映画評「幸福な食卓」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・小松隆志
ネタバレあり

奇談 キダン」という変てこな歴史ミステリーしか観たことのない小松隆志が瀬尾まいこの小説を映像化したドラマ。

実際には言いたくても言えない「父さんは今日から父さんを辞めようと思う」という奇妙な宣言から始まるので、本作は家族を描いた寓話として観るべきである。そんなお話に余りにリアルさを拘るのは【木によって魚を求む】ことになり、とんでもなく誤った評価を下すことになりかねない。

この父親・中原弘(羽場裕一)が3年前にリストカットして自殺未遂してから、母親(石田ゆり子)は家を出、秀才の誉れ高い兄・直(平岡祐太)は父親の二の舞になるのを恐れて大学進学せずに農業を始める。
 これが中学三年生のヒロイン佐和子(北乃きい)が直面している家庭の現状である。今流行りの家族の再生ドラマなのかと想像されるが、実はそうでもないことが中盤に向けての展開で判って来る。
 夫婦は離婚もしていないし、佐和子は誰に気兼ねすることなく母のアパートに寄り、母もぶらりと家を訪れて料理をしてから勤めに出たりするのを見れば、余りに完全な家族を営み張りつめすぎた父親の緊張感が切れた後ある意味程良く弛緩している状態にあるように思える。それを維持する役目を果たしているのが食事は必ず家族一緒に摂るというこの家庭のルールである。

父親と同時に国語教師を辞めた父は薬学部で学ぼうと考える。この辺りの彼の心境はよく解らないが、鬱になりやすくなっている娘の健康状態と関係がありそうだ。家族に貸しを作っている形の彼としては父親を辞めることで子供たちと兄弟のような距離を置こうとしたのだろう。

かようにぎこちなくも何とか鏡面のような滑らかさを保っているように見えるこの家族という池に波紋を引き起こすのが、同じ高校への進学を目指す転校生の少年・大浦勉学(勝地涼)と直の新しい恋人・小林ヨシコ(さくら)。
 非常に解りやすい性格の少年は家が裕福なのにクリスマス・プレゼントする時の喜びを大きくするのだと始めた新聞を配達している時に交通事故死してしまう。昨今のロマンス映画ではあるまいにここでこの展開はないだろうと些かがっかりさせられるが、これは終幕への布石である。

はっきりした物言いのヨシコは出番の少ない狂言回しみたいな存在で、家族ではない為に却って互いに距離を置こうとしているこの家庭のことが把握できている。佐和子に語って曰く、「家族に甘えて良いと思う」と。生前に少年も言う、「(佐和子は)気づかないところで色々と守られている」。これらが言わば主題である。
 【人は一人では生きていけない】という説教臭いメッセージなどでは決してない。【人は一人で生きていない】という人間社会の有り様(よう)を提示してみせたのである。ヒロインは彼女のその言葉と大浦少年の死により、父親が死ななかったことで保たれた家族のいる幸福を思い知るのだ。

小松隆志はここで佐和子が家に向って堤防を歩く様子をミスター・チルドレンの楽曲「くるみ」一曲分横移動で延々と撮る。かなり冒険的なアイデアだが、彼女の家に帰るそこはかとない喜びを表現したかったのであろう。クロースアップに近いバストショットで僅かに笑みを浮かべる彼女の表情を捉え閉幕、抜群の余韻を残す。

ヒロインを演じた北乃きいは女学生らしく伸びやかな演技が大変良ろしい。

映画は距離を置いて観たほうが収穫が多い。by Okapi

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この記事へのコメント

2008年10月10日 16:17
TBありがとう。

>父さんは今日から父さんを辞めようと思う

なかなか、平凡だけど、ショッキングな言葉です。
父さんを辞めることからはじまる関係というものがありますね。
それは、母親にとっても、こどもたちにとっても。

単純な再生物語ではないところが魅力な小品でした。
オカピー
2008年10月11日 02:48
kimion20002000さん、こんばんは。

いきなりびっくりの宣言でしたね。
これで、僕は純文学というか、寓話として観ることにしました。
言わば、作者の宣言でもあったでしょう。

採点は【やや良】に相当する6点ですが、結構気に入りました。
2008年10月11日 10:08
オカピーさん こんにちは♪
いつもありがとうございます。
ところが残念なことにこちらからのTBは未送信になってしまいまして。
こちらと『プラネット・テラー~』も同じく・・・。
すみません、コメントだけ残させていただきますね。

今作は、私の場合そんなに印象に残らないものになってます。
ただ、北乃きいちゃんがカワイ過ぎるほどキュートでした!
こんな家庭環境で健気な彼女がいとおしく感じました。
オカピー
2008年10月11日 23:55
なぎささん、こんばんは。

いや、TBは両方とも無事に入っていました。
ちょっと時間差があるのかもしれません。

僕も評価としてはやや良の6点ですが、それ以上に瑞々しいものを観た嬉しさを感じました。
北乃きいという名前は少々妙ですが、女学生らしくて良いですね。

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