映画評「クィーン」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年イギリス=フランス=イタリア映画 監督スティーヴン・フリアーズ
ネタバレあり

日本と英国は同じ島国、議院内閣制による立憲君主国、車の左側通行といった具合に実に似ている国である。
 しかし、日本では皇族を正面から描くだけの自由がない。恐らくは天皇がかつて神として扱われていたからだろうが、例え公的な姿であっても王政復古以降の天皇を形式的とは言えテーマとして描いたのは「明治天皇と日露大戦争」(とその続編)くらいなものであろう。ところが、本作ではプライバシーを中心に現役の女王が描かれ、英国の度量の大きさに驚かされる。天皇が現人神であった日本と、君主が神と国民に仕える英国との違いなのかもしれない。

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さて、90年代半ば僕には当時のダイアナ妃がとんでもない悲劇に見舞われる予感があり、1997年8月にその予感が最悪の形で現実化してしまった。何とも嫌な寒気が背筋を走ったものである。

1年前に籍を除いたダイアナがパリで交通事故死した後王室実質上エリザベス女王(ヘレン・ミレン)が何のコメントも残さず、ウェストミンスター寺院での国葬が決まった後もバッキンガム宮殿に半旗を掲げないことがダイアナを愛していた国民の怒りを買う。着任して3ヶ月の新首相トニー・ブレア(マイケル・シーン)は火消しに躍起になり、女王に伝統を破る四つの提案を実行するように懇願する。

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つまり、ダイアナの死により傾いた王室への信頼を新首相ブレアの手助けにより女王が千年の伝統を突き破る決心をして再び信頼を取り戻す、というだけのお話である。女王もブレアも事実に即した範囲で実に素晴らしく有能な人物に描かれているので、日本なら到底無理でも英国で許されるのは不思議ではない。
 そも以前に日本の皇族にはあれほど行動の自由がないであろう、という印象も残す。

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主題は専ら女王の動揺する心理で、周囲の人物との絡み合いに感応するように登場する、ダイアナ元妃の隠喩とも思われる美しい大鹿の扱いが実に上手い。最初は射撃の対象でしかなく、やがて川で車を壊してしまった女王が「逃げてほしい」と願い、最終的には部外者に殺されてしまう、という鹿を巡るエピソードの変遷と描写から女王の揺れ動く心理の綾が象徴的に浮かび上がってくるのである。「ヘンダーソン夫人の贈り物」に続いてスティーヴン・フリアーズの演出は好調。

配役では女王を演じたヘレン・ミレンが圧倒的で、いつしか本人に見えてくる。ブレアに扮したマイケル・シーンは特徴的な笑い方に工夫が見られ、物真似の域としては上出来。

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この記事へのコメント

シュエット
2008年03月07日 09:18
P様へ、おはようございます。
「クィーン」TBさせていただきます。
本作みて、こういう映画、内容、王室内の日常会話などここまで描けるということに、雲上人としての天皇家と王室という感覚の違いもあるのでしょうけれど、やはり国民性の違いか、と感じましたね。王室からも規制とかクレームもなかったそうです。「ヘンダーソン夫人の贈り物」劇場で見逃して、昨日の放映を録画して、週末にでも見ようと思います。見たらまたそちらにもコメント入れさせていただきますね。
オカピー
2008年03月07日 18:04
シュエットさん、もう「こんばんは」の時間になりました。^^

皇室と英王室は似て非なる典型ですね。
そもそもあのような露骨なスキャンダルの対象にはなりません。
その代わり何とも陰湿な報道合戦が週刊誌では行われていますよね。

日本ではまだ昭和天皇すら描けない。
国民が野暮ったいと言っても良いでしょう。
似たような場面が出てくると「パクリ!」と騒ぐ日本人の国民性は、良く言えば潔癖ですが、実は野暮で、強く言えば民度が低いですね。

本作では中心人物のお二人とも良く描かれているので、開けた国民性の英国では問題のない範囲と思いました。

「ヘンダーソン夫人の贈り物」は実に良い映画でしたが、ブログの記事も少ないですし、アクセス数も限定的。そんなわけで、シュエットさんからのコメントをお待ちしておりますですよ。^^
2008年03月09日 08:38
オカピーさん、おはようございます!
忍びの術、ありがとうございました。
イギリス王国がとっても庶民的に描かれていましたね。
女王のナイトキャップ姿なんかもほほえましかったです(笑)
フリアーズ監督って男女のやりとりがうまいですよね。
ただの恋愛というよりも友情のようなものを描いて、丁々発止のやりとりが面白いです。
「グリフターズ」とか「ハイ・フィディリティ」も好きです。


オカピー
2008年03月09日 14:24
しゅべる&こぼるさん、こんにちは!

日本の天皇は、昭和天皇が「人間宣言」をしたとは言え、有史以来現人神として扱われていたので、庶民的に扱うなどご法度ですよね。^^;

「グリフターズ」は切れ味鋭い犯罪映画でしたね。
「ハイ・フィデリティ」は音楽好きなので、やはり楽しめました。
「危険な関係」も元来このお話が好みで、なかなか上手く演出したなと思っております。

しかし、二作連続して情景に登場人物の心理を上手く沈潜させる手腕を発揮して、一気に監督としての評価を上げたくなりましたよ。^^

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