映画評「不完全なふたり」

☆☆★(5点/10点満点中)
2005年フランス=日本映画 監督・諏訪敦彦
ネタバレあり

「M/OTHER」の諏訪敦彦が全編フランス語で撮った日仏合作映画である。

友人の結婚式に参加する為にリスボンからパリに戻ってきた夫婦ブリュノ・トデスキーニとヴァレリア・ブルーニ・テデスキは、周囲から<完璧な夫婦>と思われているが、実は二人は離婚しようとしていて、ホテルでも些細なことで揉める。ヴァレリアは気分を変える為にロダン美術館に出かけ、溶け合おうとする男女の像に惹かれ、その感動を夫に告げようとしても彼の心は開かない。「我々は何をして、何をしなかったのか」と煩悶しつつ彼女は一人で旅立つ為に電車の前に立つ。

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というお話で、「人は別れを決めた時にその愛に気づく」というのが幕切れの正しい解釈らしいが、僕にとっては余りピンと来ない文学的で抽象的な主題なのでその辺は他の方に任せるとして、この映画の作り方に疑問を呈することを本稿の主旨としたい。

昨今、リアルであることを至上命題とする作家が増え、欧州の映画祭はそれを高く評価する傾向にある。現に、諏訪監督は欧州で人気があり、本作もロカルノ映画祭審査員特別賞などを受賞している。そうした考えに拘るセミ・ドキュメンタリーの作家たちはその実施の為に長回しを用いることが多く、諏訪監督のように即興演出を好む人もいる。

僕に言わせれば、長回しは舞台や劇画にはない【適度な連続性】という映画の最大の特徴を生かさない勿体ない手法である。特にカメラを据え置く固定ショットの場合、我々の日常的視覚と等質化するか、若しくは観客席で舞台を見るのと変わらなくなり、全く味気ないものになる(ことが多い)。長回しが全て悪いわけではない。<長回しとハサミは使いよう>ということである。因みに本作は最初の3ショットで15分47秒かかっている。それも全て固定ショットなので、僕は相当うんざりさせられた。それ以降は2分程度という比較的短いショットが多くなるが、それでも平均的クラシック映画の10倍くらいの長さである。

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さらに、この作品は旧作「M/OTHER」同様殆ど即興演出で作られたという。つまり設定だけを用意して後は俳優任せという演出である。この手法で高いリアリティを感じさせたり、面白い台詞が構成されたとしても、当然監督の手腕に対して高い評価を与えることはできない。

作家性という観点から語れば、適当に切られたショット群、練り上げられた台詞という<演出>を如何にして現実と思わせるかということこそ映画作家の仕事であり、力であろう。「現実を描くのだから現実を感じやすい手法で」と言う発想は創造性の放棄と思うし、翻って観客の方に目を向ければ、現実そのものの場面にしか現実を感じないのは想像力の欠如と言うべきである。

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この記事へのコメント

2008年08月26日 18:57
先日、シネフィルで偶然諏訪監督の
デビュー作「2/デュオ」(日本人俳優で
撮影地も日本)を観ました。(1997)
若い稚拙な同棲者が主人公の物語で
なかなかピーンと張り詰めたヒリヒリ感が
伝わってきて悪くない作品でした・・・
が、
本作はあまりにも良くないです。(笑)

定点観測撮影や即興台詞を重要視して
それらに何かを語らせるというのは
こんなボンクラ&曖昧な設定じゃ無理無理。

“なんでもいいから空気を読んでよ~”
って作り手に盛んに言われてるみたいで
私、肩こってしまったのでした~(--)^^
2008年08月26日 23:00
こんにちわ。オカピーさんとほぼ全面的に同意見です。
まあ、ヒチコックが「恋人たち」に文句を言ったのと同列には論じられないと思いますが、だって私、ルイ・マルは尊敬してますから。いずれ歴史が、この映画の先見性を認めて、当時の観衆の不明を嘲笑することがあっても、こんな拷問に掛けられるくらいなら、それくらいは我慢します。
2008年08月27日 00:42
>リアルであることを至上命題とする作家が増え

ドグマ台頭の影響でしょうか?
フランソワ・オゾン監督あたりの映画も、そんな感じの「リアル」にこだわるあまり「で?」とツッコまずにはいられないような、味も素っ気も無い画作りの映画が最近多い気がします。

