映画評「夕凪の街 桜の国」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・佐々部清
ネタバレあり

こうの史代のコミックを佐々部清が実写映画化したドラマ。主な登場人物の名前は広島市の町名にちなんでいるという。

昭和33年の広島、母フジミ(藤村志保)と二人で衣料会社に勤める皆実(麻生久美子)が、同僚の打越豊(吉沢豊)から愛を告白されて間もなく、疎開先の叔母夫婦の養子となった弟・旭(伊崎充則)の目の前で原爆症に倒れ、26歳で夭逝する。

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ここまでが第一部「夕凪の街」のお話で、黒木和雄の秀作「父と暮せば」と同じように生き残ったことに後ろめいた思いを抱くヒロインの心情が浮かび上がり、打越の「生きとってくれて有難う」という言葉と相まって感銘を呼ぶ。前述作のアングルをつけた作劇と違い、実に素直に平明に作っているのが佐々部監督らしい。

続く第二部は「桜の国」で、第一部より約50年後の平成19年、定年退職した旭(堺正章)がある夜黙って家を出る。27歳になる娘・七波(田中麗奈)が追いかけ、偶然出くわした小学校時代の同級生・東子(中越典子)と広島まで来てしまう。墓参をし、老婦人たちとの出会いを繰り返す父親を追ううち、彼女はその町並みに彼女が小学6年の時に原爆症の為若死にした被爆者の母親・京花と父親の若き日の姿を幻視する。厳密に言えば、七波を時間を超える道具のようにして映画は現在と過去を往復するのである。

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この事件を通して原爆症とは縁のない元気者と自認してきた七波も自身が被爆3世であることに再確認し、観客に「原爆を忘れない」ことの意義を印象付けていく。医師をする弟が被爆3世故なのか喘息を患い、看護師の東子との交際をその家族から禁止される一方で、疎開の為に被爆を免れた父親が敢えて被爆した京花を選んだ、という対照を彼女にしても意識せざるを得ないからである。父親はまるで姉の死の意味を娘に教え、継がせる為に結婚したようではないか。

見た目以上に繊細に作られた作品で、皆実と七波の対位法的な扱いが強い印象を残す。その性格の対照も鮮やかならば、銭湯で晒す皮膚には醜いケロイドのある皆実と、ラブホテルで晒す七波の美しい肌の対照も見事。しかし、皆実の思いは七波へと引き継がれ、一体化する。誠に美しい音楽的な構成と感心するしかない。
 しかし、弟の恋人が16年ぶりに再会した一緒に旅する同級生と同一人物という設定に些か出来過ぎの印象があるのはマイナス。

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配役では女優陣が好調で、儚げな麻生久美子と元気な田中麗奈の好演が目立つ。それに比べると男優陣は些か弱く、壮年になった旭を演じた堺正章は青少年時代と比べた場合に違和感がある。

我が家にも被爆した親類がいるので、僕にとっても他人事ではない。そして、本日は終戦の日。黙祷するのみ。

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この記事へのコメント

2008年08月15日 16:33
TBありがとう。
結局、被爆認定をめぐっては、ついこの間までも、厚生省の見解は、役所的発想でしたからね。ほんとうに、誰のための、行政なのか、補償なのか、腹が立ちます。
オカピー
2008年08月15日 23:46
TB&コメント有難うございます。

僕の伯父など、認定の問題に絡むことさえなく(恐らく原爆症で)死んでしまいましたよ。

政治家も役人も本当にダメな国ですからね。政治・行政に関しては日本は先進国と言えないと僕は思っています。
先日黒澤明の「生きる」を久しぶりに見ましたが、官僚なんて大体あんなものですよね。
2008年12月22日 22:16
泣けて参りました、とくに前半。
七海が過去に思いをつなげたのも良かったです。
こういう映画、なければいけないですね。言葉はいらないです。
オカピー
2008年12月23日 03:26
ボーさん、こんばんは。

そちらのブログがfc2の不具合で読めませんので、一方通行のコメントになりますが悪しからず。

僕も涙もろいので、戦争絡みは本当に辛いです。
個人的には過去の悲惨など忘れるべきですが、国民としては忘れてはいかんですね。さもないと、また戦争をしたがるバカ者が出てきます。

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