映画評「ジュリア」

☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1977年アメリカ映画 監督フレッド・ジンネマン
ネタバレあり

リリアン・ヘルマンは映画界にも大きく貢献したアメリカの劇作家であり、正式には結婚していないがハードボイルド作家のダシール・ハメットのパートナーである。映画ファンなら是非彼女の名前は憶えておいてね。
 その彼女の自伝的作品をフレッド・ジンネマンが映像化した作品だが、ハメットとの私生活や劇作に関する部分以外は殆ど創作と思って差し支えなさそう。

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1934年リリアン(ジェーン・フォンダ)がハメット(ジェースン・ロバーズ)に励まされて処女戯曲を書き続けるうち、幼友達ジュリア(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)との過去を思い出す。
 資産階級出身ながら貧富の差に疑問を感じたジュリアはオックスフォード大を卒業してウィーンに行きフロイトの助手を志願、反ナチズム活動に従事していた為暴動に巻き込まれ重傷を負う。
 処女作を成功させたリリアンはモスクワでの観劇に出かけることになるが、パリでオーストリア人(マクシミリアン・シェル)を通じジュリアから反ナチ活動費5万ドルをベルリンまで移送するよう頼まれる。

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本作のハイライトはこの移送を巡るサスペンスフルな冒険の旅である。
 大金を入れた帽子、チョコレートの箱、味方らしいが極めて怪しい人物といった小道具の扱い、検閲官とリリアンの目の動き、等々によりヒッチコック的と言っても良い強烈サスペンスが構成され、ジンネマンが「真昼の決闘」「ジャッカルの日」で示した抜群のサスペンス醸成力が大々的に発揮される。このままサスペンス映画として紹介しても良いような完成度の高さで、汽車の旅というのもムード満点だが、目的は、そんな危険に値するリリアンのジュリアに寄せる友情を描くことにある。

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そうして任務を無事果たした先に待っているのは暴動で片足を失ったジュリアとの嬉しくもあり痛々しくもある再会である。やがてジュリアは殺され、引き取ると約束した子供の行方が解らない。慰めるハメットも先に死に、老境に達したリリアンは孤独を噛みしめる。
 序盤浜辺におけるほのぼのとした作家パートナー同士の情景から、強烈サスペンスを経て、最後は沈痛な場面の連続となって憂愁を以って終わる。

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僕はこの映画を映画館で3回観ているが、四半世紀ぶりに観てやはりその映画的な美しさに感動し涙が出るのを止められなかった。
 回想シーンが縦横無尽に駆使されているが、ジュリアから難しい任務を頼まれたリリアンが逡巡して街を歩きながら、倒れた木を伝わって川を渡った少女時代を思い出し、勇気を奮い起す、という場面におけるフラッシュバックの挿入の巧さと効果! リズム、呼吸がこんなに美しい作品が80年代以降のハリウッドで誕生したであろうか。

主演の三人も抜群で、特にジェースン・ロバーズがお気に入りだった。
 そこで思い出すのが故・淀川長治先生の<東京映画友の会>において「最近良かった男女優の演技」というテーマで行われた発表会で周囲が余りに本作のジェースン・ロバーズを連呼するものだから、思わず「『ファミリー・プロット』のブルース・ダーン」と言ってしまったことである。女優は多分本作のジェーン・フォンダにしたと思う。<友の会>にはどうということのない役の新人メリル・ストリープに注目した先見の明のある方々もいた。

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この記事へのコメント

2008年02月25日 18:42
出ましたね、満点!^^

例によってボケボケテープしか所持して
いなかったので今回の放映は、
ほんと!うれしいっ!

かなめの中盤ドキドキも巧いのですが
私、冒頭のハメットとヘルマンの
やりとりシーンの雰囲気がとっても好き。

才能ある気丈夫な女を上手に操縦し
相手をも生かし、自分も生きる理想的な関係。
ジェイソン・ロバーズは、確かにいい男優ですけど
本作では、とにかく、役得よん。^^

「ローズ」での
ミドラーにふっついてるF・フォレスト、
「こわれゆく女」での
ローランズを見守るP・フォーク、
「モンスター」での
F・マクドーマンドを優しく
エスコートするS・ビーンとか
フトコロの広い男は、役得よ~ん(笑)

>B・ダーン

って言ったから
淀川センセに
“面白いこというね~”と
言われたのかしらん?^^


viva jiji
2008年02月25日 19:36
訂正です。
「モンスター」ではございません。
「スタンドアップ」でしたわ。(--)^^
オカピー
2008年02月26日 02:33
viva jijiさん、コメントかたじけないです。

これだけの傑作にコメントなしではジンネマンに
合わす顔がないところでした。

>満点
お話でなくて、映画そのものに感涙する作品なんてそうはないです。
満点も妥当と言うべしだわさ。
しかし、本館のベスト100に入れていないことに気付く。
どうしたことでしょう。^^;

>冒頭の・・・やりとり
火を囲んで、良いですねえ。

>ロバーズ・・・役得
まあまあ、そんなこと仰らずに。
やはり下手な人は場をああいう風に作れないでしょうから、
上手いんですよ。^^
痺れるねえ。

>B・ダーン
その通り!
どこかで申したような記憶がありますが、
姐さん、記憶力が凄いですね。
オロロキました。
ぶーすか
2008年03月07日 12:57
TBとコメント有難うございます。
バネッサ・レッドグレーブって知的なところが大好きな女優さんなんですが、こんなに若かりし頃の作品はこれを観るのが始めてでした。そしてますます大好きに。
さすが、オカピーさん、伝説の「淀川長治先生の<東京映画友の会>」に参加されていたんですね。羨ましいっす!
オカピー
2008年03月07日 19:31
ぶーすかさん、こんばんは。

>V・レッドグレーヴ
「わが命つきるとも」「欲望」「裸足のイサドラ」など初期の作品にも秀作が多く、意外と破天荒な魅力もありますよ。これらは今でも見られる作品群なので、是非ご覧になって下さい。

彼女はジェーン・フォンダ共々政治に関心の強い女優だったので、本作で二人が共演したことが映画マニアの間で話題になったのももう30年も前の大昔になりました。大学へ行って一番生意気な頃でしたかなあ(笑)。

>東京映画友の会
形だけは今も残っているようです。
僕は平会員でしたが、一緒に本作を観た親友は何年か会計をやっていました。彼は経済学部でしたから(関係ないか、^^;)。

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