映画評「娘・妻・母」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1960年日本映画 監督・成瀬巳喜男
ネタバレあり

成瀬巳喜男は時々小津安二郎的な作品を作るが、本作などタイトルバックの模様から小津作品そっくりで、加えて原節子が主演しているから錯覚に陥る。小津のようなローポジション撮影ではないので区別が付くような感じである。

還暦を迎えようとする小資産家未亡人である三益愛子の母、長男・森雅之とその妻・高峰秀子と息子、三女の団令子が暮らしている家に、交通事故で失った夫の保険金100万円を持って長女・原節子が戻ってくる。
 次女・草笛光子は大人しい夫を不甲斐なく思い、姑・杉村春子を置いてアパート暮らしを始めるべく姉から20万円用立てて貰う。長男が同様に50万円を借りて用立てた妻の叔父である実業家・加東大介が倒産の末に逐電してしまい、抵当に入れた屋敷を処分する羽目になり、兄弟の間で財産分与と老母を誰が面倒みるのかという問題が湧き上がる。

画像

今ほど核家族化が進んでいないが家族の人間関係がどんどんドライになりつつあった昭和35年頃の日本の世相を写生した典型的なホームドラマである。
 ドライさについては年が若くなるほど顕著になるという図式を井出俊郎と松山善三の脚本コンビははっきりと打ち出していて、三女の割り切った性格は最初のうちは可愛らしく感じられるが終盤には現実主義的すぎて嫌味に感じる部分も出てくる。次男・宝田明はドライな癖に妻・淡路恵子の毎度の家出には煮え切らない態度を取り、21世紀のやさ男風情とさほど変らない。

画像

対照的に長男と長女は情にもろい古い人間として扱われているが、50年代崩壊の萌芽状態にあった我が国の家族関係に希望が持ち切れず悲壮感が漂う小津と違って本作が若干楽観的な感じがするのはそうした人物の配置故である。
 長女は再婚に当って母を引き取ることを条件とする。長男の妻も自分たちが引き取るのが最も自然であると言う。「他人だから素直に接することができる」という彼女の心境は「東京物語」の嫁に近く、その嫁を演じた原節子相手に高峰秀子が姑思いぶりを発揮するのだから、この脚本コンビはなかなか隅に置けない。原節子に割り当てた台詞もどこか小津風でにやり。

画像

これまた小津組の笠智衆が小遣い稼ぎに赤ん坊を連れ回している幕切れは、将来起こるであろう老後の男性の一人暮らしが如何に難しいかを暗示的に描いて興味深い。

といった次第で、映画としてはそう面白味があるほうではないが、リズムを崩さず淀みない語りは成瀬の成瀬たる所以。類似作「女の座」より首尾一貫した出来栄えと思われる。

東宝映画ならで、東竹(とうちく)映画ですな。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

2008年05月29日 16:32
ここでの原節子は「東京物語」に似てましたねー!
<将来起こるであろう老後の男性の一人暮らしが如何に難しいかを暗示
そうだったんですか…。私はもしや今度はお母さんとこの老人のロマンスが始まるのか?と、それこそ楽観的に見てました^^;)。
オカピー
2008年05月30日 02:18
ぶーすかさん、こんばんは!

「東京物語」よりは世相風刺的な作品だったと思います。
原節子はおっとりしていましたが、彼女の脊中を見て仲代達矢が<結婚への憧憬>を表情で表わす場面もなかなか良かったです。ちょっとこの記事では書ける流れにならなかったのですけどね。

>男性の一人暮らし
本作の中で笠さんの演じる老人は、子供も孫もいる大家族の主人なんでしょうけど、邪魔者扱いされて、赤ん坊を乳母車でひきまわすバイトをしているという設定ですよね。老人は「男の年寄りは役立たずでどうも」とぽつりと洩らす。その後三益愛子が手助けに入るのは図らずもそれを証明してしまうわけで、核家族になり妻に先立たれた老人はどうするのかと暗に示されているようですよ。
この老人、序盤にも少し顔を出していました。
2012年04月08日 20:04
久しぶりにオカピーさんと話せてうれしく、こちらにもお邪魔してしまいました。
>未だに新作映画鑑賞に・・・
わたしも「ヒューゴの不思議な発明」なんかは、ノスタルジックな興味を持っていますし、最近はDVDでガールズものなど楽しんでいますよ(我ながらキモイ感性ですが・・・)。

さて、この作品は先週の日曜日に鑑賞致しまして、やはりショッキングでしたねえ。小津監督の後継ともいえる作品ですよね。
それにしても、みんな余裕のない生活を送っていますよね。所得の問題じゃあない。何が一番大切かと言うことですよ。
根元的なんですが、自らリスクを選択できるか否か。難しいですけれど家族においてすら大切なことを忘れていますよ、現代は。

>直リン・・・7~8点の映画の魅力は、10点の映画とはまた違った愛おしい・・・
オカピー評信奉者としては、言わずもがなでございます。
特に「シシリアン」は英語版ゆえ-★ですから、実8点・・・わたくしとしても、「さらば友よ」とともに最近、最も好きな作品ですから、うれしい限り。
「太陽がいっぱい」やヴィスコンティ・ロージー作品は別格ですからねえ。

では、また。
オカピー
2012年04月09日 21:38
トムさん、こんにちは。

アラン・ドロンと関係のない作品に関するトムさんの傾向が良く解らないのがなんてんのどあめですが(古い洒落)、実際には色々と新作もご覧になっているようですね。
なかなか新作と縁が切れないのが映画ファンの宿命なんでしょうなあ。

>ショッキング
本人が生存中なのにかなり小津作品を意識した作品のようで、タイトルバックもそっくり、台詞も一部小津調でしたが、扱っている内容は数年くらい先を読んでいる感じもしましたね。
群馬県でさえ世帯数の人数が3人に達しないんですからね。我が町というか村というか、人口は減り続けているのに世帯数だけは増えているんです。エネルギー観点からも核家族は本当に問題。僕に言わせれば、田舎の核家族は個人のわがままから生まれたものですから、ある意味腹が立ちます。
一時、真剣に税を優遇して核家族を減らすべきと思っていましたよ。一昨年だったか、僕と全く同じ意見が新聞に載っていたのには笑いましたけど。

お粗末な限りですが、末永くお付き合いください。まだ取り上げていないドロンの重要作品が幾つもありますしね^^

この記事へのトラックバック

  • 娘・妻・母

    Excerpt: 娘・妻・母 またまた成瀬巳喜男です。 表紙が白黒ですが、映像はカラーです。 ++story+++ 実家に帰っていた長女・早苗(原節子)のもとに夫が事故にあったと訃報が入る。 日本.. Weblog: cino racked: 2008-05-27 12:17
  • 成瀬巳喜男×原節子「娘・妻・母」「めし」

    Excerpt: ●娘・妻・母 ★★★★★ 【NHKBS】三益愛子、原節子、高峰秀子、森雅之、団令子、草笛光子という、豪華キャストの成瀬巳喜男版「東京物語」という感じで、大家族がバラバラになってゆく様を人情味たっぷり.. Weblog: ぶーすかヘッドルーム・ブログ版 racked: 2008-05-29 16:26