映画評「妻の心」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1956年日本映画 監督・成瀬巳喜男
ネタバレあり

成瀬巳喜男は原作もの、特に女性を主人公にした小説を映画化するのに長けている。勿論オリジナル作品が悪いということではないが、井出俊郎のオリジナル脚本を映像化した本作などやはり物足りない。

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群馬県桐生市、経済成長の波にさらされて寂れる古い薬屋の富田屋栄竜堂。現主人の小林桂樹が多角経営に乗り出して尽く失敗、今度は空き地を利用して妻・高峰秀子と一致協力の下に喫茶店を100万円の資金で開くことを決心するが、妹(根岸明美)の結婚の為に30万円を奪われる。
 折も折長男の千秋実が会社の倒産で東京から戻って開店資金に再度30万円を要求されたことから次男夫婦が不和になり、ゴタゴタを嫌って逃げ出した夫が芸者といたことが発覚、妻は融資を依頼した親友の兄たる銀行員・三船敏郎との親密な関係が取り沙汰されて、色々とややこしいことになる。

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お話の構成は、懸命にやりくりしてきた次男夫婦の生活が東京での安穏なサラリーマン生活に行き詰った長男によって掻き回され、その間にその夫婦関係の真価が問われる、と実に明確。長男は東京で再就職できそうになるとまた上京してしまうのだから良い気なもので、これほど典型的に池に投げ込まれる石の役目を負って出てくる登場人物も珍しいが、肝心の夫婦の心情が余り面白く描かれていない。

方やゴタゴタに耐えきれず友人や一方的に思いを寄せられた芸者と旅に出る逃げ腰の夫、方やなかなか気の利いた独身の銀行家と一緒に行動をすることが多くなりがちな妻。
 構図としてはそこそこ面白いが、芸者とは何もないことが観客が解っている夫に対し、題名にもなっている妻の心理は今一つ不鮮明である。恐らくは何でもないのであろうが・・・という我々の推測が形を成す前に彼女が「そんなことはない」と夫に告げた途端に夫婦の互いへの不信が消え、将来への希望まで生まれてくる。これではつまらない。

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元来はっきりしない妻の心理が夫との会話で初めて確認されるより、妻が何とも思っていないことをはっきりさせておいて最後に夫の誤解が解ける、といった展開のほうが三文ドラマ的すぎるにしてもお話としては面白くなるのは火を見るより明らか。井出氏には彼女と銀行員の行動を見せておけば二人の間に何もないことを観客は解ると思っている節があるが見込み違いである。何故なら人の内面は行動だけでは解らない。心情表現が上手い高峰秀子を起用しているのに、宝の持ち腐れと言うべし。
 彼女の気持ちが曖昧に映るのは、銀行員氏が主婦に対し秘かな思いを抱いていたのではないか、という我々の憶測が否定されないからである。成瀬作品出演は珍しい三船もその辺りのニュアンスを十分伝え、黒澤映画とは対照的な柔和さが印象的。

映画は町の全景を捉えた環境ショットで始まり、同じアングルのショットで終わる。開巻ショットは些か暗い朝方、幕切れは陽光降り注ぐ真昼である(上画像)。このショットは夫婦の気持ちの反映であるが、こうした解りやすさが映画全体にも欲しかったと思う次第。

日はまた昇る。

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