映画評「8・1/2」

☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1963年イタリア映画 監督フェデリコ・フェリーニ
ネタバレあり

フェデリコ・フェリーニはほぼ全ての作品を観ているが、ブログ開始後観るのは初めて。何とも遅くなりました。

「甘い生活」以降作品の構想に煮詰まったフェリーニがその様子を綴るという逆転の発想で作り上げた傑作で、ボブ・フォシーの「オール・ザット・ジャズ」に強い影響を与えているのは周知の事実だが、さらに、北野武の「TAKESHI’S」にはその影を見出すことができ、ウッディー・アレンが「スターダスト・メモリー」を、フランソワ・トリュフォーが「アメリカの夜」を作れたのもこの作品が映画作家たちにさらに幅広い映画作りの可能性を示したからであろう。

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世界的監督グイド(マルチェロ・マストロヤンニ)はスランプを感じた為に病気療養を名目に或る湯治場を訪れる。一人で構想を練るチャンスを狙ったものだが、製作者を始め映画関係者が次々とやって来る、肉感的な情婦カルラ(サンドラ・ミーロ)や不仲の妻(アヌーク・エメ)も押し掛ける、憧れの女優クラウディア(クラウディア・カルディナーレ)は求めても結局は素通りする、といった具体に所期の目的を果たせないうちに、折に触れて幾つかの場面が頭をよぎる。
 神学校寄宿生活を送った少年時代の思い出、そこで芽生えた思春期らしい思いや霊への恐怖、死んだ父と母。母がいつの間にか妻に変わり、自身は知っている全ての女性に君臨するハーレムの主になり、そこでは事実と違って妻も甲斐甲斐しく働いている。

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以上のような現在と過去と幻想をフェリーニは自由自在に操り、我々観客を現実と虚構の狭間に彷徨させ、正にあやしくも不思議な世界へと誘い込む。フェリーニはサーカスを愛して「フェリーニの道化師」という作品も作っているが、「人生はサーカスであり、その主たる人間はピエロである」と言わんばかりに可笑しくも悲しい主人公の行状と心象風景を綴っていく。

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象徴的なのが幕切れで、折角やってきたクラウディアの現実味に失望し、映画撮影の中止を決断した時に批評家に「失敗作は作られない方が良い。何もないのが最高傑作だ」と言われた瞬間に何故か霊感を覚え急激に力が湧き上がって妻と再出発も出来るような気分に満ち、最後は関係者全員と手を繋いでサーカス場のようなセットの上でロンドを踊る。

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場面の繋ぎは全く自由奔放で磊落、悪く言えば出たとこ勝負的なところさえあるのに、そうしたことを欠点と思わせない圧倒的なイマジネーションの奔出。自画像をこれほど鮮烈に、まるで万華鏡でも覗くように華麗に映像化できるのはこの時代のフェリーニ以外にはあるまい。
 その一方、車のラッシュにいらだったグイドが黒いコートを着たまま車を抜け出て屋根を飛び出す幻想に始まる開巻と、白いマントを身に付けた少年グイドが笛を吹きフェードアウトする幕切れの対照は見事で、調和の美を形成する。

リアリズムと様式美の混合でもあり、映像による表現が一つの極限に達した作品と思う。

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この記事へのコメント

シュエット
2008年10月23日 15:17
これはハードに大事に録画しています。
何度も観ているけれど、言葉にできない。さすがP様。鑑賞の参考にさせていただきます!
これね、こんどデジタル・リマスター版で劇場で公開されるんです。11月。今から楽しみです。ただデジタル・リマスターの映像って同なのかなって一抹の不安がある。「山猫」も「砂の器」もリマスター版を劇場でみたけど、冒頭はどうものその明るさに違和感を感じる。これはモノクロだからそれほどではないと思うのだけど…。
オカピー
2008年10月24日 01:03
シュエットさん、こちらにもコメント有難うございます。

>言葉にできない
確かに。
僕も悪戦苦闘しそうになったので、25年くらい前にリバイバルされた時に書かれた青年オカピーの文章を相当参考にしました(笑)。
何とかまとめたという形ですかね。

>デジタル・リマスター
原版についている傷などを取り去るわけですね。
確か小津安二郎の「晩春」もそうでした。
しかし、どうして明るくなるのかなあ。
2009年01月15日 20:49
 こんばんは!
 フェリーニ監督作品は何度も観ますし、記事にしようとも思うのですが、ついつい見入ってしまい、結果として何も書けません。
 冷静に見ないといけないとは分かってはいますが、書けないものは書けないので、どうしようもありません。
 自分の観た映画のすべての中でもベスト10に入ります。この映画の素晴らしさは言葉にするのも難しいと思いますし、この映画を観る前と観た後では映画についての考え方が変わるほどの作品であると信じております。
 ではまた!
オカピー
2009年01月16日 01:54
用心棒さん、こんばんは。

