映画評「灯台守の恋」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2004年フランス映画 監督フィリップ・リオレ
ネタバレあり

フィリップ・リオレにとっては「マドモワゼル」と連作的関係にあると言って良いドラマ。

画像

1963年、フランス北西部ブルターニュ地方の最西端にあるウェッサン島、そこの灯台守の一人が亡くなり、アルジェリア戦争からの帰還兵グレゴリ・デランジェールが補填としてやって来る。
 フランスにありながらケルト文化を継承する排他的な島民は彼を冷たく扱うが、亡くなった灯台守の娘サンドリーヌ・ボネールの家に住み込み缶詰工場でバイトをするうちに灯台守のリーダーたる夫フィリップ・トレトンの心も氷解し友情を育む。
 女性たちは意外に開放的で、後に下宿する家の娘も若くてハンサムな彼に恋をするが、彼が心を動かされたのはサンドリーヌであり、彼女もまた彼に惹かれる。一部保守的な人々が青年を追い出そうと画策するが、友情を育んだトレトンは二人のけしからぬ噂を聞いても彼を憎むことができない。青年が恋より友情を選んで一人島を去るような愛すべき人物だからである。

画像

という物語が、およそ40年後サンドリーヌが産んだデランジェールの娘アンヌ・コンシニーが住人のいない住居を売約する為に島を訪れた時一度だけ結ばれた相手にその死も知らず届けられる彼の著作を読み進める変則的回想形式で展開する。

さて、芸術的に良い映画になる要件は簡潔・省略である。省略が過ぎると説明不足に陥り独善的になるが、本作は説明不足と思えるほど心理に迫ろうとしないのに独善的にならず、却って映像から登場人物の心境を読み取る興趣を覚えさせる。

画像

例えば、トレトンが一早くデランジェールを認めるのは彼自身がかってよそ者で必死に働いてサンドリーヌを娶った過去と重ねることができるからであろうし、その彼女が彼に惹かれる背景は恐らく夫に起因する理由により子供を授からない境遇であろうし、トレトンが二人の密通を知っても怒らない、いや怒れないのは友情だけにあらず、自分の腑甲斐なさをよく知っているからであろう。

画像

こうした洞察ができるのは、例えば手製のアコーデオンや壊れた時計をめぐる登場人物の挙動や交わされる視線が限られた台詞を基にしっかりとした伏線となっているからで、単なる灯台を捉えたワン・ショットにもデランジェールやトレトン、時には家から眺める女性たちの心境が深く沈潜することになる。
 かかる三者三様の発声されない心理の交換を40年後三人(そう言って良いであろう)の娘が知り、そんな思いの染み込んだ家を手放せなくなる幕切れが大きな感慨を呼ぶ。

画像

「マドモワゼル」の中で<灯台守の恋>が話されるので、両者を続けて観ると感激も倍増するであろうが、勿論単独でも十分満足できる出来栄えで、ちょっと面白味のある小品といった印象の前作よりぐっと胸に迫る。

「喜びも悲しみも幾歳月」の灯台守夫婦は渡り鳥でしたな。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

2008年03月18日 16:54
まさしく、いまどき珍しい(笑)
大人のための大人の映画でございました。

そして
とても“いいお話”。

主要な3人がまた真摯な上に
それぞれに“品”があるのよね~。^^

物語の舞台設定もなかなか意味深・・・
荒々しい海に堅固に立つあの灯台の姿、
因習に縛られた辺境の地・・・

本作で、F・リオレ、私の気になる監督の
ひとりになりました。
「マドモアゼル」も観たいと思っております。
オカピー
2008年03月19日 02:34
viva jijiさん、こんばんは!

