映画評「トランスアメリカ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2005年アメリカ映画 監督ダンカン・タッカー
ネタバレあり

性同一性障害の男性を女優のフェリシティ・ハフマンが演じてオスカー候補になるという話題を呼んだロード・ムービー。

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ロサンゼルスに暮らす性同一性障害の男性であるフェリシティが<最後>の手術を数日後に控えたある日、ニューヨークの警察からの連絡により17歳の男娼ケヴィン・ゼガーズの身元を引き受けるように要請されてしまう。18年前男性として交渉したただ一人の女性に子種を与えていたのである。結局、初めて会い、しかもポルノ男優になって西部に住む父親に会うことを楽しみにしている少年に正体を告げるわけには行かず、教会関係者と詐称しオンボロ車で西部への道行きと相成る。

この手の作品で困ってしまうのは、その類の人物を<彼>と称するのか<彼女>と称するのか判断に迷うことだ(笑)が、ともかく、ニューシネマ時代のロードムービーのようなクラシックでオーソドックスな作りの佳作である。

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日本にもオカマの父親と娘を絡めた「メゾン・ド・ヒミコ」というドラマがあるが、こちらはアメリカなら実際にありそうな人物配置と環境とは言え、やはり登場人物を残酷な【人間喜劇】の俎上に乗せるタイプと言って良い。ただ、本作が長編第一作というダンカン・タッカーは<こういう時人間はどういう行動を取るか>という文学的な匠気に走らずに、結局少年が現状を受け入れる幕切れまで二人の関係を面白可笑しく見せることに重点を置き、降って湧いたように少年を品行方正に変えるわけでも、その逆にとんでもない悲劇を用意するわけでもなく、ひたすら自然体で対象にアプローチしているところに好感が持てる。
 そして、お話が進行するにつれ、様々な形態の<家族>が現れては消え、家族というテーマが浮かび上がってくる。少年の継父も家族なら、性同一者障害者ばかりが集まるパーティーも<家族>だ。

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面白いのは主人公たちが西部に住む<彼>の家族と再会する一連の場面。古風な母親フィオヌラ・フラナガンが失神せんばかりに仰天するのに対し、父親バート・ヤングは達観したものである。妹はその中間的な態度で面白がる。
 アメリカと言えども東海岸や西海岸の大都市圏と違って地方は日本以上に因循古俗で、その辺りの対比が為された部分であるが、キリスト教の母親とユダヤ教の父親という背景も絡んでアメリカの縮図を見せる趣向にもなっていて、ちょっとした風刺劇的な面白さを垣間見せる。

一家は金を盗まれた元息子に手術用の金を渡して優しく見送る。何だかんだ言っても肉親とは有難いもので、母親に自殺され継父に性的虐待を受けた少年が母親になった父親を受け入れるのもこの祖父母たちとの交流なしにはありえない。人情とちょっとしたハプニングを織り交ぜて、爽やかな後味の作品でございました。

フェリシティの熱演については改めて言うまでもあるまい。

偽の○○にゃぼかしは要らぬ、か。

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この記事へのコメント

2008年05月18日 18:19
お久しぶりです☆

>フェリシティの熱演については改めて言うまでもあるまい。

っとあえて言及を避けられたオカピーさんに大賛成ですが、私は声を大にしてそこのとを書きまくってしまってはいますけどね(笑)
そして、あえて深刻さを強調せずに、まさに性別を超えた、いろいろな愛のあり方を自然体で表現してくれたところに、好感もてますよね~
結構好きなテイストの映画でした~
オカピー
2008年05月19日 01:46
rikocchinさん、お久しぶりです。

演技について書くのが一番ふさわしいような作品ですからね。

>愛のあり方
家族のあり方と言い換えても良いですね。
結局あの二人は一緒に暮らすことになるでしょう。主人公は父親で母親でもあるのですから、ある意味便利ですよ(笑)。
2008年05月19日 18:51
バートヤングの権力なさそうなんだけど立派なお金持ちでまあいいやん、という感じがよかったな。あと、インディアンのおっさんも。
オカピー
2008年05月19日 23:55
kimion20002000さん、こんばんは!

>バート・ヤング
「ロッキー」の頃からやる気のなさそうな感じが良い役者さんですね。

>インディアンのおっさん
グレアム・グリーンといって「第三の男」を書いた英国の有名作家と同姓同名なんですよね。
インディアンの中でも我々と同じモンゴロイドだなあということを感じっせる人ですね。
2008年05月27日 07:30
またか~アメリカさんの家族再生映画か~^^
な~~んちゃってブツブツ言いながらでも
「リトル・ミスサンシャイン」や本作の
ような変化球に“めっけもん”が
混じっているので・・・
映画はやめられまへん。^^

拙記事にも言及してますが
フェリシティとW・H・メイシー(製作者)の
ご夫妻・・
なんとなく色違いのバンクロフトとブルックスの
お二人を私、彷彿といたしましたの。

>ひたすら自然体で対象にアプローチ・・

つまるところ、やはり、それですわね~♪

ところがギッチョン、その“対象に自然体”が

“ひたすら”、実は、難しい。

プロフェッサーが本記事をUPされた日、
マイクの前で私は「それに」
“アプローチ”、実感しておりましたの。(^^)

いささか遅ればせのTB&コメント、
入れさせていただきました。

オカピー
2008年05月27日 23:11
viva jijiさん、こんばんは!

>遅ればせの
実はお待ちしておりました。^^
記事の存在に気付いておりましたので、「特に意見が違うわけでもないのにどうして来ないのかな」と思っておりました。

>またか~アメリカさんの家族再生映画か~^^
やはり作り方ですよね。
ありふれた内容でも、ひねりがあり、演出と演技(と撮影)がしっかりしていれば観られる映画は出来る、というのが持論でございます。

>マイクの前で
拝読致しました。
僕はあがり症だから、人前で歌うなんてとても無理でございます。
自然体云々の前の段階でアウトです。
それにしても本格的ですよね。感心致しました。

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