僕の感性は北欧の厳しいタッチと相性が良いのでベルイマンや英国映画などを好みとしますが、フェリーニは凄いですね(好きとは言わないのだ、笑)。

好きなもの、評価したいものほど上手く書けないというのは僕もあります。フェリーニは「女の都」と併せてやっと二本。学生時代に観て怠惰な生活を送っている自分とオーヴァーラップして妙に心に刻まれた「甘い生活」も書きたいんですが。
映像表現として本作は多分僕のベスト10にも入るでしょうが、自分の実体験と併せて観た場合には「甘い生活」のほうが上になりますね。

とにかく、フェリーニを殆ど映画館で観た僕は幸せ者なのかな。
シャルル
2010年04月26日 22:16
二度目のトラックバックありがとうございます。
皆さん言われてますがこの映画の評論は書けませんね。
私は無理やり書き上げましたがやっつけ仕事も良いところです。
あれじゃどれだけ凄いのか分かりづらいですよね。
でもこの映画は「凄い!!」って感じただけで良いんじゃないでしょうか?
あれこれ評論するのは蛇足な気がしてなりません。

個人的には奇術師のくだりにジーンと来ました。
奇術を終えた彼がグイドに寄り添って優しく言うんですよね。
「ずいぶん出世したね」
って。
たった一言ですがこれでこの奇術師とグイドの関係性が分かる。
そして彼があのフィナーレに導くという。
一見、無駄で意味のないようなシーンや人物、台詞だけど全て重要。
そんな映画はないですよ。

>リアリズムと様式美の混合でもあり、映像による表現が一つの極限に達した作品と思う。

激しく同意です。
オカピー
2010年04月27日 09:23
シャルルさん、TB&コメント有難うございます。

>二度目

そう言えば、以前「恋愛日記」をTBさせて戴きましたね。

>評論は書けませんね
まして僕のような文才に欠ける人間ではなおさらです。
本当に凄い映画は「観て感じるに如かず」ですよね。

>あのフィナーレ
最後は最初と対照を成していますが、少年グイドが登場して去ることにより映画的にはあれで円環するんですね。

まだまだ解りきっていないところはあるでしょうが、こと“表現”ということに関しては行きついてしまったと思われる作品です。
シャルル
2010年04月28日 02:15
>自分の実体験と併せて観た場合には「甘い生活」のほうが上になりますね。

このコメントも大いに気になります。
私も大学時代の自堕落な生活を思い出してしまいます。
でも「甘い生活」のラストは何か言いようのない悲しさがあります。
少女に適当に手を振ってまた自堕落なローマの生活に戻って行くマルチェロの姿が・・・
でもそれが現実なんですよね。
下らないって分かっていながらそんな生活を続けざるを得ない、と言う。
オカピー
2010年04月29日 00:54
シャルルさん、こんばんは。

「甘い生活」は大学時代東京のフィルムセンターで観ました。
多分主人公たちのように退廃的ではなかったですが、当時学校にも碌に行かずだらけきった自分の生活にオーヴァーラップして、妙に心に染みたんですよね。
幕切れが悲しいというのも仰るとおりです。

そんなわけで、「8 1/2」は映画的にさらに凄い境地になっていて映画的興奮という意味で他のフェリーニ作品を圧倒する一方で、共感という意味で僕は「甘い生活」が好きなんです。
シュエット
2010年05月24日 10:20
あらっ、私コメント入れてたんだ!
録画していたけど、あれからやっぱりDVD買った!
それでも、感覚で映画を捉える私には、どう言葉にしていいのかやはり言葉に窮する。言葉で語るとどれも陳腐に思えてきて…。
「81/2」をミュージカル作品の映画化(ややこしい)「NINE」を観ていて無性に矢も盾もたまらず家に帰ってすぐさま本作を観て、なんて素晴らしい(とこんな言葉も陳腐でありきたりなんだけど)って、しみじみ、つくづく、今更ながら再確認。これ以降の作品と以前の作品を観てみるとやはり本作はフェリーにとっては彼の映画人生の大きな契機ともいえる作品でしょうね。どっちも好きだわ。
この後「甘い生活」見直した。時代を切取ったともいえる作品だけど、今も褪せない感覚が凄い!
オカピー
2010年05月24日 23:39
シュエットさん、こんばんは。

>「NINE」
直接のミュージカル化ではないとは言え「オール・ザット・ジャズ」という作品があるのに、何でまたという気がします。
見るチャンスがあったら勿論見ますけどね。^^

シュエットさんが記事で仰っているように、フェリーニの映画特に本作以降は感じる・感応するという鑑賞態度が良いのかもしれません。

フェリーニはネオ・レアリスモから始まった人。
「甘い生活」は映像がリアリズムである一方アレゴリーや心象風景が多く使われるようになったという意味で、過渡期の作品と思っています。
で、本作以降心象風景を中心に半ば自画像を綴る作品が大半を占めるようになって独自の映像世界を築いていくわけですね。

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