>大人のための大人の映画
ええ、ターゲット年齢を年ごとに下げ日本映画に近づいている
ハリウッドの映画には殆ど求められないタイプです。
似通ったところのある「マディソン郡の橋」も近年のハリウッド
映画とも思われぬ大人向けの秀作でしたよね。
その意味では、本作の邦題は
「ウェッサン島の灯台」で良かったかも。^^

>主要な3人がまた真摯な上に
登場人物に常識がないと、心理ドラマは作れないんですなあ。
行動が予想できませんから。^^

>リオレ
日本で公開された三本は全て観ましたが、まだまだ掴み切れません。
時々クラシックなムードも取り込みます。
本作でも嵐の場面では、戦前のデュヴィヴィエ作品を思い出してしまいましたよ。
シュエット
2008年03月19日 20:19
P様TBとメッセージありがとうございました。突然にミンゲラ監督の訃報に、仕事の眼盗んで記事ちょこっと書いたりしていたもので…
これは劇場で観て、それからCSで「マドモアゼル」みて、それから再びこれをみたから、感慨一入でした。島の外の世界に憧れる女。女のために島に骨をうずめようとした男、そして心に傷ついて外の世界から逃れて島に来た男。灯台を核にして三人三様の人生の描き方、そこに男と女の愛だけでなく、マベも入れない男同士の友情も絡め、それが見事に絡み合い、愛が生まれる要素も、友情が生まれる要素も、観るものに納得させました。リオレ監督作品でこれが一番素晴らしいかと。パリ空港の人々は、まだもって行きたい結論に少し無理があるけれど、本作は、3人の感情の流れが無理なく誘われ…いやぁ、又観たくなりました。これみてマドモアゼルみたら、あの小作品もまた感動です。
オカピー
2008年03月20日 03:19
シュエットさん、こんばんは。

>ミンゲラ
コメント戴く前に御ブログに伺って記事が目に入り、びっくりしました。
まだ54歳で、脂の乗り切ったところなのに。
言葉もないです。

さて、本作ですが、昨年シュエットさんが「マドモワゼル」弊記事へのコメントで触れられたので、そのつもりで観たせいもあって、じーんと胸に迫りました。
観終わった当初より、書いていうちにさらに感激が深まってきましたよ。

本作に関してはシュエットさんの文章を読むに如かず。^^

この記事へのトラックバック

  • 灯台守の恋

    Excerpt: フランス最西端ブルターニュ地方 その端のフィニステール県、 フィニステールとは 最果ての地という意味。 またその端の小さな小さな島 ウエッサン島。 ケルト文化が色濃く残る孤島。 その島の.. Weblog: 映画と暮らす、日々に暮らす。 racked: 2008-03-18 16:37
  • 灯台守の恋

    Excerpt: 「お~いら岬の~♪灯台守は~♪」という歌でもお馴染みの灯台守の物語。   ついつい木下恵介作品の『喜びも悲しみも幾歳月』と比較して観てしまいました。結局、共通点は灯台守という職業だけでしたが、日本と.. Weblog: ネタバレ映画館 racked: 2008-03-18 22:58
  • 映画「灯台守の恋」

    Excerpt: 映画館にて「灯台守の恋」★★★★ ある娘が亡き母の秘めた恋を描いた1冊の本を手にする。そこから時代を遡り、その秘めた恋が描かれる、という二重構造の作品。 二人の男の間で揺れる一人の女・・・フラン.. Weblog: ミチの雑記帳 racked: 2008-03-19 11:41
  • フィリップ・リオレ監督「マドモワゼル」そして「灯台守の恋」~その2

    Excerpt: L' EQUIPIER THE LIGHT 2004年/フランス/104分  「マドモワゼル」でピエールとクレールがそれぞれ語った「灯台守の恋」のお話が、こんな形で蘇ってきた。 .. Weblog: 寄り道カフェ racked: 2008-03-19 20:03
  • <灯台守の恋> 

    Excerpt: 2004年 フランス 100分 原題 L'Equipier 監督 フィリップ・リオレ 脚本 フィリップ・リオレ  エマニュエル・クールコル  クリスチャン・シニジェ    クロード・ファラルド.. Weblog: 楽蜻庵別館 racked: 2008-04-14 06:43