私はドグマ作家達も、「長回し多用」とか「手持ちカメラ撮影」とかも、まったくもってピンと来ないので、諏訪監督の作品もどうもピンと来ない印象です・・・。
オムニバス映画「パリ、ジュテーム」にも参加していましたが、その作品も中途半端な印象はぬぐえませんでした。

映画に何を求めるかによりますが、私の中ではやはり映画は良い意味でエンタメであってほしいので、喜劇/悲劇にかかわらず、「つまらない現実味」を感じさせる映像よりも、「心を揺さぶられる嘘とフェイク」に満ちた映像の方が、惹かれる要素は多いです。
社会派作品の代表と言われる「灰とダイヤモンド」だって、心をワシ掴みされるカメラワークだったからこそ、刺さった・・・と個人的に思います。
オカピー
2008年08月27日 02:32
viva jijiさん、こんばんは。

>デビュー作「2/デュオ」
>若い稚拙な同棲者

この人、この手のお話が好きですねえ。
デビュー作は観ておりませんが、次の「M/OTHER」もカップルのお話で、やはり即興演出に拘っていて、本作ほどではなかったかもしれませんが、ぼんやりと見やるしかない作品でしたよ。

>こんなボンクラ&曖昧な設定じゃ無理無理。
まあそうなんでしょうねえ。
そもそも全編即興のセリフはきつい。ヌーヴェルヴァーグの連中が好んだと言いますが、彼らも全編に使った例は殆どないでしょう?
トリュフォーの「大人は判ってくれない」では少年が感化院で色々聞かれるのは確かそうだったんじゃないかなあ。
一番好きだったのはゴダールでしょうね。

>空気を読んでよ
これが一番困りますね。
しかも読むには余りに材料を欠いていると来る。
いやあ、参ります。
オカピー
2008年08月27日 02:37
Biancaさん、こんばんは。

>ヒッチコック
僕は、あの言葉は案外、ヒッチコックが妬いて吐いた言葉ではないかと思っているんです。勿論半分は本音でしょうけどね。

>マルの「恋人たち」
傑作ですね。僕も大好きです。

>こんな拷問に掛けられるくらいなら、それくらいは我慢します。
あははは、強烈ですね。
先日観た中国映画の「春の惑い」も僕にとっては拷問だったなあ。
オカピー
2008年08月27日 02:52
RAYさん、こんばんは。

>ドグマ台頭の影響でしょうか?
そうかもしれませんねえ。
僕はドグマが出てきた頃、「BGM」は自然音に限るとか、馬鹿なことばかり言って、相当否定的見解を連発しましたが、最近は結構面白い映画も作りますし、BGMも採用する作家もいたり、まあ見直しているわけです。

>手持ちカメラ
カメラ酔いを起こすから、心理学的にも多用は避けたほうが良いですね。
手持ちがリアルなんて誰が決めたんでしょうね。
妙に安定しないので寧ろフレームを意識させてしまうような気さえしますが。

>良い意味でエンタメであってほしい
映画ファンの多数を占める考えでしょう。
僕は難解だからといって(例えばベルイマン)娯楽性がないとは考えないんです。
しかし、独善の映画に真の娯楽性はない、と思います。
シュエット
2008年09月01日 09:42
おはようございます。
P様、はじめ皆様厳しい評価で…
私は案外と好きでした。デビュー作「2/デュオ」は観る気が起こらなくって観てませんが、「雰囲気読んでよ」の雰囲気読めて(笑)
作品としての評価って基本的に私はできないのですが、このカップルの、人間関係って、所詮、分かってるようで分かっていない。どこで折り合いをつけるかってとこで、みんな生きてる。今更、それをそのまんま
テーマとして描いても、というところもあるでしょうが、本作では言葉にならない空気が(私には)伝わってきたというところで、感動とかはなかったけれど、私はこの映画の雰囲気は好きですね。ただ、こういうテーマを追求されると疲れてきますけどね。
>当然監督の手腕に対して高い評価を与えることはできない。
と、私も思います。


オカピー
2008年09月01日 22:30
シュエットさん、こんばんは。

>厳しい評価
しかし、5点ですから、映画にはなっているという評価です。^^

>雰囲気
リアリズムを目指した結果ムードが出るということは、やはり<演出>が介在するということなので、こういう放任的作り方にはどこか矛盾を感じます。

結果的に面白ければ作り方はどうでも良いので、一種ムードを優先して作っても、ルイ・マル「恋人たち」やロベール・ブレッソン「白夜」みたいな凄い作品もあるわけですから、余りに<現実を感じさせる手法>に拘るのは馬鹿げていると思いますね。

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