映画評「エコール」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2004年ベルギー=フランス=イギリス映画 監督ルシール・アザリロヴィック
ネタバレあり

サイレント時代の名作「パンドラの箱」の原作戯曲や「春のめざめ」で有名なドイツの劇作家フランク・ウェデキントの短編小説「笑う水」を、フランスの女流映像作家ルシール・アザリロヴィックが映像化した作品だが、映画を余り文学的に観ないことにしている僕には悩ましいことこの上ない。

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奥深い森の中にある屋敷で、棺桶に入れられた6歳のアジア系少女イリス(ゾエ・オークレール)が目覚め、丁度日本の小学生全体に相当する年齢の少女たちと共にバレエの訓練を始め、服従することが幸福への道と教えられて過ごし、最年長のビアンカ(ベランジェール・オーブルージュ)を強く思慕するようになる。一方、逃げ出そうとして水死する者や見事脱出する者もいる。

といった中盤までは、ドラキュラを思い出させる棺からの登場場面、半裸で水浴びする少女達の姿や、亡くなった少女を火葬に付す場面、蝶やさなぎについて語る場面の野趣が幻想性を帯びて魅力的。

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終盤、ビアンカ等の年長組は観客の前で練習を積んだバレエを披露し、その公演料によりこの閉鎖的な学校もどきが経営されていることが我々映画の観客に知らされ、やがて最年長の少女達は地下鉄で屋敷と繋げられた街(新たな学校?)に解放される。

純粋培養されたさなぎの状態を過ぎ蝶として飛び立つ彼女たちはこの汚れた世界で幸福を掴めるのか、という思いを抱かせる幕切れだが、作者がそうしたテーマをそこに込めたかどうかは定かではない。最初から最後までとにかく情報も説明も少ない作品であるが、極めて異色な寄宿学園ものと言えるとは思う。余りにミステリアスなので怪しげな展開を予感させるものの、案に相違して意図的な性的描写は認められない。

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少女を巡る神秘的なお話という点でヴィクトル・エリセの秀作「ミツバチのささやき」を想起させるところがあるが、あちらは内戦時代のスペインという時代性の中に少女の心象風景を溶け込ませた、ある意味捉えやすい作品であった。こちらは良くも悪くも、大量の少女群から発散される独自な匂いと一種官能的なムードが作品を支配しているので、そのムードを楽しめるかどうかにより作品への思いも変わってくるであろう。

不親切な作品と思いつつも、強烈な芳香に捨てがたいものがあり、未だに☆付けに苦しめられている。

室生犀星も女学生の群れを「蝶」と称して描いていましたよ。

この記事へのコメント

2008年02月02日 15:57
こんにちは♪
いつもお世話になっております。
本当に最後まで不親切な作品でしたね~(笑)
でも、なにかとても惹かれるものをもった作品でもありました。
昨年のベストテンにも入れてしまったくらいです。
オカピー
2008年02月03日 01:04
ミチさん、こんばんは♪

僕は一応標準よりは上という程度に留めましたが、所謂一般的な尺度では測れない部分もあるようで、評価に大いに迷っております。
ミチさんの感性に合ったようで、良かったと思います。

僕が引き合いに出した室生犀星はミチさんちの近くですね♪
シュエット
2008年02月03日 18:32
これ劇場で観たんですよ。
結局、私よく分からなかったし、そそられるような映像は多々あったのですが、あえてもう一度観たいと思えるような物でもなく、「ミツバチのささやき」のようにその底に流れる感情というものが、読み取れなかった作品です。今放映されているけれど、見てみようと思わないのは、きっと、訳が分からないけれど、なぜか惹かれるものがあるかどうか、そのあたりが大事だと思うんだけれど…。よく分からないんですが、P様も……悩んでいる。
オカピー
2008年02月04日 01:40
シュエットさん、こんばんは♪

>「ミツバチのささやき」のようにその底に流れる感情
そんな感じです。
形式に終ったと言いますか。
例えば、何だか解らない序盤の映像と音が最後の場面の伏線だったりするのは、ミステリー作家が構成を楽しんでいるような。

