映画評「チップス先生さようなら」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1969年アメリカ映画 監督ハーバート・ロス
ネタバレあり

ジェームズ・ヒルトンのこの短編小説は1939年にサム・ウッドが映画化してなかなか素晴らしい出来だったが、ミュージカル化したこちらは断然の秀作である。久しぶりに観たがやはり感激しました。

英国南部の寄宿制学校でラテン語を教えるチッピング(ピーター・オトゥール)や堅物で不器用で生徒から“カス”と揶揄される人物だが、夏休みで出かけたポンペイ遺跡で再会したミュージカル女優キャサリン(ペトゥラ・クラーク)と恋に落ちて結婚、学校関係者を驚かせる。
 第2次大戦が始まった結果先生は糟糠の妻の為に念願する校長への昇進を果たすものの、一番知らせたい妻は慰問先の空襲で爆死してしまう。戦後退職して長い教師時代の思い出に身を浸す。

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チッピングのまず人間性が大変魅力的。堅物だが英国人らしいユーモア・センスのある彼の人柄は結婚後磨きがかかり、妻の人気も手伝っていつの間にか生徒の誰もが校長になってほしいと願う人気者に変身するのだ。僕もこんな先生なら応援したくなる。“チップス”は彼が妻にだけ許した愛称だが、生徒もついそう話しかけてしまうのも人気者故・・・もはや“カス”ではない。

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彼がそうなれたのも華やかな仕事を辞めて教師の妻として懸命に尽くしたキャサリンのおかげで、互いに尊敬し感謝し合う二人の夫婦関係にじ~んとさせられる。
 チップスの「校長になれたよ」という声は車の音に遮られて彼女の耳には届かない。経験を踏んだ映画ファンならこの後彼女に訪れる悲劇を事前に察知してしまうはずで、事件を知り涙を抑えて懸命に授業を続けるチップス先生に涙腺が刺激されるが、校長としての最後の訓辞にも感極まる。この台詞が素直に我々の耳に響くのもピーター・オトゥールの絶妙な演技のおかげと言うべし。

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ミュージカルとは言うものの、所謂ミュージカル的な場面は英国の歌姫ペトゥラ・クラークが主題歌「ユー・アンド・ミー」を歌う2カ所だけで、殆どの歌曲は内面モノローグとして使われる。当然レシタティヴ的になり、そのせいで歌曲として低く評価する方が多い(例えば、IMDbのある投稿者曰く「ミュージカル映画史上最低の歌曲群」)。
 しかし、レシタティヴは台詞と音楽の中間的なものだから、所謂メロディアスなものになるはずがなく不当な低評価であり、寧ろ歌曲を内面モノローグとして使ったことは大変興味深いと言わねばならない。いわんや、何度か繰り返される主題歌はなかなかの佳曲だ。

ハーバート・ロスは大変手堅い仕事をする好きな監督で、感覚にも大変優れているが、地元アメリカで過小評価されている監督である。本作では二人がポンペイを散策する様子を捉えた場面の感覚の良さが気に入っている。

監督の名前に反してロスのない作品でした。

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この記事へのコメント

2008年06月30日 11:47
こんにちは、TB有難うございます。大好きなピーター・オトゥールの代表作、なかなか見る機会がなくて、やっと今頃見ました^^;)。さすがオカピーさん、高得点ですねー。私も、これをもっと前に見ていたら、評価を高くしていたかも…。パブリック・スクールもの映画の基本のような感じがします。奥さんの死のシーンとラストは泣けました。
オカピー
2008年07月01日 02:24
ぶーすかさん、こんばんは!

世間では、音楽の評価もあって、実力より明らかに過小評価されています。
僕には文句のつけようがないのです。

>奥さんの死
あの慰問に旅立つシーンがあるので予想がつくことが却って感情を高めます。「予想通りだからつまらない」なんてのは戯言である場合もあるわけですね。

この記事へのトラックバック

  • ハーバート・ロス監督「マグノリアの花たち」「チップス先生さようなら」

    Excerpt: ●チップス先生さようなら(ピーター・オトゥール) ★★★ 【NHKBS】イギリスの寄宿学校に一生を捧げた教師、チップスのドラマをミュージカル化。テレビドラマ版も悪くなかったが、やっぱりピーター・オト.. Weblog: ぶーすかヘッドルーム・ブログ版 racked: 2008-06-30 11:41
  • Goodbye, Mr. Chip

    Excerpt: BSで「チップス先生さようなら」を初めて観ました。 英国のパブリックスクールの教師チッピング(愛称「チップス先生」)の人生を美しく詩的に描く映画でした。 Weblog: 大津留公彦のブログ2 racked: 2008-09-09 01:47