映画評「満員電車」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1957年日本映画 監督・市川崑
ネタバレあり

市川崑は何でもこなす器用な監督でコミカルな感覚にも優れていたが、本作は岡本喜八もかくやと思われるドタバタ・ブラック・コメディーである。細君・和田夏十との共同脚本。

一流大学を出てビール会社に入り寮暮らしを始めた青年・川口浩は十年一日の如き毎日にうんざり。楽天家と思われた隣の男・船越英二が公務員試験の勉強の余り倒れたりするのを見るにつけても、会社員のしがない生活に益々嫌気がさす。
 市会議員を務める時計屋の父親・笠智衆からの手紙で母親・杉村春子が発狂したと聞き、精神科医の手伝いをしている川崎敬三に様子を見に行かせるが、川崎は父親をたらし込んで精神病院建築を取り付け老人を病院へ送り込む始末。青年が文句を言いに行くと川崎は調子に乗りすぎて交通事故で死んでしまい、本人も電柱に体当たりして一か月も昏睡、その間に失業して懸命な職探しの末にやっと再就職した小学校の用務員も大学卒という履歴が発覚し、校長より学歴が高くては困ると首になる。

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戦前小津安二郎が大学を出ても仕事にありつけない厳しい現実を風刺した「大学は出たけれど」は当時の経済不況を背景に生まれるべき作品であったのに対し、こちらは初期とは言え既に高度経済成長に入った時代に製作されたわけだから後半就職難を描いた部分に些か疑問が残らないでもないが、【世の中は満員電車と同じで一度はじかれたらそう簡単に乗り込めない】という発想から生まれた不条理な展開には日本映画としては珍しい怒涛の勢いがある。

前半こそ工場がスタートすると歯が痛み出すといった五月病風刺のようなちょっとしたお笑いに過ぎないものの、足の痛みから始まった治療で寝込むうちに髪の毛が真っ白になってしまう漫画みたいな場面辺りから凄まじいお話になる。母親の発狂を指摘した父親が精神病院で悠然と過ごしているのはシュール、そのくだりで語られる「まともな父親が精神病院に入りたがるのは世の中がおかしいからだ」といったニュアンスの台詞は不条理の極致であり、逆説的真理かもしれない。

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主人公が学歴を低めに詐称するのは先般もニュースになったように現実に即した皮肉だが、恋人だった同級生の結婚相手と同じく用務員に辿り着いたり、それさえ維持できず肥溜の隣に建てた、文字通り吹けば飛ぶような掘立小屋で学習塾を始めるのは相当ブラックである。

最後は小学校の校長が新入生たちに最高学府を目指すように祝辞を述べる一幕。些か間延びした感じにはなっているが、強烈な諧謔と言うべし。

市川崑風「大学は出たけれど」・・・サラリーマンは気楽な稼業と来たもんだ、か。

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