映画評「ディパーテッド」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年アメリカ映画 監督マーティン・スコセッシ
ネタバレあり

スタイリッシュな映像で暗黒街を舞台に現実世界がいかに曖昧なものであるか哲学的に訴えて日本の映画ファンに好評だった「インファナル・アフェア」第1作をマーティン・スコセッシがリメイクした話題作。

アイルランド系マフィアのボス、ジャック・二コルスンを伯父に持つ少年がその庇護の下に成長してマット・デーモンになり警察学校へ入学、内通者としてマサチューセッツ州警察SIU(特別捜査班)へ配属される。
 一方、同期の秀才レオナルド・ディカプリオも同じ部署に配属されるが、一族郎党が碌でもない者ばかりだと挑発された挙句潜入捜査官に指名され、犯罪者の振りをして二コルスン一味に加わる。

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原作ものもリメイクも、オリジナルへの愛着が持つ人が多い為に、(実力のいかんを問わず)高く評価されることがオリジナル脚本に比べて難しい。
 純粋な映画ファンの場合原作については特に問題ないものの、リメイクとなると冷静に判断できないことが多くなる。本作は、IMDbで映画史上のトップ50にも選ばれる評価を得ているアメリカと違って、オリジナルが高く評価された日本においては映画ファンの間で酷評が目立つが、彼らは半可通ならではの間違いを犯しているように思う。

リメイク、なかんずくスパンを置かずに作られた作品、まして本作のように舞台を外国へ移した場合には特に著しく換骨奪胎されることになる。
 オリジナルは、スタイリッシュな映像に加えて、二人の正体を途中まで観客にも紹介しないミステリアスな展開にし、そこにアジア的な思想をまぶしたことが日本人の琴線に触れたのであろう。ところが、スコセッシは本作をそうしたミステリー性に頼らず、最初から二人の正体を明かすことで正攻法の犯罪サスペンスにした。
 時系列を崩してムードに逃げる昨今の映画構成術に対して挑戦状を叩きつけたようであり、「パルプ・フィクション」以来その手法に対して懐疑的な僕には一種の感慨がある。周囲がスタイルに走るせいでスタイリッシュだったスコセッシが相対的に正統派に見えるようになっただけでなく、意図的に正攻法の手法に拘っていることが伺え、時の流れを感じざるを得ないのである。

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従って、オリジナル同様にミステリアスな心理劇を期待しては、純粋に犯罪サスペンスを目指した本作では当てが外れるのは当然。
 本作とオリジナルの関係はデーモンとディカプリオの関係と同じと言っても良い。オリジナルが裏としていたものを表にするという、文字通り完全な換骨奪胎が行われているのに、或いは行われた結果、多くの観客が転換された本質に気付かないで映画館を後にすることになった。
 同じ部署の人間同士が身分を入れ替えその正体を知らされていないが故に高められていくサスペンスはオリジナルより遙かにがっちり構成されている。二人の正体を完全に知っている者が一人もいない故のサスペンスであり、ハリウッドが興味を示したのはその一点であろうと思う。【無間地獄の苦しみ】といった漠とした東洋思想がアメリカの合理主義的な人々の関心を呼ぶはずもなく、そこを見越してスコセッシはアメリカの都会ではこうして人が殺し合って死んでいくという現実主義的な立場を維持するのである。

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ただ、僕にしても不満がある。アメリカ的に合理的に処理していくと、このお話には些か無理が出てきてしまうのだ。例えば、ディカプリオがポルノ映画館で内通者即ち<ネズミ>を探し出そうとして、両者の顔を知っている二コルスンに顔を見られる危険性を犯すのは、実際的ではない。

一方で、スコセッシの茶目っ気をこれほど感じた作品もない。「サイコ」や「第三の男」にオマージュを捧げた後、最後は窓枠にいる本物のネズミを映してジ・エンド。スコセッシ親分も大分丸くなってきたようですぞ。

イタチごっこならぬネズミごっこでした。

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この記事へのコメント

2008年02月21日 22:43
オカピーさんこんばんは!
これでアカデミー賞とってしまったんですよね~。
今考えてもあまり納得いかないです。
やっぱりデ・ニーロとスコセッシじゃなきゃ!

