映画評「神童」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・萩生田宏治
ネタバレあり

さそうあきらのコミックを萩生田宏治が映像化した音楽映画。

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文字より先に楽譜を読んだピアノの神童・成瀬うた(成海璃子)は現在13歳。母親(手塚理美)にスポーツを禁じられ手袋をはめさせられる生活に鬱屈して音楽が嫌いになりかけたある日、音大志望の浪人生・菊名和音(松山ケンイチ)と親しくなる。神童の彼女から観れば彼のピアノは下手だがその隙間のある音に心が安らぎ、八百屋をする彼の家に通い詰める。
 彼女のお守りである人形を受け取った青年は見事に首席で合格する一方、彼女はドイツ人有名ピアニストの代打に起用されて大成功を収めるが、その時彼女は忍び寄る難聴と闘っていた。

スポーツの才能にも音楽の才能にも恵まれなかった僕にはよく解らない世界だが、ヒロインの心情を読むのが大変面白い。彼女の現状は燃え尽き症候群の軽い症状のように見えるが、要は自身を音楽そのもの(つまり絶対音感)であると思い、音楽は楽しみ憩うものと思っている彼女にとっては強制される練習で弾くピアノは“音楽”ではなくなっているのであろう。彼の下手なピアノが安らぎになるのは、その音と音の隙間に自由即ち真の音楽があると感じるからであろう、といった具合に。

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さて、後半の展開は予想出来ないところが多く、益々興味深い。
 しかし、彼女の心理に関してはその言動により鮮やかに描出されている印象を覚える一方、基本の部分に解らないことがある。例えば、彼女の家庭環境は音楽家だった父親が若くして自殺、その後家計が火の車になった為に母親は借金返済に奔走する毎日・・・というところまでは理解できるものの、一家が前に住んでいた家の扱いが非常に曖昧。うたは前の家に自由に出入りしているし、ある日突然父の遺したピアノが売られてしまうという展開は、母親が借金地獄と戦っている中では釈然としない。娘が手放そうとしなかったとしても、何故今頃なのかという疑問が付き纏う。

難聴の扱いについてもすっきりしないところがあるので、やっと辿り着いたピアノ(楽器)の墓場で父のピアノに対峙している時に和音(わお)君が現れて連弾する幕切れがもう一つ盛り上がり切らない。そもそもこの場面自体の扱いが曖昧で、お互いの不足を補う二人の関係が築かれるという主題に影響を与えることはないものの、少年が一人外で待っている様子を考えると、現実とも幻想とも取れるような気がするのだ。

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しかし、allcinemaの最後の投降者が言うほど「ひどい脚本・演出」ではない。
 天才と言えども通常凡才以上に努力するわけだから、練習もせずに楽譜も見ずにパーフェクトに演奏してしまう彼女のような真の天才はモーツァルト以外に実際の世界にまずいない。真の天才が市井に生きる孤独を、かつ、父親の死による影響を考慮せずに今の言動だけを以って彼女の性格を評価するのは甚だバランスを失している。“神童”をテーマにした作品を、凡人の感覚で即ち感情移入云々で単純に捉えて良いわけがない。

ベートーヴェン、シューベルトなどを起用したクラシック音楽は日本映画では珍しく本格的な扱いである。ミディアムショットで全体把握に耐えた成海璃子の演奏ぶり(格好だけ)も見事で、「きみにしか聞こえない」ほど適役ではないが、好調。

うた、和音(わお)、香音(かのん)・・・面白い名前だ。なるほどコミックらしい。

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この記事へのコメント

2008年06月30日 22:07
TB&コメありがとう。
コミックのほうなんですけど、ウタとワオはもちろんなんですが、この作品で絶対外せないのは、ウタのお母さんなんですね。だんだん貧しくなって、ウタのためにキャバレーで働くようになるんですけどね。
ウタには口うるさいんですが、憎めなくて愛嬌があるんですね。
で、とてもいいバランスになっている。
映画のお母さんは、フツーの教育ママじゃんという感じで、がっかりしました。
オカピー
2008年07月01日 02:30
kimion20002000さん、こんばんは!

>フツーの教育ママじゃん
あははは。
原作と比較しなくても余り面白くない人物像でしたね。
僕は比較するものは何もなかったので、素直に(笑)観ていましたが、何だかよく解らない点が多いのが不満でした。

しかし、成海璃子ちゃんは将来有望だなと思いました。

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