映画評「紀子の食卓」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年日本映画 監督・園子温
ネタバレあり

昨日の「無花果の顔」に続いて、これまた問題作である。園子温(その・しおん)は初体験だが、面白そうな人ではある。

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17歳の高校生・吹石一恵が自*殺サイトと思しきHPで知り合った本名も知らぬ女性・つぐみを頼って家出をする。
 これが第一章で、とにかくヒロインがのべつ幕なく喋るのに恐れ入る。これは文学であり、映画的な面白味は殆ど見い出せない。

第二章では彼女の妹・吉高由里子が同じサイトを見て姉を追いかけて家出するのだが、ここで妹が家出をした時に父親・光石研がどういう反応をするかシミュレートしてから家出をするという趣向は後半明確に出てくるテーマに深く関連して興味深い。映画的にもなってくる。
 この二章で初めて実際に出会ったつぐみ演ずる女性の正体が判ってから本作はやっと本番に至る趣。即ち、自*殺サークルと思しきかの集まりはお金を貰って家族を演ずる<レンタル家族>を構成するグループで、ヒロインがハンドルネームでつぐみの<家族>と付き合ううちにそれが仕事であると判明する展開が巧妙である。

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姉妹に次々と失踪され妻にまで自殺された父親は新聞社を辞めて姉妹の行先を追い求め、その仕事を逆に利用して遂に対峙することになるのだが、偽りの人生を演ずる姉妹にアイデンティティーはもはやない。

園という監督は「自*殺サークル」という作品も作っていて自*殺サイトに興味を持っていることが伺われるが、これはその興味から発展的な着想を得た実験作品で、恐らくはそうした青少年が生まれやすい家庭に仮面家族的なものを見出したのであろう、現在の家族は人々が家族を演じる虚構なのではないかと問題を提議するのである。さらにその先には自己を失った現代人の姿がある。

そして終幕に至り、妻を除く実際の親娘が家族を演ずるうちに虚構の中に現実、現実の中に虚構が滲み出、それがやがて合せ鏡のように無限に展開していくのを見ると、常識的に<家族>や<自分>と付き合ってきた観客は得も言わぬ不気味な恐怖を覚えるはずだ。

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全般に文学的な感覚が優先する作品ではあるが、後半になると同一人物でありながら別の人間として少女たちが振舞う部分に映画ならではの具体性が力を発揮、進行するに連れ映像の面白さが増していく。
 しかし、僕は家族に対してそういう偽善的な印象や懐疑を抱いたことがなくこれから抱く必要もなさそうなので、現代文学的テーマとして理解するのはたやすいものの、今一つピンと来ないところがある。

配役では、つぐみが悪夢を見そうな思いを抱かせる怪演。

純文学もSFもホラーも極端になれば区別が付かなくなる典型ですな。

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この記事へのコメント

2008年04月07日 21:14
TBありがとう。
全然、違う話ですが、自民党などが用意しているフィルタリング法令が出来た場合は、こういう作品に対する議論もたぶん18歳未満の人は、参加できなくなりますね。馬鹿馬鹿しいことです。
オカピー
2008年04月08日 03:37
kimion20002000さん、こんばんは。

その一方で、成人を18歳に下げようかといった動きもありますよね。
どっちが本当なんでしょうか?
日本の政治家は真似が好きで「どこの国では何たらかんたら」ですから。
2008年04月08日 20:52
こんにちは♪
園子温監督の「自殺サークル」も見てみたいですが、ちょっと躊躇してしまう部分もあります。

>僕は家族に対してそういう偽善的な印象や懐疑を抱いたことがなく~
オカピーさんのこの部分は私も同じ気持ちです。
なかなか真には理解できないというかピンと来ないところがあります。
オカピー
2008年04月09日 03:31
ミチさん、こんばんは!

>「自殺サークル」
自殺自体には興味がないですが、本作を理解する上でも興味をそそられますね。
ちょっと文学寄りという気がしていまいたが、園さんは詩人だそうです。それでちょっと面倒くさい感じなんだな。

理屈で解るのと肌で解るのはやはり違いますよねえ。しかし、こんな世界を肌で解ったら、そのほうが怖いです。^^;

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