スコセッシ監督、今度は精神病棟を舞台にしたサスペンスだそうで、またディカプー君と組むらしいですね。原作を捜索中です。
そうそう、第三の男とお墓のシーンがそっくりだったですね。
「わたし自身が映画である」とはスコセッシ監督のお言葉です。
彼の場合、映画史をあの早口で何時間でもしゃべってるから作品そのものよりもコメンタリーのほうが興味あります。

2008年02月22日 00:05
鋭い分析ですね~
確かにそのまんまリメイクだとアメリカ人には受けないのかもしれませんね。
時系列入替の手法は今後も多く出てくるんでしょうけど、慣れてくると、身構えちゃったりして、疑い深くなってしまいます・・・
オカピー
2008年02月22日 01:56
しゅべる&こぼるさん、こんばんは!

僕が一番好きなスコセッシ作品は、「アリスの恋」か「明日に処刑を」です。^^
変わり者ですかね?(笑)

>デ・ニーロ
彼とのコンビ作では「タクシー・ドライバー」が一番と思っていますが、30年前に観たきりなので、もう一度観たいと思ってはいます。
「レイジング・ブル」は肌に合わず、眠くなっちゃった。^^;
黒澤明と三船敏郎みたいな関係としては、もう一本傑作をドーンと残してほしいですね。

>映画史をあの早口で
昨年NHKで放映した<今村昌平への言及>は消せずに残っています。
困ったなあ、融通が利かない機械に残しちゃったんで。TT
オカピー
2008年02月22日 02:01
kossyさん、こんばんは。

アメリカ人と言っても勿論色々いますが、そもそも他国の文化などに関心のない人たちの集合ですから、まあそんなもんでしょう。

>時系列入替
仰る通りで、疑心暗鬼になってしまいますね。
そこが作者側の狙い目でもあって、現在の隆盛の理由なんでしょうけど、時系列通りに頭の中で組み替えると大したことのないものが多い、ということに気付いている僕は不幸なのかもしれません。^^;
シュエット
2008年02月22日 10:54
う~ん、P様のレビュー読んで見てみようかなって気に…。
インファナル・アフェアがお気に入りの私には、アメリカにこのストーリーをおいてしまえば、単なる警察とギャングの攻防戦にしか過ぎんやろうう。インファナルでは香港の中国返還を絡めたあのあたりが味付けになっている。それにディカプリオの甘さはどうかな?なんて観た後の後口を気にして観なかったんですよ。放映されているけれどそれも観ていない。
ちょっと気になりだしてきました。
それと「映画術」一度は書店で手にとってはみたものの、ちと高い!で、棚に戻したんですけど、「アメリカの夜」のコメント読んで、こちらも、妙にもぞもぞと気になりだしております。
オカピー
2008年02月23日 03:45
シュエットさん、こんばんは。

僕は何でも作品の主題・性格に応じて楽しむことができるので、これはサスペンスフルな犯罪劇として結構楽しみましたよ。
アカデミー作品賞に値するかはまた別問題ですが。

>単なる警察とギャングの攻防戦
それ以上ではありますが、それに近いかもしれません。
スタイル、ムードを期待すると、かなり失望するだろうと。

>「映画術」
確かに高いので(僕が買った頃はそうでもなかったような?)、ヒッチの名言は僕がおいおい紹介していきますよ。^^
2008年02月23日 16:21
こんにちは。