未成熟の少女を中心に基本的に女性しか出てこず、それも森や湖に囲まれて、当然不思議な魅力も生まれているのですが、抗しきれないという感じではない。
そして、ただの独善とも言い切れず・・・といったところですかね。
2008年02月23日 03:01
TBありがとう。
やはり、孵化を迎える前の、あやうい魅力でしょうね。
この少女たちが、このあとどこに行くのか、いろんな想像がされます。
オカピー
2008年02月23日 20:02
kimion20002000さん、こんばんは。

僕は左脳人間なので、理屈で処理しきれない作品は「独善」などと言って余り評価しないことが多いわけですが、本作はかなり不親切な作品にも拘らず、そういう不満はなかったです。

>孵化を迎える前の、あやうい魅力
そうなんでしょうね。
そこだけに集中して興味が持つ男性が、所謂ロリータ・コンプレックスと言われるわけですね。(笑)
2008年03月13日 22:08
こんばんは。サイトへのコメント、ありがとうございました。

この映画は映画館で当時、公開初日くらいに観ました。
右脳系の映画が得意な私には珍しく、今一つ釈然としない、つまり刺さらなかったアート映画です。
私の方は映画紹介の際には『まあ、乱暴に一言でまとめると、「究極の耽美的ロリコン映画」』 ・・・と書いてしまったくらいですので(笑)

この映画の敗因は「テーマや伝えたいメッセージを、抽象的な隠喩も用いた上で美しく映像化」したのではなく、まず先に「見せたい画、少女の危うくも美しい姿と森林という構図」があって、そこに後付けでテーマや中途半端なストーリーをつけたような印象を観た人に与えてしまうところではないでしょうか?
そのせいかヴィスコンティ映画のような「メッセージありき」で、そこに最も適した耽美的映像を当てていった映画と違って、どこか「美大生の自主制作映画」みたいな印象を残した気がします。
あくまでも個人的な意見ですが!でも画的に好きなシーンはかなりありました。
オカピー
2008年03月14日 02:36
RAYさん、コメント有難うございました。
TBも歓迎致しますよ。^^

>左脳VS右脳
恐らく作者は右脳人間の典型みたいな人なんだろうと思っていますが、余りに感性だけで作っているので、却って右脳型と相性の良いRAYさんの拒否反応に遭ってしまったのでしょうか。
僕は、さる番組でやっていた知能テストの結果左脳・左脳タイプということが判りましたが、完全に否定しきれないところがあるのが不思議ですね。^^;
敢えて言えば、舌足らずである点は多々認められ、「美大生の自主制作映画」といった表現は的を射ていると思います。

しかし、映像がお気に召したようで何よりでした。
2008年03月15日 00:09
たびたびお邪魔します。
お言葉に甘えてTBさせて頂きました!

私の方は本能的には完全に右脳人間なんですが、本業の仕事がマーケティング分析なので、日中は左脳人間であることを求められる機会が多いです(笑)その仕事柄なのか、社会派作品など左脳人間の皆さんがお好きな映画が、自分にもストライクなことも案外多かったりします。

ところで「エコール」と似たテーマの映画に75年作品の「ピクニック・アット・ハンギングロック」というのがありましたが、こちらはピーター・ウィアー監督のデビュー作だけあって、かなりの秀作でした。
「エコール」が結局のところ少女漫画的な印象に留まるのに対して、「ピクニック~」の方は高度なミステリー小説的で、かなり印象的な作品でした。
オカピー
2008年03月15日 03:04
RAYさん、こんばんは!

>マーケティング分析
なぬなぬ、イラストは本業ではござらんでしたか?
二重人格的ですなあ(笑)。

勿論僕も理論的な作品ばかりが好きなわけではなくて、かなり美術的な作品の中にも好きな作品があります。
寧ろメッセージが重要な作品は欠点も見えやすいので、評価が厳しくなることも多いです。力のなさをメッセージで誤魔化す作品も少なくないですよね。

>ピクニックatハンギングロック
新しい作品が評判を呼んでの公開だったような記憶がありますが、僕も高く評価した作品です。
それに比べると本作が<少女漫画的>という表現も大いに納得です。

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