映画評「アルゼンチンババア」

☆☆★(5点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・長尾直樹
ネタバレあり

名前だけはよく知っているよしもとばななの同名小説を長尾直樹が映像化したファンタスティックなホームドラマである。

長期入院中だった母・手塚理美を失った高校生の娘・堀北真希は、ショックで失踪した父親・役所広司に会いに、<アルゼンチンババア>と呼ばれる初老婦人・鈴木京香の住む洋館に向う。猫をたくさん飼って物凄い臭いのする彼女に饗応され、少女も息巻いて乗り込んで行った叔母・森下愛子も彼を奪還することはできない。

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石工なので妻の墓石用に石を用意すれば戻ってくるだろうという妙案も焼け石に水(笑)・・・どころか、彼は妻の死を認めることができずに逃避したのだからまるでトンチンカンと言うべし。
 紆余曲折の末に彼が家に戻った時は今度は50歳にもなろうという<アルゼンチンババア>の妊娠が判明したショックで娘が失踪するが、父は掘り終えた墓石を積み込んで娘がいるはずの思い出の海岸地帯へ車を走らせる。
 彼の彫った墓石がイルカに模られたことが判明し、娘の思い出と結び付くこのシークェンスがハイライトである。彼女は父親を、そして、<ババア>を理解し、今の永続を願う故に人間は愛を求めることを理解する。

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世評は極めて悪い。余りに調子が良い一方で、描写が過剰だったり不足だったりするので、評価の低さは僕にも理解できる。しかし、その表現の多くには疑問を禁じ得ない。

本作の、そして恐らく原作の狙いは、浮世離れしたストーリーの中に、愛と生死をめぐる人々の現実的感情を浮き彫りにしようということ。ところが、浮世離れした話であることは理解しているのに、感情という概念の具象である映画の中の現実と我々の現実との距離をきちんと測らないから、逃避した父親を非難するといった方向違いの感想になってしまう。
 人間が愛する者の死を容易に認められないのは至極当然であり、本作はそれを寓話として<実際に逃避する>ように見せているだけである以上、この父親を責めることは自分に内在する弱さをも責めることになる。

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この作品が余り褒められないのは寓話としての側面を押しきれずに描写を<現実>と錯覚させてしまうなまなかさにあり、その問題点を把握せずに登場人物の性格や行動を批判してしまうのは鑑賞者が映画に対する距離を取れていないからである。
 言葉遊びみたいになってしまうが、映画が設置した作風と主題の距離を正確に掴むには、距離を置いて映画を観ることが肝要と言うべし。

鈴木京香は奮闘しているが、いかんせんミスキャスト。

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  • 『アルゼンチンババア』

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