スコセッシの成熟度が感じられた作品でした。
初期のヒリヒリとした感覚も捨てがたいですが、
こういう大人の映画もいいもの。
ほんとうに、堂々とした映画でした。
シュエット
2008年02月23日 22:43
「ディパーテッド」観ました
「インファナル・アフェア」では、一人は自らのアイデンティティのありかにもがき、一人は「善人」になりたいと偽りのアイデンティティに重ねていき、トニー・レオンとアンディ・ラウが表と裏の関係にあるような、ある意味メロドラマ的な、登場する男たちの挽歌的な心情ドラマが女性ファンにも受けたんでしょうね。私もその一人なんですけどね(笑)。
「ディパーテッド」は、潜入捜査とスパイのあぶり出し、その一点における警察とギャングの抗争に照準をあわせ、そこを克明に描いていった。オリジナルは案外こういう部分はドラマを盛り上げる一要素的な描写に終始していたような、その点では、オリジナルよりも本作の方が潜入していく過程や、一つ一つの事件ディカプリオの精神的な極限状態、デイモンの成上がっていく様、そこから沸いてくる驕りといったものについては、とても説得力があって見応えがありました。見比べると、オリジナルはやはり男達の悲哀を綴った心情ドラマだなぁって思いました。
シュエット
2008年02月23日 22:46
(続き)ただ、後半、最終辺りは単なる復讐劇になってしまった感ありで、私にはちっとがっくりしました。本作、特にディカプリオの演技は評価もの。本作はみていて「ネズミ」といわれる表現がつくづく当っているなっていう彼らの動きに、こちらの方がはるかに無間空間だわって、観ていてしんどかったです(笑)。
私はヤクザな生きかたしているけれど、クズみたいな奴らだけど、どっか愛すべき奴らといった、人間的な愛が流れていた「ミーン・ストリート」「グッド・フェローズ」なんかの方が好きだな。
長くなってすみません。記事にするところまでいかないので、観た感想書かせていただきました。それとヒッチの名言お願いしますね。
オカピー
2008年02月24日 01:00
えいさん、こんばんは!

>初期のヒリヒリとした感覚
そういう表現も言い得て妙ですね。
先日商業映画デビュー作「明日に処刑を・・・」を久しぶりに見ましたが、荒っぽい描写の積み重ねの中に確かにヒリヒリするものを感じさせました。
35年の月日を経てスコセッシも随分文法通りに作るようになったなあ、と感慨もあるのでした。
それがスコセッシへの批判に繋がっているのでしょうかねえ。
オカピー
2008年02月24日 01:22
シュエットさん、こんばんは!

>アイデンティティ
このテーマは実は日本の忍者映画がお得意としていたもので、二度映画化された「梟の城」もアイデンティティに苦しむ話。
案外香港映画人はこうした日本映画を研究しているかもしれませんね。

>説得力があって見応え・・・オリジナルは・・・心情ドラマ
リメイクはミステリアスな部分を排除しましたから実録的な場面の積み重ねにより厚みが増して行くんですよね。
香港版は正にそうでしょうね。だから、僕は「香港の降籏康男だ」と称したんです。シュエットさんは邦画が苦手ですが、「駅ステーション」「鉄道員(ぽっぽや)」を作った人です。^^

>こちらの方がはるかに無間空間だわ
やはり行間が読めますね、シュエットさんは。
若い方は<無限地獄>の空気をスタイルを駆使して作らないとそう感じない。スコセッシは言わば描写だけでその感覚を生み出す。
オカピー
2008年02月24日 01:25
(続くのです)

>愛すべき奴ら
ちょっと系列は違うのですが、公式デビュー作「明日に処刑を・・・」を評価している、と言うと変わり者扱いにされそうですが。
おおっ、そう言えば、学生時代に作ったとか言う「ドアをノックするのは誰?」で、ドアーズ「ジ・エンド」が使われていましたよ!

>ヒッチの名言
了解であります。^^)ゝ
2008年03月29日 04:13
TBありがとう。
脚本・構成はすごくよくできていますね。
でも、僕も人並みに、「無間地獄」の東洋的諦念に惹かれます。
それと、女性の描かれ方に、重層性がないなあという印象を持ってしまったんですね。
オカピー
2008年03月30日 00:25
kimion20002000さん、こちらこそ有難うございます。

僕はスタイリッシュな映像と凝り過ぎた展開に却って嫌らしさを感じた口ですから、冷静に対応はできました。
あの映画館の場面などはタッチが平明すぎて興醒めてしまうところもありますが、しっかりできた作品とは思いましたね。

>女性の描かれ方に、重層性
敢えて単純化したと思いました。しかも、同一の女性を二人の恋人にしましたよね。
これは、彼女を両面のマジック・ミラーという扱いにしたのだと思うわけです。観客は、マジック・ミラーですから双方から相手を透かして見ることができる。香港シリーズが最終作で繰り広げたことを女性を単純化することで実現したのだ、と。

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