映画評「サッド・ヴァケイション」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・青山真治
ネタバレあり

217分という長さにも内容にも相当強いインパクトがあった「EUREKAユリイカ」を作った青山真治監督にとって同作及び映画デビュー作「Helpless」と併せて北九州サーガを構成する一編。両作の後日談である。

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中国人密入国の橋渡しをしていた浅野忠信が密航中に父親に死なれた少年を引き取り、代行運転の仕事を始める。小さな運送会社の社長(中村嘉葎雄)を送った時に幼い時に自分を捨てて出て行った母親(石田えり)の姿を発見、後日ひょっこり現れて会社を手伝うようになり、中国人少年、逃走中の親友の知的障害の妹(辻香緒里)も引き取ってもらう。やがて、非行に走る種違いの弟(高良健吾)をそそのかして家出をさせ、いざこざの末に過失で撲殺してしまう。

家出させるところまでは彼の母親に対する<計画的復讐>であるわけだが、彼の思惑は尽く外れ、服役した彼の前に母親が現れる終盤の場面で覚えるのは、ホームドラマ的とでも形容したくなるような、気持ち悪い恐怖である。

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主人公の青年は他人には低姿勢、母親には徹底して抵抗する態度を示す。態度どころか、母親の希望をこっそり壊すことに精力を使うわけだが、この異常に強い母親は弟息子が死んでも動ぜず、長男が恋人との間に設けた赤ん坊を<生まれ変わり>と称して前向きにしか考えない。母親を倒し、青年にとっては圧力にしか感じられない愛情から逃げようとする青年の必死なあがきを母親はとてつもなく巨大な力で封じ込めてしまう。
 母親の強さを感じる方が多いと思うが、この強さは僕に対しては感動より恐怖――ストレートではなく、オブラートにくるまれたようで、掴みにくい恐怖――を惹起する。主人公にとっては悪夢であろうし、彼の立場になれば、下手な恐怖映画よりずっとぞっと怖いですぞ。但し、この恐怖は母性が一般的に与える心地良さの裏返しかもしれない。

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「ユリイカ」に比べれば本作の136分は短いとは言え、ジャンプカットを多用する序盤では不安が過ったが、「ユリイカ」の少女・宮崎あおいが登場してから誠に力強く進行する。多数の人々が交錯する際に強いエネルギーを内包する化学反応が起こるのである。
 それを下支えするのは<家族>という通奏低音に他ならない。主人公が中国人少年との間に作り上げる疑似家族、運送業者が訳ありの風来坊を集めて作り上げる疑似家族。実際の家族が一番ぎこちないのはちょっとした皮肉だが、その家族も色々複雑な事情を抱えていて一筋縄には行かず、観客の関心を引かないではおかない。青山真治の馬力は相当なものである。

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この記事へのコメント

シュエット
2008年08月06日 13:27
何気なく観た映画でしたけど、青山真治の名前も知っていたけれど、いままで全く見てなくって、この作品で思わず「開眼!」しました。
邦画の未来に思わず期待しました。なんか突き抜けるドライ感。好きだなぁ。映画デビュー作「Helpless」に至っては参りました!
嬉しいな。喜び勇んでTBしますね!
シュエット
2008年08月06日 14:09
「Helpless」もTBさせてくださいね。
デビュー作のこの作品は彼の中でも一番好きだわ。
2008年08月06日 21:11
こんにちは。
自分の過去の映画2本を統括する。
世界にもあまり例がない画期的な試みでした。
(いや、どこかにあったかな。)
好き嫌いは別にして、
ほんとうに刺激的な作品だったと思います。

オカピー
2008年08月07日 02:13
シュエットさん、こんばんは!

>邦画
世界でも芸術的にはトップクラスの映画大国ですからね。
昨今は今一つの感があるとは言え、良い監督もいますよ。
しかし、TV局が積極的に映画製作に携わるようになってから、大衆映画のレベルが著しく落ちました。

>「Helpless」
チャンスがあったら観てみますね。
オカピー
2008年08月07日 02:19
えいさん、こんばんは!

>世界にもあまり例がない
そうですねえ。
あったとしても簡単には思いつきませんね。

>刺激的な作品
人物の行動も展開も比較的読みにくいですしね。
最初は本当に心配したんですけど。あおいちゃんが登場してからは腰がおちつきました(笑)。

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