旅行先で起きた生徒の盗難事件の処理を誤って自らに犯行を押し付けられ教職を追われたのが転落の始まり、上京して恋に落ちた暴力作家に自殺され、乗り換えた彼のライバル作家に縁を切られ、作家の生前の言葉から思い切って転身したトルコ嬢の栄華も長く続かず、コンビを組んだポン引きを殺して服役する。

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ここまでが言わば前半で、後半では囚人仲間でAV女優を経て社長になっためぐみ(黒沢あすか)を主な語り手として、益々ひどくなる松子の転落人生が語られる。
 人生の全てを賭けたやくざ者にして例の盗難事件を起こした教え子・龍(伊勢谷友介)に見捨てられた後、勘当状態にある為実家にも戻れない彼女は遂にアパートに籠り食べてTVを見る以外何もしなくなり、近所の嫌われ者になって病院でめぐみと再会した後、近所の中学生に撲殺される。

世評に反して余りピンと来なかった「下妻物語」よりお話としては楽しめた。マルキ・ド・サドの悪漢小説「ジュスティーヌあるいは美徳の不幸」みたいな印象があるからである。しかし、評価は意外と悩ましい。
 まず、最後に雷に打たれて死んでしまうジュスティーヌの如く酸鼻極まりない人生を送るヒロインの悲劇が、「オズの魔法使」を土台にしたようなミュージカル的味付けを施され、そこにディズニーのアニメ実写合体映画の如き場面を加え、懐かしいテクニカラー調の色彩で明るい調子で繰り広げられる意外性は買いたい。

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が、これは松子の主観に限られるから、その他の場面では色調も変われば、内容のトーンも変わる。ミュージカル的場面に限っても1950年代調もあれば21世紀調もある。トーンを揃えるのが映画の基本であると考えると僕の評価がここで一旦ぐらつく。
 しかし、最終的に調和した印象を残せればそれに限ったわけではない。「火曜サスペンス劇場」や「土曜ワイド劇場」のパロディー番組まででっち上げ、各々の時代色を出しヒロインの心情を映す為に中山千夏「あなたの心に」、天地真理「水色の恋」、五輪真弓「恋人よ」といった有名な既成曲を使うなど、トーンの変化を気にするより色々と詰め込んだ努力のほうを寧ろ評価したくなるのが人情ではあるまいか。

最近の傾向とは言え語り手が色々と変わるのも本作の特徴で、その中に死んだはずのヒロインが紛れ込んでいるのが二重構造的で興味深い。死人が語り手となる作品には「サンセット大通り」やそのオマージュ作品「ネバー・ダイ・アローン」といった例があるが、それとは全く次元の違うユーモラスな扱いである。

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ヒロインの人生岐路における選択については僕は何とも言いようがない。彼女はある種の人間の総体であるから、理想的な人生を彼女が歩んだらこういう反面教師的な人生を見ることができなくなってしまう。それはやはり映画ファンとしては不都合である。それより、後半の人生の悲惨さを考えると序盤の余りにも漫画調の展開は調子が合っていないのではないかという疑問が避けられないほうが問題と言うべし。

しかし、また「家に帰る」が終わりの文句であった。一か月の間に邦画三本からこの台詞を聞こうとは・・・ふふーむ、アメリカに遅れること数年、日本でも家族についての再考する機運が高まってきたようであります。

中谷美紀はひょっとこ顔まで見せる大熱演。

嫌われ松子の一生、あるいは、中学生には手を出すな

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この記事へのコメント

2008年10月25日 17:50
こんにちは♪
とても評判が良かったですよね、この作品。
ところが、全然私は好みではなくて見てる間中とても居心地が悪かったです。
中島監督と相性が悪いみたいです。
『下妻物語』は楽しめたんですけどねぇ。
2008年10月25日 19:44
なんでもあり~の「ごった煮サーカス」
みたいな映画だったかしら~~と
プロフェッサーの記事を読みながら
思い出していますが・・・。
(実は何も心に残ってないの)(--)^^

ヒロインが不幸にブッ転がっていけば
いくほどエールを送り、おまけに元気なんぞ
もらえるわっ!と感じる女性たちには
共感を呼んだみたいですね~。
男性陣は寄せ集め的ごった煮要素に
作り手の面白手腕を見出してお喜びの
ご様子~~^^

>反面教師的な人生

その意図はわかりますが
いくらなんでも表層的に描き過ぎで
いささか辟易した部分もあり、ま、
そういう映画なんでしょうけれど~。
(--)

プロフェッサーから観れば違和感浮上
しまくりかも知れませんが大賑わいの
コメントも背中にくっつけた拙記事
TBさせていただきました。



オカピー
2008年10月26日 02:07
ミチさん、こんばんは。

>居心地が悪かった
So was I でした。
僕も中島監督の色遣いやら、アニメの挿入やら、余り好かんです。
ティム・バートンを好かない理由と似たようなものだと思います。

努力が表に出ているので☆を多く進呈しましたが、苦手意識は払拭できません。
オカピー
2008年10月26日 02:15
viva jijiさん、こんばんは。

>なんでもあり~の「ごった煮サーカス」
全くもってその通り。

>男性陣は寄せ集め的ごった煮要素に作り手の面白手腕を見出してお喜びのご様子~~^^
わてのことかい?(笑)
しかしであるよ、上のミチさんへのコメントでも、触れているように肌に合わん監督でして、無理して褒めてるあるよ。

>違和感浮上しまくりかも
いや、そんなことないです。

ちょっとこれから映画観ますので、ここで切り上げ、続きはそちらへのコメントにて本日午後にでも。
すみません。

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